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交渉

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弟であるリュシアン・グラウ・クールファニーはともかく、兄のリオネル・ディモス・クールファニーは、どうやら今回の断罪劇に語り部として関わることになるだけでなく、おそらく冒頭の物言いからして様々な事柄に関して記録や記憶していく役割を担っている。
モブキャラではあるが、位置づけ的にかなり貴重な──
「……で、それが何で俺…ウゥンッ…私への『お願い』になるのさ?いや、なるんだい?」
ところどころ言葉遣いがおかしいが、シチュエーション的に激推しのルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢、前世では双子の妹で転生先では気の置けない異世界人の記憶持ちという共通点があるシーティ・ティア・オイン子爵令嬢、義兄予定で王太子の最側近として王宮内で片腕として側にあるアルベール・ラダ・ディーファン公爵令息、かつての兄として妹にちょっかいをかけようとしてくるキャラクターだったが何故か今は改心して故郷にいる幼馴染みの幼い令嬢への片思いを思い出して絶対兄から奪い取ると宣言したイストフ・シュラー・エビフェールクス辺境侯爵令息──情報過多と登場人物過多でイッパイイッパイらしい。
「うん。だってアタシが突然『この子も側近にしてやって。でもって王宮に出入りさせて!』って連れて行くわけにはいかないでしょうが」
たとえ子犬を持って行ったとしても、爪や牙に毒は塗られていないか、病気は持っていないか、誰彼構わず噛みつきはしないかと──歯も生えておらず、目も開くかどうかの産まれて数日の乳飲み子だとしても、だ──徹底的に調べられてからでないとリオンの手に渡らないというのに、王宮に官職を持たず、学園内でも王太子とこれといって接点もないような跡取りですら無い男爵家の次男坊など、門前払いで済めばいい方だ。
「下手したら『怪しいヤツめ』って捕まって牢屋入れられて、何にも企んでいないのに『冤罪でも疑われるような行動をした男』ってレッテル貼らせるわけにはいかないでしょう?」
「うっ……それも、そうか……」
こういった『転生物』にありがちな女性側に瑕疵を求めての婚約破棄と比べればダメージは少ないかもしれないが、自分の身で生計を立てる予定の若い男だとしても、よけいな過去は持たない方が絶対いい。
「それにさ……たぶんだけど、王宮経理課とか納税課とか、過去から現在までの記録を覚えていてすぐに応えられる人物がいるって……すっごく良くない?」
「うん……さすがに前世での市役所的な発想はどうかと思うけど……うん……確かに……彼ひとりだけっていうのがちょっと危ういと思うけど……そういう仕事があってもいいし……」
「もしくは正史?王国史?古代語も勉強して覚えたら古い書物も読めるって言ってるから、それこそ古代図書を現代文に翻訳して書き残してもらうとか?」
「そう言えばそういう職業の人っていないよな……歴史家?しかも記憶力が超人級……」
どうやら貧乏男爵家の次男に可能性を見出したらしいリオンが、『凛音』ではなく『王太子』らしい思考に沈むのを、シーナは『詩音』としては寂しく思いながらも頼もしく感じる。
ついでに秘書的な役割で兄の代わりに交渉役が上手そうな弟も王宮で雇ってもらえたら、それはそれで良さそうなのだが。


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