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25 閑話デート2
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家から出ると、お爺様とサクが待っていた。
「おぉ、来たか。じゃあ行くかの」
年の割にハキハキと歩くお爺様の後ろをサクと並んでついていく。どこかへ向かうようだ。
隣を歩くサクを見上げる。いつもはあまり表情が変わらないけど、今日はとても機嫌がよさそうだ。そのうち口笛を吹き出しそうな表情に、レイは釣られて笑う。
「楽しみだね」
「うん。…あ、バルトからお小遣い貰ってきた。はい、どうぞ」
サクはポケットをあさってを数枚、私に渡してきた。この国は紙幣はない。紙幣の変わりに金貨、銀貨、銅貨があり、細かい形の違う鉄硬貨とよばれるものがある。
だが、ゲームの世界だからか、お金の数え方は前世とほとんど変わらない。
前世はともかく、貴族だった頃はお金を使うことなんてなかった。今回が初めてなのだ。少しわくわくしながらお金を受けとる。鉄硬貨が五枚。
前世の記憶だと500円程になる。
なくさないようにマントのポケットにしまうと、サクがすごく自然に私の手をとり、自分の手とからめた。
こ、これ知ってるぞ…恋人繋ぎというやつだ。
前世の知識が頭に浮かんできて慌てた。
顔が赤くなる。
そんな私を見たサクの機嫌がさらに良くなった。
「迷子になったらいけないからさ」
と、私の手にさらに力を込める。
こんな狭い島でどうやって迷子になるんだ…。言ってやりたかったがグッとこらえる。
たぶん慣れるよね。そのうち。
「私、部屋に置物置きたいんだよね。買えるかな?」
この島に住むことが決まって与えられた部屋である。ベッドとタンス、鏡しか置いていないのだ。
タンスの上に何か飾ったらかわいいだろうなあと常々思っていたのである。
「うん、今日行くの王都の街だし。見つかると思う」
「え、王都にいくの?」
「うん」
「私始めて行く、王都に」
「僕はギリーについていって何回か行ったことあるよ。人が多いから迷子にならないようにしなきゃね」
私と握っている手を持ち上げてぶらぶらさせながら機嫌が良さそうにサクが笑う。
「う、うん」
だから手を繋ぐのか。
「ほれ、入るんじゃ」
ギリーお爺様が立ち止まりこちらを振り向く。どうやら目的の場所についたらしい。
目の前には灰色の小さな倉庫。
島の端の方にあるやつだ。任務に行くときギルドの皆が中に入って行くのをよく見かける。
「この中になにがあるの?」
「長距離転移の魔方陣がはってあるんじゃ。王都まで一瞬じゃよ」
そういいながら扉を開けて中に入っていくギリーお爺様。
それにならってサクと2人で入っていく。
「ほれ、じゃあ行くぞい」
その言葉とともに床が光だす。
最初は床の魔方陣がぼんやりと光っていただけだったのが、だんだん目も開けられないほど眩しくなる。
とっさに目をつぶると、瞼の向こうで光がだんだんと強くなり、そして再び暗くなっていく感じがした。
「ほれ、ついたのじゃ」
「え、もう?!」
目を開くと特に変化はない。
相変わらず薄暗い倉庫のままだ。
「なにも変わってないよ?」
こてん、と首を傾げるとサクが笑顔で首を振った。
「ううん、もうついたよ」
「そうじゃ。それじゃ、三時間後にここに二人で戻ってくるように。わしは薬を買いにいってくるからな。レイ、しっかりサクの手を握っておくんじゃ。」
王都は、本当に人が多いんじゃよ。
若干、お爺様がにや、っとしたように見えた。
ギリーお爺様はさっさとドアを開けて出ていった。
「じゃあ、僕たちもいこうか。お昼近くだし、お腹すいたから何か食べよう」
「うん」
素直に頷く。確かにお腹がすいている気がする。
フードが取れないように深く被り直す。サクも思い出したようにフードを被った。
サクに手を引かれてドアに近づく。
サクがドアを開くとパアッと光がこぼれた。
それと同時に一気に騒がしくなった。
「うわあ‥すごいひと」
ガヤガヤとした活気のある喧騒。
大きな大通りのようだ。両端にはたくさんの屋台が並んでおり、客を集めようと大きな声で叫んでいる。
一歩、踏み出すと、サクが人の流れに乗るように歩きだした。
「人が多いから皆が歩く流れに逆らって歩いちゃだめだよ?はぐれたらあの時計台の下で集合するようにしよう」
サクが指差したそこにはレンガ造りの高い時計台があった。
「わかった」
素直に頷くとサクが笑う。
「何が食べたい?たくさん屋台があるからどれかえらんでもいいよ」
そう言われ回りを見渡す。周りの人たちの背が高くて屋台が見えづらい。
客引きの声に耳をすませると、右の方から気になるワードが聞こえた。
「クレープ!クレープはいかがですかー!甘いのもしょっぱいのもありますよう!!」
クレープ!!
「あっちのクレープ食べたい!!」
「あっち?」
サクがしばらく耳を澄ませて頷く。
「一回隅によろう」
人が少ない瞬間に右にわたるみたいだ。
しばらく待って、少し隙間があいた瞬間に二人で人混みをすり抜ける。
そうしてついたクレープ屋は前世とあまり変わらない、ファンシーな外観だった。
ゲームの世界だからだろうか。
「いらっしゃいませー!甘いのとしょっぱいの、どちらにしますかー?」
「わたしは甘いので!」
「あ、僕はしょっぱい方がいいです。」
「かしこまりましたー!甘いメニューはこちら、しょっぱいのはこちらのメニューになります!」
そう言って店員さんに差し出された紙を受け取ってながめる。
わたしはイチゴとクリームのクレープを。サクは肉とキャベツのようなものが入ったクレープを選んだ。
通りの端にあった段差に二人で座り込む。
「いただきます!」
前世ぶりのクレープである。大事に食べようと思ったのにあっという間に無くなってしまった。
「おいしかったね!」
「そうだね」
サクが笑って頷くと、頭を撫でてくれた。
なんだか嬉しくなって通りに飛び出す。
「次はどこいこっ‥か‥?」
振り向こうとすると急に来た人の流れに流されてしまった。
あわてて立ち止まろうとするが、人が多くてとまれない。なんとか振り向くと、少し先で焦った顔のサクがいた。
「時計台であおう!!気をつけて!!」
大きな声でサクが叫ぶのが聞こえる。私の声が届く自信がなかったので指でオッケーマークをつくって見せると少し不安そうにサクが頷くのが見えた。
あっという間に人に流されてしまい、意図せず単独行動することになってしまった。
_________________________________________________________
お久しぶりです。
元気に浪人生やってます。
課題が多くて地獄のようです。
「おぉ、来たか。じゃあ行くかの」
年の割にハキハキと歩くお爺様の後ろをサクと並んでついていく。どこかへ向かうようだ。
隣を歩くサクを見上げる。いつもはあまり表情が変わらないけど、今日はとても機嫌がよさそうだ。そのうち口笛を吹き出しそうな表情に、レイは釣られて笑う。
「楽しみだね」
「うん。…あ、バルトからお小遣い貰ってきた。はい、どうぞ」
サクはポケットをあさってを数枚、私に渡してきた。この国は紙幣はない。紙幣の変わりに金貨、銀貨、銅貨があり、細かい形の違う鉄硬貨とよばれるものがある。
だが、ゲームの世界だからか、お金の数え方は前世とほとんど変わらない。
前世はともかく、貴族だった頃はお金を使うことなんてなかった。今回が初めてなのだ。少しわくわくしながらお金を受けとる。鉄硬貨が五枚。
前世の記憶だと500円程になる。
なくさないようにマントのポケットにしまうと、サクがすごく自然に私の手をとり、自分の手とからめた。
こ、これ知ってるぞ…恋人繋ぎというやつだ。
前世の知識が頭に浮かんできて慌てた。
顔が赤くなる。
そんな私を見たサクの機嫌がさらに良くなった。
「迷子になったらいけないからさ」
と、私の手にさらに力を込める。
こんな狭い島でどうやって迷子になるんだ…。言ってやりたかったがグッとこらえる。
たぶん慣れるよね。そのうち。
「私、部屋に置物置きたいんだよね。買えるかな?」
この島に住むことが決まって与えられた部屋である。ベッドとタンス、鏡しか置いていないのだ。
タンスの上に何か飾ったらかわいいだろうなあと常々思っていたのである。
「うん、今日行くの王都の街だし。見つかると思う」
「え、王都にいくの?」
「うん」
「私始めて行く、王都に」
「僕はギリーについていって何回か行ったことあるよ。人が多いから迷子にならないようにしなきゃね」
私と握っている手を持ち上げてぶらぶらさせながら機嫌が良さそうにサクが笑う。
「う、うん」
だから手を繋ぐのか。
「ほれ、入るんじゃ」
ギリーお爺様が立ち止まりこちらを振り向く。どうやら目的の場所についたらしい。
目の前には灰色の小さな倉庫。
島の端の方にあるやつだ。任務に行くときギルドの皆が中に入って行くのをよく見かける。
「この中になにがあるの?」
「長距離転移の魔方陣がはってあるんじゃ。王都まで一瞬じゃよ」
そういいながら扉を開けて中に入っていくギリーお爺様。
それにならってサクと2人で入っていく。
「ほれ、じゃあ行くぞい」
その言葉とともに床が光だす。
最初は床の魔方陣がぼんやりと光っていただけだったのが、だんだん目も開けられないほど眩しくなる。
とっさに目をつぶると、瞼の向こうで光がだんだんと強くなり、そして再び暗くなっていく感じがした。
「ほれ、ついたのじゃ」
「え、もう?!」
目を開くと特に変化はない。
相変わらず薄暗い倉庫のままだ。
「なにも変わってないよ?」
こてん、と首を傾げるとサクが笑顔で首を振った。
「ううん、もうついたよ」
「そうじゃ。それじゃ、三時間後にここに二人で戻ってくるように。わしは薬を買いにいってくるからな。レイ、しっかりサクの手を握っておくんじゃ。」
王都は、本当に人が多いんじゃよ。
若干、お爺様がにや、っとしたように見えた。
ギリーお爺様はさっさとドアを開けて出ていった。
「じゃあ、僕たちもいこうか。お昼近くだし、お腹すいたから何か食べよう」
「うん」
素直に頷く。確かにお腹がすいている気がする。
フードが取れないように深く被り直す。サクも思い出したようにフードを被った。
サクに手を引かれてドアに近づく。
サクがドアを開くとパアッと光がこぼれた。
それと同時に一気に騒がしくなった。
「うわあ‥すごいひと」
ガヤガヤとした活気のある喧騒。
大きな大通りのようだ。両端にはたくさんの屋台が並んでおり、客を集めようと大きな声で叫んでいる。
一歩、踏み出すと、サクが人の流れに乗るように歩きだした。
「人が多いから皆が歩く流れに逆らって歩いちゃだめだよ?はぐれたらあの時計台の下で集合するようにしよう」
サクが指差したそこにはレンガ造りの高い時計台があった。
「わかった」
素直に頷くとサクが笑う。
「何が食べたい?たくさん屋台があるからどれかえらんでもいいよ」
そう言われ回りを見渡す。周りの人たちの背が高くて屋台が見えづらい。
客引きの声に耳をすませると、右の方から気になるワードが聞こえた。
「クレープ!クレープはいかがですかー!甘いのもしょっぱいのもありますよう!!」
クレープ!!
「あっちのクレープ食べたい!!」
「あっち?」
サクがしばらく耳を澄ませて頷く。
「一回隅によろう」
人が少ない瞬間に右にわたるみたいだ。
しばらく待って、少し隙間があいた瞬間に二人で人混みをすり抜ける。
そうしてついたクレープ屋は前世とあまり変わらない、ファンシーな外観だった。
ゲームの世界だからだろうか。
「いらっしゃいませー!甘いのとしょっぱいの、どちらにしますかー?」
「わたしは甘いので!」
「あ、僕はしょっぱい方がいいです。」
「かしこまりましたー!甘いメニューはこちら、しょっぱいのはこちらのメニューになります!」
そう言って店員さんに差し出された紙を受け取ってながめる。
わたしはイチゴとクリームのクレープを。サクは肉とキャベツのようなものが入ったクレープを選んだ。
通りの端にあった段差に二人で座り込む。
「いただきます!」
前世ぶりのクレープである。大事に食べようと思ったのにあっという間に無くなってしまった。
「おいしかったね!」
「そうだね」
サクが笑って頷くと、頭を撫でてくれた。
なんだか嬉しくなって通りに飛び出す。
「次はどこいこっ‥か‥?」
振り向こうとすると急に来た人の流れに流されてしまった。
あわてて立ち止まろうとするが、人が多くてとまれない。なんとか振り向くと、少し先で焦った顔のサクがいた。
「時計台であおう!!気をつけて!!」
大きな声でサクが叫ぶのが聞こえる。私の声が届く自信がなかったので指でオッケーマークをつくって見せると少し不安そうにサクが頷くのが見えた。
あっという間に人に流されてしまい、意図せず単独行動することになってしまった。
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お久しぶりです。
元気に浪人生やってます。
課題が多くて地獄のようです。
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