12 / 142
1章 ~現在 王宮にて~
11
しおりを挟む
「シェリルが俺を、愛している……?」
シェリルからの求婚を聞いてもギデオンは呆然としたままだった。
その顔には「信じられない」という気持ちがありありと表れている。
確かに2人が親しくしていたこともあった。
だけどそれは学園に入学するまでのことだ。
学園に入学する前のギデオンは王宮で孤独だった。
父親である国王は滅多に百合の宮を訪れず、母親のルイザはそれをギデオンのせいにしてギデオンを責めている。直接それを口にすることはないけれど、「あなたは優秀なのだから、次も絶対に首席を取るのよ」「今度こそあの方もこちらを見てくれるはず……」という言葉は何度も聞いていた。
それがどれほどギデオンにとって重石になるのか……、そしてどれだけ優秀な成績を残しても父に振り向かれないギデオンの気持ちを傷つけるのか、ルイザは考えたことがないだろう。
そんなギデオンにとって、シェリルは一時的に淋しさを紛らわすことのできる相手だった。
今では考えられないことだが、幼い頃のギデオンは寂しくなるとシェリルがいる部屋の傍へ来てちょこんと座っているような男の子だったのだ。そんなギデオンをシェリルは無視することができず、妃教育の途中でも抜け出して秘密基地にしていた樹洞で遊んだりしていた。
勿論王宮へ戻った後は待ち構えていた教育係の夫人に揃って叱られたものだが、そんな時でも2人で手を繋いでいれば辛いと感じることはなかった。
だけど2人は成長していく。
身長が伸びて庭を駆けまわることもなくなり、あの樹洞にも入れなくなった頃から、2人の関係は少しずつ変わってしまったのだ。
「俺を愛しているなんて、嘘だろう……?そんな素振りは、少しも……」
幼い頃のことはギデオンも覚えていた。
誰も信じられない王宮の中で、シェリルだけは嘘偽りのない笑顔を向けてくれていたと思う。
その笑顔が眩しくて嬉しくて、シェリルといる時だけは淋しさを忘れることができた。
だけどシェリルも時と共に変わっていく。
いつの頃からか声を立てて笑うことがなくなり、手を繋いで庭園を駆けることもなくなった。勉強を抜け出して遊びに行こうと誘っても、困ったように微笑むだけになった。
その時ギデオンは気づいたのだ。
シェリルがこれまで優しくしてくれたのは、婚約者だからに過ぎない。
ギデオンのことを想ってのことではなく、婚約者としての役割を果たしていただけなのだ。
そう気づいた時、心に冷たい風が吹いた。
父はギデオンを王位を継がせる為の駒だと思っている。母は父の気を引く道具にしている。
優しく親切に振る舞う使用人たちも、ギデオンのいないところでは「エドワード様が王妃様のお子様であれば……」と囁いているのを知っている。
唯一ギデオンのために心を砕いてくれると思っていた乳母も、役目を終えると早々に王宮を辞し、それ以来一度も姿を見せていない。
ああ、乳母が優しくしてくれたのは、それが彼女の仕事だったからだ。
そう気づいた時の虚しさに似ていた。
シェリルからの求婚を聞いてもギデオンは呆然としたままだった。
その顔には「信じられない」という気持ちがありありと表れている。
確かに2人が親しくしていたこともあった。
だけどそれは学園に入学するまでのことだ。
学園に入学する前のギデオンは王宮で孤独だった。
父親である国王は滅多に百合の宮を訪れず、母親のルイザはそれをギデオンのせいにしてギデオンを責めている。直接それを口にすることはないけれど、「あなたは優秀なのだから、次も絶対に首席を取るのよ」「今度こそあの方もこちらを見てくれるはず……」という言葉は何度も聞いていた。
それがどれほどギデオンにとって重石になるのか……、そしてどれだけ優秀な成績を残しても父に振り向かれないギデオンの気持ちを傷つけるのか、ルイザは考えたことがないだろう。
そんなギデオンにとって、シェリルは一時的に淋しさを紛らわすことのできる相手だった。
今では考えられないことだが、幼い頃のギデオンは寂しくなるとシェリルがいる部屋の傍へ来てちょこんと座っているような男の子だったのだ。そんなギデオンをシェリルは無視することができず、妃教育の途中でも抜け出して秘密基地にしていた樹洞で遊んだりしていた。
勿論王宮へ戻った後は待ち構えていた教育係の夫人に揃って叱られたものだが、そんな時でも2人で手を繋いでいれば辛いと感じることはなかった。
だけど2人は成長していく。
身長が伸びて庭を駆けまわることもなくなり、あの樹洞にも入れなくなった頃から、2人の関係は少しずつ変わってしまったのだ。
「俺を愛しているなんて、嘘だろう……?そんな素振りは、少しも……」
幼い頃のことはギデオンも覚えていた。
誰も信じられない王宮の中で、シェリルだけは嘘偽りのない笑顔を向けてくれていたと思う。
その笑顔が眩しくて嬉しくて、シェリルといる時だけは淋しさを忘れることができた。
だけどシェリルも時と共に変わっていく。
いつの頃からか声を立てて笑うことがなくなり、手を繋いで庭園を駆けることもなくなった。勉強を抜け出して遊びに行こうと誘っても、困ったように微笑むだけになった。
その時ギデオンは気づいたのだ。
シェリルがこれまで優しくしてくれたのは、婚約者だからに過ぎない。
ギデオンのことを想ってのことではなく、婚約者としての役割を果たしていただけなのだ。
そう気づいた時、心に冷たい風が吹いた。
父はギデオンを王位を継がせる為の駒だと思っている。母は父の気を引く道具にしている。
優しく親切に振る舞う使用人たちも、ギデオンのいないところでは「エドワード様が王妃様のお子様であれば……」と囁いているのを知っている。
唯一ギデオンのために心を砕いてくれると思っていた乳母も、役目を終えると早々に王宮を辞し、それ以来一度も姿を見せていない。
ああ、乳母が優しくしてくれたのは、それが彼女の仕事だったからだ。
そう気づいた時の虚しさに似ていた。
15
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる