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下心

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「………おともだち……ぴくにっく……」
「シ、シオン………」
「ああ!いいね、それ!いいんじゃな?別荘だろう?王子宮でやり直しもいいけど、どうせならルエナ嬢の『良い思い出』のところに行こう。てか、それだって『ぼんやり』っていうなら、行けばどうして『楽しかった』のか思い出せるかもしれないだろう?」
三者三様の反応に、シーナはニッと笑う。
「せっかくだからフルーフ夫人にもお声がけして、皆で行かない?アルもお母様のご実家のある領には行ったことがないと言っていなかった?」
「そう……だな……」
シーナが兄を愛称で呼ぶのを素早く聞きつけてルエナはわずかに顔を歪めた。

──いったいいつの間にふたりの距離が縮まったのか。

実際はルエナを除く三人はもっと前から秘密を共有する『幼馴染み』であったためだが、それも追い追い説明してみんな同じように仲良くできたらいいと、少し顔を逸らすルエナを目の隅に認めたシーナはアルベールに夫人にも同行してもらえるようにとさらに強請った。


貴族学園ではまた小さな騒ぎが起こっていた。
新学期が始まってまだ一ヶ月──しかし、シーナ・ティア・オイン嬢が一週間の休暇を申請して許諾されたのである。
「しかも、王太子殿下までお休みされて……」
「ええ、でも側近の方々はこちらにいらっしゃる?」
「『学園での成績を落すのは、将来の文官側近としてふさわしくない』っておっしゃったとか……」
「なあ、聞いたか?シーナ嬢は王家の別荘に招かれたんだって!」
「マジか?じゃあ、やっぱりあの噂は本当だったのか……?」
「噂ってアレか?やっぱりルエナ嬢は王太子婚約を解消されて、シーナ嬢が……」
「いや、彼女は公娼止まりだろう?なんて言ったって子爵家だもの……別の公爵家の公女が候補だって聞いたけど?」
「じゃ、じゃあ!早く親に言って、ルエナ嬢に婚約を申し込まないと!」
たとえ王家の血が入っていなくても、逆にディーファン家の血が王家に入っているのだ。
跡取りとしてアルベールがいるのでディーファン家への婿入りというわけにはいかないが、公女を娶れるというのであれば、将来の王家への影響力は今以上に増すに違いない。
そんな下心の他に、別の下心──つまりルエナ自身の美貌と王太子妃教育を受けてきたために他を抜きんでる知性と教養、それは『王家からの婚約破棄』という瑕疵を負った令嬢を引き受けるという名分を補って余りあるご馳走である。
しかも彼女自身の下位貴族に対する態度の酷さは、『公爵令嬢を矯正する』という名目で『躾』という名の虐待と調教を可能にするかもしれないという、下半身をモロに直撃するおまけつきなのだ。

シーナ嬢とリオン王太子の休暇明け登園を心待ちにする者は多かった。


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