影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
5 / 142
1章 ~現在 王宮にて~

4

しおりを挟む
 頭を抱えて蹲るギデオンに国王は困惑していた。
 国王にとって、正妃に迎える令嬢の身分が限定されているのは当然のことだ。
 この国を古くから支えている貴族たちは功績を重ねて高い地位についている。反対に子爵や男爵といった低位貴族の多くはここ数代で爵位を与えられたばかりの新興貴族だ。
 貴族間の信頼も人脈も高位貴族と低位貴族では段違いである。低位貴族では王太子の後ろ盾にはなれない。

 国王は自分が父親としてギデオンに深く関わってこなかったことを自覚していた。
 顔を合わせるのも言葉を交わすのも必要な時だけだ。

 側妃にもギデオンにも申し訳ないと思う。
 だけど国王が愛しているのは……、正妃であるエリザベートだけなのだ。

「そなたの芳しくない噂はわたしの元にも届いていた。カッとなりやすく他家の子息たちとよく揉め事を良く起こしていることも、乱暴な言葉遣いを恐れた令嬢たちがそなたから距離を置いていることも、な」

 王太子の動向はどんなことでも国王へ報告されることになっている。
 国王も息子としては愛情を掛けていなくても、世継ぎとしては気に掛けていた。なんといっても愛する王妃エリザベートを悲しませ、苦しめても迎えた側妃が生んだ唯一の王子なのだ。まだ学園に入学する前の、幼い子どもの頃は言葉遣いや物に当たるを直接注意したこともあった。

 だけどギデオンは学園に入学した後もそのが治らなかった。
 学園は社交界に出る前の準備期間だ。側近として取り立てるような信頼できる友人を作り、人脈を広げるのも学園へ通う目的である。
 それなのにギデオンは子息たちと揉め事ばかりを起こし、令嬢たちには避けられていた。
 ギデオンの代わりに頭を下げ、間に入って関係を取り持ってくれるシェリルがいなければどうなっていたのかと頭を抱えたことも一度や二度ではない。

 だがそんなギデオンの問題行動が、ディゼル男爵令嬢と過ごすようになってからパタリと止んだのだ。
 最も正式な婚約者を持ちながら男爵令嬢と懇意になること自体が問題行動なのだが、ともかく他家の子息と揉め事を起こすことも、物に当たって備品を壊すこともなくなっていた。

「ディゼル男爵令嬢と過ごす時間がそなたに安らぎをもたらすのかもしれない。だからわたしは、そなたがディゼル男爵令嬢を愛妾として迎えるといっても反対するつもりはなかった。勿論シェリル嬢と婚姻を結び、1年以上期間を開けてから、シェリル嬢の許可があれば、だがな」

 だけどギデオンは男爵令嬢を愛妾にする道を選ばなかった。
 大勢の前でシェリルに婚約破棄を告げ、男爵令嬢と婚約するという。
 王太子妃は侯爵家以上の家柄の娘でなければならない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 だから王位を捨て、王籍を抜けてでも男爵令嬢と生きていく道を選んだのだと思ったのだ。

 1人の女性ひとを愛したら他の女性は目に入らない。
 そんな性質を知ってしまっているから、そんなところはわたしに似たのだな、と妙な感心をしたくらいである。

「そなたには父親として何もしてやることができなかった。それは申し訳ないと思っている。これまで何もしてやれなかった分、王位を捨ててでも愛する者と結ばれたいというそなたの願いを、何としてでも叶えてやりたいと思ったのだ……」

 だけどそれが良いことなのか、既にわからなくなっていた。ギデオンには王太子位を降りるつもりなどなかったのだ。
 頭を抱えて蹲る息子を見て、国王は途方に暮れていた。
 

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...