VS お義母さん

沢麻

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戦力となれる喜び、必要とされる喜び(猫の手でも借りたい子育て)

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 「るりも一歳になったし、どこか旅行でも行きたいよね」
 運転中の和馬がそんなことを言い出した。和馬は温泉が好きで、彼ののどかな性格にぴったりの嗜好と言える。一方の杏奈は旅行なら温泉よりもテーマパークや観光地メインがいい。杏奈は目が悪いので、温泉に入ると見えなくて落ち着かないのだ。
 「ちょっと冗談。まだ一歳だよ。世話大変だよ」
 「そうかなぁ? お母さんに見ててもらえば杏奈もゆっくり温泉入れるよ。るりは俺が入れてもいいし」
 「ええー」
 そうか。確かに道子がいれば三人で行くより楽だ。しかし道子の宿代まで払わねばならない。
 「お母さんもるりのこと、頑張ってくれてるしお礼したいじゃない」
 和馬は言った。なんだよマザコン野郎、と杏奈は思ったが、道子はよくやってくれている。炊事、洗濯、掃除はもはや道子がいなければ回らなくなっている。杏奈と道子は合わないが、それも慣れた。
 「お母さんと、一緒に住むのもいいもんでしょ?」
 「……」
 決して良くはないのだが。まったく、この親子にしてやられた格好だ。
 「温泉ね……」
 それもいいかも、なんて思っている。杏奈の負けだ。
 
 帰宅すると、最近はすっかり道子迎えが定着した瑠璃夏がにこにこと出迎えてくれた。道子は瑠璃夏の扱いも心得たようで、うまくあやしながら夕飯を完成させる技を持っているのだった。
 「お帰りなさい」
 「ただいまー。あ、今日はからあげかな?」
 「さんまのからあげよ」
 親子がほのぼの会話している。魚かよ、と思うが、道子のさんまの唐揚げは旨い。骨までバリバリと食べれる。瑠璃夏にも盛り付けていたので杏奈はそれを奪い取り、骨と衣を取って食べさせた。
 「お母さん、来月あたりみんなで温泉なんてどう?」
 和馬が切り出した。道子は少し考える素振りをした。和馬に温泉なんて誘われたら、涙を流して喜びそうなのに意外だ。それとも道子は和馬と違って温泉は嫌いなのか。
 「ありがとう、和馬。……でもね、私、今月いっぱいで出ていくわ」
 「えっ!」
 いきなりの申し出に和馬は味噌汁を吹き出し、杏奈はさんまを大して噛まずに飲み込んでしまった。瑠璃夏だけが、にこにこと手掴みでごはんを食べている。
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