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噂の布おむつ信仰ってこれ?
⑤
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杏奈は考えた末、和馬が出掛ける前に起きた方が得策とみて、やむを得ず七時半に瑠璃夏を連れてベッドを出た。和馬はきっと飯の準備をしてもらえて喜んでいるだろう。台所無断で触るなよとか、寝室勝手に開けるなよとか、杏奈の気持ちを代弁してくれているとは思えない。
「じゃ、いってくるね」
「いってらっしゃい」
なんだか朗らかな挨拶のやりとりまで聞こえる始末。恐る恐る食卓に近寄ると、いきなり味噌汁とご飯と卵焼きがこしらえてあり、もうすでに杏奈の食器に盛り付けられていた。そして台所もなんとなく片付いている。
「杏奈さん、おはよう。朝ごはん召し上がってちょうだい」
「え、あ、ありがとうございます」
つい礼を言う。朝から米なんて食えるかよとか、調味料わからんところに片付けてないだろうなとか思っていたが、なんだかその朝食がおいしそうに見えたのだ。
悪い人ではないのだ。と、一回おいしそうなご飯を作ってもらっただけで思い直す自分を安直な人間だなと思いながら、杏奈は食事をいただいた。
「杏奈さん……」
道子は杏奈の向かいに白湯と思われる飲み物を持って座った。
「あのね、常備菜って今はきらしてるのかしらね」
「は?」
「ひじきの煮物とか、切り干し大根とかは、常に冷蔵庫に在庫しておいたほうがいいわよ。そしたら食事の準備が格段に楽だわ」
「……ひじき」
「あとお茶は飲まないのかしら。緑茶はあったほうがいいわよ」
道子は杏奈を食料で黙らせて、いきなり台所関連の持論を展開し始めた。他にも味噌はだし入りを使わないほうがいい、昔は鰹でとっていたんだとか、無洗米はやめたほうがいいとか、根菜の常備はしたほうがいいとか、自分の使い勝手のよい方に改革しようと色々言ってくるのだ。
「あー……でも私らは緑茶とかは飲まないんですよね。私も授乳中だからカフェインが……。あ、お義母さんが飲むなら買ってきてもいいですけど」
杏奈は基本的に朝は洋食なので、《ご飯、味噌汁、ひじき、緑茶》みたいなのは興味がないのである。
「あら、ちょっとくらいは大丈夫なのよ。やっぱり食後は緑茶じゃないと」
「いや、お義母さんが飲むなら買ってきてください」
いや待てよ。居座る間、道子に料理を担当してもらうというのであればある程度言うことを聞いた方がいいのだろうか。いやいや、何を受け入れようとしているんだ。居座る間がいつまでかもわからないのに。
ところが道子は先手を打って名乗りを挙げてきた。
「じゃあ私が炊事を担当するわ。杏奈さんは赤ちゃんがいるんですものね。昔は赤ちゃんがいようとも、主人の朝ごはんを自分で作らせるなんてことは絶対あり得ないことだったけど、赤ちゃんの世話って大変よね。出来る限り私も協力するわ」
……。これでいいんだろうか。どう転ぶかわからないが、とりあえず食事中なので杏奈には曖昧な笑みを浮かべるしかできなかった。
「じゃ、いってくるね」
「いってらっしゃい」
なんだか朗らかな挨拶のやりとりまで聞こえる始末。恐る恐る食卓に近寄ると、いきなり味噌汁とご飯と卵焼きがこしらえてあり、もうすでに杏奈の食器に盛り付けられていた。そして台所もなんとなく片付いている。
「杏奈さん、おはよう。朝ごはん召し上がってちょうだい」
「え、あ、ありがとうございます」
つい礼を言う。朝から米なんて食えるかよとか、調味料わからんところに片付けてないだろうなとか思っていたが、なんだかその朝食がおいしそうに見えたのだ。
悪い人ではないのだ。と、一回おいしそうなご飯を作ってもらっただけで思い直す自分を安直な人間だなと思いながら、杏奈は食事をいただいた。
「杏奈さん……」
道子は杏奈の向かいに白湯と思われる飲み物を持って座った。
「あのね、常備菜って今はきらしてるのかしらね」
「は?」
「ひじきの煮物とか、切り干し大根とかは、常に冷蔵庫に在庫しておいたほうがいいわよ。そしたら食事の準備が格段に楽だわ」
「……ひじき」
「あとお茶は飲まないのかしら。緑茶はあったほうがいいわよ」
道子は杏奈を食料で黙らせて、いきなり台所関連の持論を展開し始めた。他にも味噌はだし入りを使わないほうがいい、昔は鰹でとっていたんだとか、無洗米はやめたほうがいいとか、根菜の常備はしたほうがいいとか、自分の使い勝手のよい方に改革しようと色々言ってくるのだ。
「あー……でも私らは緑茶とかは飲まないんですよね。私も授乳中だからカフェインが……。あ、お義母さんが飲むなら買ってきてもいいですけど」
杏奈は基本的に朝は洋食なので、《ご飯、味噌汁、ひじき、緑茶》みたいなのは興味がないのである。
「あら、ちょっとくらいは大丈夫なのよ。やっぱり食後は緑茶じゃないと」
「いや、お義母さんが飲むなら買ってきてください」
いや待てよ。居座る間、道子に料理を担当してもらうというのであればある程度言うことを聞いた方がいいのだろうか。いやいや、何を受け入れようとしているんだ。居座る間がいつまでかもわからないのに。
ところが道子は先手を打って名乗りを挙げてきた。
「じゃあ私が炊事を担当するわ。杏奈さんは赤ちゃんがいるんですものね。昔は赤ちゃんがいようとも、主人の朝ごはんを自分で作らせるなんてことは絶対あり得ないことだったけど、赤ちゃんの世話って大変よね。出来る限り私も協力するわ」
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