影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
8 / 142
1章 ~現在 王宮にて~

7

しおりを挟む
 ミーシャが口を閉ざすと部屋は静寂で満たされた。
 社交界の情報をきちんと把握し、人の気持ちを推し量ることができる者ならわかっているのだ。
 ギデオンとエドワードは一般的な異母兄弟以上に仲が悪い。いや、仲が悪いというよりギデオンが一方的にエドワードを嫌っている。

 それも仕方ないことだとシェリルは思う。
 国王がギデオンと共に過ごすのは公式行事の時だけだ。だけどエドワードとは薔薇の宮でいつも食事を共にしているし、薔薇の宮の庭園を王妃と3人で歩く姿は多くの使用人に目撃されている。
 文化祭や剣術大会といった学園行事の時も、ギデオンの通う王立学園に姿を見せたのはルイザ1人だけだった。だけどエドワードが通う騎士学院には、王妃と共に国王も訪れていたという。
 国王がギデオンよりエドワードを可愛がっていることは誰の目にも明らかだった。

 ギデオンは幼い頃から努力していた。
 王太子であるギデオンには物心がついた時から教育係がつけられている。そして教育係から課題の成果や成績が国王へ報告される。
 たった一度。一度だけ国王が何の予定もないのに百合の宮を訪れた。そしてギデオンの成績を褒め、頭を撫でたのだ。その経験がギデオンの宝物になった。

 それからギデオンは必死で努力を続けている。
 自身に興味のない国王ちちおやの気を引こうと、勉強も剣術も礼儀作法も求められる以上のものを身に付けてきた。
 薔薇の宮で育てられているエドワードが優秀だと言われるようになると更に必死になった。
 だから乱暴な言葉遣いや粗野な振る舞いに眉を顰める者がいても、ギデオン自身を無能だとか教養がないと言う者はいない。

 そしてそれがシェリルがギデオンに惹かれ、傍で支えたいと願う理由だった。
 同じ歳のエドワードとギデオンは常に比べられている。1番エドワードを意識して、比べているのはギデオン自身だ。
 エドワードが三カ国語を話せるようになったと聞けば四カ国語を、剣術大会で優勝したと聞けば自分も優勝を、と必死になる。だけど王太子であるギデオンが四カ国語を話せるのは当然だし、騎士学院の剣術大会と王立学園の剣術大会では出場者の実力がそもそも違うのだ。エドワードを褒め称え、薔薇の宮で祝賀会を開く国王が百合の宮を訪れることはなかった。

 その度に荒れるギデオンをシェリルは傍で見てきた。
 決して振り向いてくれない父親の背中を追いかけ、必死で自分の存在を主張しては叶わずに打ちのめされる。
 そんなギデオンの傍で力になり、安らげる居場所になりたいと思っていた。
 例えその役目を果たすのがシェリルではなくミーシャだとしても、その為に「正妃」の存在が必要ならば、その役目を果たそうと思えるぐらいにはギデオンを想っているのだ。
 
 勿論国王の中にはエドワードに対する罪悪感もあるだろう。
 国王の望みでエドワードは赤子の頃に両親から引き離された。その後、実の両親とは禄に会うこともできずに王宮で育てられている。
 学園も、公爵子息のエドワードなら問題なく王立学園に通えたはずだ。だけどエドワードはギデオンとの摩擦を避けるために騎士学院を選んでいる。

 王立学園は将来爵位を継いだり王宮で役職を得たいと望む者が通う学校だ。
 反対に騎士学院は騎士になるための学校で、三男・四男として生まれて継げる爵位のない者や役職に就く望みのない者が将来身を立てるために通っている。

 エドワードは良くわかっているのだ。
 ギデオンの恨みを買う自分は、ギデオンが即位すれば王宮に居場所はない。実家のダシェンボード公爵家もどうなるかわからない。
 だから王都を追放され、辺境へ追いやられても行きていけるように騎士の道を選んだのだろう。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...