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第2部 4章
73 怒りのカナリー
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「お兄様、最低ーーっ!!」
正殿の応接間にカナリーの怒声が響いた。
怒りの強さを表すように体がプルプルと震えている。
それくらいカナリーは聞かされた話に激怒していた。
ただ、少し考えればその可能性に気付いたはずだ。それなのにこれまで全く気付かずにいた。
カナリーの激しい怒りには、そんな自分へ向けた憤りも含まれている。
「私もカナリーの言う通りだと思うわ。さすがにこれは……、庇いようがないわ」
マルグリットが呆れたような、諦めたような溜息を吐く。カナリーの向こうではアイビスもレイヴンに非難めいた視線を向けていた。
いつもアリシアとのことには一線を引いているジェイすらも責めるような目をしている。
夕食後の団欒の時間である。
アリシアは来ていない。明日から領地へ戻る公爵夫妻とレオナルドが王太子宮へ来ているのだ。
アリシアのいないところでマルグリットたちに話したいことがあったレイヴンは、これを幸いとして1人で正殿を訪れていた。
レイヴンの話したいこととは、勿論アリシアのことである。
レイヴンは年末年始の休暇にアリシアを正殿に連れてきたいこと、その時にアリシアが居心地悪く感じない様に、気遣って欲しいことを話した。
結婚してからこれまで、アリシアが年末年始の休暇に正殿を訪れたことはない。
最近はレイヴンの弟妹たちとも打ち解けてきたものの、年末年始の休暇はやはり普段の交流と違っている。貴族でいえば嫁ぎ先の領地へ帰るのと同じ意味を持つ。
2年も経ってから初めて加わるというのは気が引けると思ったのだ。
レイヴンの話を聞いていたカナリーは、ここでふと疑問が浮かんだ。
これまでアリシアが年末年始の休暇に正殿を訪れたことはない。だけどレイヴンは正殿に来ていた。
それではアリシアは、その間どうやって過ごしていたのだろうか。
「………1人で、過ごしていた」
その答えを聞いたカナリーの反応が、冒頭の「お兄様、最低ーーっ!!」である。
自分でも最低だと思っているレイヴンは、カナリーに怒鳴られてもマルグリットたちに冷たい目で見られても、黙って受け入れるしかなかった。
「だけどあなたも1日中こちらへ来ていたわけではないでしょう。こちらにいない時は……」
休暇の間、レイヴンが1日中正殿にいたのならマルグリットも気づいただろう。
レイヴンが来ていたのは晩餐や側妃たちも集まる宴の時だけだ。
つい最近までアリシアは正殿に来ていなかった。だから年末年始休暇の間も、アリシアはこちらへ来るのを嫌がったのだとマルグリットは思っていた。
だけどレイヴンの顔を見る限り、そうではないらしい。
「……昼間は、執務室にいました。僕はほとんどの時間を執務室で過ごし、アリシアは……、自室にいたと思います」
「……執務室?」
「………仕事を、していました」
普段の休日と同じ過ごし方である。
アリシアを訪ねても追い返されることはないだろう。
だけど本心から歓迎させることもない。本当は嫌だと思っていても妃として受け入れるしかないのだ。
それがわかっているから、レイヴンは声を掛けることができなかった。
寝室を挟んだ隣の部屋で、アリシアを想いながら悶々と過ごす時間は寂しくて辛くて耐えられない。
だから他の文官が誰もいない執務棟のシンとした部屋の中で、1人で仕事をしていた。
そして陽が落ちて暗くなり。人恋しくなると正殿へ行ってそこで家族と夕食を食べていたのだ。
「お、お義姉様は……」
呟いたカナリーは泣きそうである。
レオナルドは領地に戻っているので訪ねて来ない。休暇中に訪ねて来るような友人もいない。
それならアリシアは、約2週間もある休暇を1人きりで過ごしていたことになる。
「領地から戻ったレオナルドに、本を読んでいたと話しているのを聞いたことがある。本を読んでいたから、休みはあっという間だったと……」
「そんなわけありませんわーーーっ!!!」
その日一番のカナリーの叫び声が正殿に響いた。
正殿の応接間にカナリーの怒声が響いた。
怒りの強さを表すように体がプルプルと震えている。
それくらいカナリーは聞かされた話に激怒していた。
ただ、少し考えればその可能性に気付いたはずだ。それなのにこれまで全く気付かずにいた。
カナリーの激しい怒りには、そんな自分へ向けた憤りも含まれている。
「私もカナリーの言う通りだと思うわ。さすがにこれは……、庇いようがないわ」
マルグリットが呆れたような、諦めたような溜息を吐く。カナリーの向こうではアイビスもレイヴンに非難めいた視線を向けていた。
いつもアリシアとのことには一線を引いているジェイすらも責めるような目をしている。
夕食後の団欒の時間である。
アリシアは来ていない。明日から領地へ戻る公爵夫妻とレオナルドが王太子宮へ来ているのだ。
アリシアのいないところでマルグリットたちに話したいことがあったレイヴンは、これを幸いとして1人で正殿を訪れていた。
レイヴンの話したいこととは、勿論アリシアのことである。
レイヴンは年末年始の休暇にアリシアを正殿に連れてきたいこと、その時にアリシアが居心地悪く感じない様に、気遣って欲しいことを話した。
結婚してからこれまで、アリシアが年末年始の休暇に正殿を訪れたことはない。
最近はレイヴンの弟妹たちとも打ち解けてきたものの、年末年始の休暇はやはり普段の交流と違っている。貴族でいえば嫁ぎ先の領地へ帰るのと同じ意味を持つ。
2年も経ってから初めて加わるというのは気が引けると思ったのだ。
レイヴンの話を聞いていたカナリーは、ここでふと疑問が浮かんだ。
これまでアリシアが年末年始の休暇に正殿を訪れたことはない。だけどレイヴンは正殿に来ていた。
それではアリシアは、その間どうやって過ごしていたのだろうか。
「………1人で、過ごしていた」
その答えを聞いたカナリーの反応が、冒頭の「お兄様、最低ーーっ!!」である。
自分でも最低だと思っているレイヴンは、カナリーに怒鳴られてもマルグリットたちに冷たい目で見られても、黙って受け入れるしかなかった。
「だけどあなたも1日中こちらへ来ていたわけではないでしょう。こちらにいない時は……」
休暇の間、レイヴンが1日中正殿にいたのならマルグリットも気づいただろう。
レイヴンが来ていたのは晩餐や側妃たちも集まる宴の時だけだ。
つい最近までアリシアは正殿に来ていなかった。だから年末年始休暇の間も、アリシアはこちらへ来るのを嫌がったのだとマルグリットは思っていた。
だけどレイヴンの顔を見る限り、そうではないらしい。
「……昼間は、執務室にいました。僕はほとんどの時間を執務室で過ごし、アリシアは……、自室にいたと思います」
「……執務室?」
「………仕事を、していました」
普段の休日と同じ過ごし方である。
アリシアを訪ねても追い返されることはないだろう。
だけど本心から歓迎させることもない。本当は嫌だと思っていても妃として受け入れるしかないのだ。
それがわかっているから、レイヴンは声を掛けることができなかった。
寝室を挟んだ隣の部屋で、アリシアを想いながら悶々と過ごす時間は寂しくて辛くて耐えられない。
だから他の文官が誰もいない執務棟のシンとした部屋の中で、1人で仕事をしていた。
そして陽が落ちて暗くなり。人恋しくなると正殿へ行ってそこで家族と夕食を食べていたのだ。
「お、お義姉様は……」
呟いたカナリーは泣きそうである。
レオナルドは領地に戻っているので訪ねて来ない。休暇中に訪ねて来るような友人もいない。
それならアリシアは、約2週間もある休暇を1人きりで過ごしていたことになる。
「領地から戻ったレオナルドに、本を読んでいたと話しているのを聞いたことがある。本を読んでいたから、休みはあっという間だったと……」
「そんなわけありませんわーーーっ!!!」
その日一番のカナリーの叫び声が正殿に響いた。
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