【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 4章

98 側妃の陰に見える人②

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「それからも色んなことがあったわ。先王陛下が退位されて、あの方が国王となって。サンドラ殿は王宮を避けているようであまり姿を見ることはなかったけれど、年に一度、建国を祝う舞踏会だけは必ず出席していたの」

 それはアリシアも覚えている。
 社交界を避け、あまり外出もしなかったサンドラだが、王室主催の舞踏会だけは人脈を繋ぐ為にも出席していた。
 その中でも建国日を記念して開かれる舞踏会に欠席することはできなかっただろう。
 普段領地にいる貴族でさえ王都へ出てきて出席する舞踏会である。正当な理由もなく欠席してしまえば、王家に対して叛意有りと受け取られる恐れがあった。

「サンドラ殿の境遇は年々悪化していたわ。前侯爵が生きておられた頃は、それでもデミオン殿にエスコートされていたけれど、前侯爵が亡くなり、前侯爵夫人も亡くなってしまうと誰にもエスコートされずに1人で参加されていたのよ。ルトビア前公爵夫人やオレリア殿が傍にいたから表立って悪く言う者はいなかったけれど、随分と居心地の悪い思いをしていたでしょうね」

 舞踏会へ出席したサンドラと国王が深く関わるようなことはなかった。
 サンドラは国王やマルグリットへ挨拶をした後は他の貴族たちへの挨拶に忙しくしていたし、誰かと踊る様なことも決してなかった。
 対して国王の方も自らサンドラへ近づくことはなく、マルグリットや側妃たちと数曲踊ってもすぐに王族席へ戻ってしまっていた。

「だけどあの方の目が誰を追っているのかはすぐにわかったわ。隣にいる私には、それがよくわかったの」

 サンドラを公妾にする話が出るかもしれない、と恐れたこともあった。
 だけどそんなことはなく、次々と側妃を娶るようになった。

「側妃とサンドラ殿を結び付けて考える者はもういなかったわ。だけどあの方が新しい女性に手を出すのは、決まってサンドラ殿と再会した後だった。サンドラ殿へのやるせない想いを解消する方法が他になかったのでしょう」

「そんな……」

 アリシアは呆然と呟いた。 
 側妃を5人も娶った国王は艶福家だと言われている。
 ただ一方で、国王とはそんなものだと思われてもいる。歴代の国王の中で、側妃を持たなかった国王の方が稀なのだ。
 だけどその裏に他の女性の影があったのなら、国王は娶った6人もの女性たちを誰も愛していないのだろうか。

「レイヴンとあなたの婚約が決まった頃、ある側妃が王子を出産したの。陛下は前年に娶ったその側妃にご執心で、貴族たちは陛下がその王子を王太子にするつもりではないかとこぞって噂していたわ。だから私は、レイヴンを守る為に強い後ろ盾となるルトビア公爵家の令嬢との婚約を願ったのよ。陛下は私の願いを聞いて、あなたを婚約者に選んで下さった。……そのせいで、あなたには辛い思いをさせるわね」

「そんなこと、ありません……!」

 かつてのアリシアは、今とは違う思いでレイヴンとの結婚を望んでいた。
 その時と気持ちは違っているけれど、今のアリシアはレイヴンと結婚して良かったと思っている。
 確かにレイヴンが側妃を迎えれば辛い思いをするだろう。だけど別の人と結婚すれば良かったと、レイヴンを愛さなければ良かったとは、もう思えない。

 そんなアリシアにマルグリットは嬉しそうに笑った。
 我が子が想う人と想い合えることを、心から喜んでいるのだ。

「レイヴンとあなたが互いに想い合えるのは喜ばしいことよ。陛下もサンドラ殿と想い合えていれば、こんなに側妃を迎えることもなかったでしょう」

 マルグリットがレイヴンに代わって王太子になるのではないかと言われた王子や生母を明言しないのは争いを防ぐためだ。宴で様子を見た限り、側妃にも王子にも王位を望む様子はなかった。だけど本人や側妃にその気はなくても、一度名前が上がるとレイヴンが即位した時に禍根を残すことになる。

「もうわかったかもしれないけれど、彼女が側妃に迎えられたのはレイヴンが7歳の時よ。陛下がそれはそれは通い詰められて……。すべての暗い感情を、彼女にのめり込むことで紛らわせていたのね」

 レイヴンが7歳ということは、アリシアもジェーンも7歳の時である。
 ジェーンが7歳の時にサンドラが亡くなった。
 国王はサンドラが亡くなった哀しみや辛さを、側妃にぶつけることで癒していたのか。

「側妃が生んだ王子を王太子にするかもしれないと思ったのは、陛下が私を恨んでいるのではないかと思ったからなの。陛下は私と婚約していなければ、サンドラ殿への想いを成就していたかもしれないわ。侯爵家は跡取りが必要だったけれど……、サンドラ殿が生んだ2人目の王子を跡取りにすることもできたのだもの。もしサンドラ殿が陛下と結ばれていれば……。大切にされて、あんなに早く亡くなることもなかったかもしれないわ。私がいなければ……」

「そんなことありません!」

「そんなことはない、王妃よ」

 アリシアの声に、低い男性の声が重なった。
 慌ててそちらを振り返ると、レイヴンと国王が立っている。
 2人共辛そうな顔をして、それぞれの妻の顔を見ていた。



 
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