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週に一度だけ、午前から昼食後までルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢が登校するという噂が流れ、今日がその初回である。

本当に半日にも満たない時間での登校なのか──下衆い好奇心に溢れた貴族子女たちが大きな玄関ホールで用事もないのに友人たちと今日のカリキュラムの確認を行っていた。
そんな衆目のさなか、ゆっくりとディーファン公爵家の大きい馬車が正面玄関へと着き、真っ先に降りてきたのはルエナ嬢ではなく、アルベール・ラダ・ディーファン公爵子息である。
一年前に貴族学園を卒業したアルベールのことを覚えている者は多く、特に婚約申込みの釣書を送っている令嬢たちが思わず一歩進み出ようとして──淡い桃色と白銀の糸で刺繍をあしらった白いシフォンを重ねた上品なドレス姿のシーナ・ティア・オイン子爵令嬢が、アルベールに差し伸べられた手に自分の手を重ねて降りてくるのを見て固まった。
よく見ればアルベールはピンクサファイヤをあしらったチェーン付きラペルピンと、シーナ嬢の髪色によく似たハンカチーフを胸元に挿している。
まるでパートナーのように互いの色を身につけたふたりに向けられる視線に好意的なものは少なく、小波さざなみのように令嬢たちに、特に高位貴族たちに反感が伝染していった。

ガラガラガラガラ!

馬の鼻息とピシャリと馬体に軽く当てる手綱の音に皆がハッとすると、公爵家の馬車はまたゆっくりと動き出して正門から馬車置き場へ動き出してしまった。
シーナ嬢に後続する者を見なかったために、やはりルエナ嬢は登園しなかったのかと、軽蔑を含んだ冷笑を浮かべる者たちがいる──が。
「あ…ら……あの……あちら……?王太子殿下では……?」
「ま、まぁ……いつの間に……それに、お隣のご令嬢は……?」
見間違えようのない銀糸の長い髪を結い上げもせずに背中に流し、金糸をあしらった淡い黄色のシフォンを重ねたドレス姿の令嬢。
そのほっそりとした腰のやや上辺りを左腕て支えるように添え、さらに右手を差し出しながらも密着はしないようにと気をつけている金髪の令息の横顔は、やや眉を顰めているようだ。
それを見て困惑してような雰囲気がまた冷笑に取って変わっていく。
「やっぱり、まだおふたりのご関係は修復とまでは……」
「でもシーナ嬢は王太子殿下の方を、少しもご覧にならなかったわよ?」
「まぁ!ではディーファン公爵家へ行儀見習いをさせるようにとおっしゃった王太子殿下の命を利用して……?」
「そうよ!きっとアルベール様にも色目を使って……」
「なんていやらしい!だから元平民なんて……」
そんな噂話を勝手に妄想してでっち上げる自分たちの方が醜いと気づかない貴族令嬢たちにため息をつきつつ、シーナはアルベールに手を引かれるままに廊下を進んだ。


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