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1章 ~現在 王宮にて~
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「ねえ……、どういうこと?ギデオン様、王様になれないの?!」
緊迫した空気を破ったのは、礼儀を弁えないミーシャの声だった。
全員の視線が一斉にミーシャへ集まる。
その視線に温かみがないのは仕方がないだろう。アンダーソン公爵夫妻が娘の婚約者の不貞相手を不快に思うのは当然のことだし、国王やマクロイド公爵だって王国唯一の王子を唆した相手に好感を持つはずがない。ただディゼル男爵夫妻だけは不躾に声を上げた娘が何を言い出すのかとハラハラしている。
だけどミーシャはそんな周りの目に気がついていないようだ。
隣で蹲るギデオンを問いただすように腕を掴んで揺さぶる。
「それに男爵家に婿入りってどういうこと?!うちにはお兄様が……っ」
そう、ミーシャには兄がいるのだ。
それがディゼル男爵夫妻が青くなっていた理由の1つでもある。
ディゼル男爵夫妻は娘がギデオンと懇意になっていることを知っていた。
だけどミーシャを咎めることはなかった。国王たちと同じ様に、ギデオンはミーシャを愛妾にするつもりなのだと思っていたからだ。娘が王太子に気に入られ、愛妾になれば実家の男爵家も恩恵を受けられる。
まさかギデオンがシェリルと婚約破棄してミーシャと結婚するつもりだとは――、それが王位継承権を捨てることだと認識していないとは、思っていなかった。
だけどギデオンはシェリルに婚約破棄を告げてしまった。
国王はそれを受け入れた。
そして新たに爵位を与えるのではなく、男爵家へ婿に入れと言った。
それがギデオンと男爵家への懲罰でもあるのだろう。通常王子が爵位を得る場合は公爵位が与えられる。
だけどギデオンは王家が決めた公爵家との縁組を勝手に破棄してしまった。王家と公爵家の信頼関係を壊そうとしたギデオンとミーシャには罰が与えられて当然である。そしてそれは男爵家に対する懲罰でもあった。
王籍を離れたとしてもギデオンが国王の子であることには変わりがない。
王子を婿に迎えるのであれば、王子を次の当主にするのが当然である。
例え跡継ぎにするつもりで領地経営を、家業を教え込んできた息子を嫡子から外したとしても、ギデオンが男爵領に一欠片も愛情を抱いていないとしても、男爵位を継ぐのはギデオンなのだ。
「……すぐに後継者変更の手続きを行います。息子にも卒業式でのことは話して聞かせておりますので、既に覚悟はできております」
「ちょっと、お父様!勝手なことを言わないでよ!!」
ミーシャが苛立たし気に声を上げる。
父親が受け入れるとは思っていなかったようだ。
だけど勝手なことを言っているのはミーシャの方である。そもそも国王はミーシャに発言を許していない。
蹲っていたはずのギデオンも、無礼に喚き出したミーシャを呆然と見つめている。
「ギデオン様は私を妃にしてくれるって言ったわ!私は王太子妃になるのよ!!」
「男爵令嬢は王太子妃になれん。王位継承権を持つ者の正妃は侯爵家以上の出身でなければならないと法で決められている。聞いていただろう?」
国王が不快そうに眉を顰めながら、それでもミーシャへ説明をする。
だけどミーシャに国王の温情は伝わらなかったようだ。
「そんなの関係ないわ!国王様の跡を継げるのはギデオン様だけよっ!!王妃がどんなに可愛がっていたってエドワード様は王位を継げないんだから!!」
「っ!!」
ミーシャが言い放った言葉に誰もが息を呑んだ。
緊迫した空気を破ったのは、礼儀を弁えないミーシャの声だった。
全員の視線が一斉にミーシャへ集まる。
その視線に温かみがないのは仕方がないだろう。アンダーソン公爵夫妻が娘の婚約者の不貞相手を不快に思うのは当然のことだし、国王やマクロイド公爵だって王国唯一の王子を唆した相手に好感を持つはずがない。ただディゼル男爵夫妻だけは不躾に声を上げた娘が何を言い出すのかとハラハラしている。
だけどミーシャはそんな周りの目に気がついていないようだ。
隣で蹲るギデオンを問いただすように腕を掴んで揺さぶる。
「それに男爵家に婿入りってどういうこと?!うちにはお兄様が……っ」
そう、ミーシャには兄がいるのだ。
それがディゼル男爵夫妻が青くなっていた理由の1つでもある。
ディゼル男爵夫妻は娘がギデオンと懇意になっていることを知っていた。
だけどミーシャを咎めることはなかった。国王たちと同じ様に、ギデオンはミーシャを愛妾にするつもりなのだと思っていたからだ。娘が王太子に気に入られ、愛妾になれば実家の男爵家も恩恵を受けられる。
まさかギデオンがシェリルと婚約破棄してミーシャと結婚するつもりだとは――、それが王位継承権を捨てることだと認識していないとは、思っていなかった。
だけどギデオンはシェリルに婚約破棄を告げてしまった。
国王はそれを受け入れた。
そして新たに爵位を与えるのではなく、男爵家へ婿に入れと言った。
それがギデオンと男爵家への懲罰でもあるのだろう。通常王子が爵位を得る場合は公爵位が与えられる。
だけどギデオンは王家が決めた公爵家との縁組を勝手に破棄してしまった。王家と公爵家の信頼関係を壊そうとしたギデオンとミーシャには罰が与えられて当然である。そしてそれは男爵家に対する懲罰でもあった。
王籍を離れたとしてもギデオンが国王の子であることには変わりがない。
王子を婿に迎えるのであれば、王子を次の当主にするのが当然である。
例え跡継ぎにするつもりで領地経営を、家業を教え込んできた息子を嫡子から外したとしても、ギデオンが男爵領に一欠片も愛情を抱いていないとしても、男爵位を継ぐのはギデオンなのだ。
「……すぐに後継者変更の手続きを行います。息子にも卒業式でのことは話して聞かせておりますので、既に覚悟はできております」
「ちょっと、お父様!勝手なことを言わないでよ!!」
ミーシャが苛立たし気に声を上げる。
父親が受け入れるとは思っていなかったようだ。
だけど勝手なことを言っているのはミーシャの方である。そもそも国王はミーシャに発言を許していない。
蹲っていたはずのギデオンも、無礼に喚き出したミーシャを呆然と見つめている。
「ギデオン様は私を妃にしてくれるって言ったわ!私は王太子妃になるのよ!!」
「男爵令嬢は王太子妃になれん。王位継承権を持つ者の正妃は侯爵家以上の出身でなければならないと法で決められている。聞いていただろう?」
国王が不快そうに眉を顰めながら、それでもミーシャへ説明をする。
だけどミーシャに国王の温情は伝わらなかったようだ。
「そんなの関係ないわ!国王様の跡を継げるのはギデオン様だけよっ!!王妃がどんなに可愛がっていたってエドワード様は王位を継げないんだから!!」
「っ!!」
ミーシャが言い放った言葉に誰もが息を呑んだ。
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