14 / 142
1章 ~現在 王宮にて~
13
しおりを挟む
「感情のまま殿下を詰ってしまいそうで怖かったのです」
そう言って俯いたシェリルをギデオンは信じられない気持ちで見つめた。
ギデオンが知っているシェリルは、ギデオンが何をしていても興味を示さない、父と同じように冷たい女だったからだ。
だけどシェリルは我慢していた?
本当は母と同じように泣き喚いて、ギデオンに縋りたかったというのだろうか。
「だ、だったらそう言えば良かっただろう?!他の女を見るな、傍にいてくれと言ってくれれば俺だって……っ!」
「……学園に入学する頃の私たちは、既にそのような関係ではありませんでした。覚えておられるでしょうか」
幼い頃のような親しい関係であれば、シェリルももっと違う言葉で縋ることができただろう。
「あの女性と親しくなさらないで」
「私だけを見て!」
そう言えたらどんなに良かっただろうか。
だけどシェリルとギデオンの間にはすっかり壁ができてしまっていた。
シェリルを婚約者としての役目を果たすだけの女と見做して距離を取るギデオンにシェリルが言えたことは、「婚約者ではない女性とあまり親しくされていては良くない噂が立ってしまいます」「公の場に婚約者以外の女性を連れて出てはいけません」というような、行いを諫める言葉だけだった。
「そのような言葉が、殿下の心に響かないことはわかっていました。ですが少しでも感情的な言葉を言ってしまっていたら、誰に見られていたとしても止めることができなくなっていたでしょう……」
「だから、そうすれば良かっただろう?!言いたいことを言えよ!!泣いて喚いて俺を責めれば良かったんだ!そうすれば俺だって……っ」
「おまえはそれを、シェリル嬢に許していたのか?」
言葉を挟んだのは国王だった。
ギデオンとシェリルが2人だけで話していても、このままでは平行線を辿るだけだろう。そう危惧した国王がシェリルに助け舟を出してくれたのだ。実際ギデオンは「え……?」と呟き、動きを止めている。
「そなたとシェリル嬢では身分が違う。いくら婚約者という立場にあってもだ。シェリル嬢が親しく口をきくにはそなたからの許可がいる」
まだきちんとした礼儀を知らない幼い頃は親しく話していたかもしれない。
だけど立場を自覚し、礼儀を身に着けるにつれて言葉遣いも態度も改まっていくものだ。
それを淋しく思うならば、「これまでと同じように話して良い」「2人だけの時は改まった態度を取る必要はない」と、ギデオンが許可を出さなければならなかった。
そこで国王はちらりとミーシャへ視線を向けた。
国王はずっと気になっていたのだ。長年婚約者であったシェリルはずっとギデオンを殿下と呼んでいたのに、ミーシャはずっとギデオン様と呼んでいた。
それをギデオンが許しているからだと思っていたけれど、これまでの礼儀を知らない振る舞いを考えると勝手に呼んでいたのかもしれない。
「それに淑女は人前で感情を表に出したりしない。妃教育を終えて完璧な淑女と呼ばれるシェリル嬢が、人前で感情的に振る舞うことなどあるはずがないだろう」
「で、ですが母上は……っ!」
ギデオンが弾かれたように声を上げる。
ギデオンの中で基準となっているのは母のルイザだ。
ルイザはいつも得られない国王の愛を求めて嘆き悲しんでいた。
「淑女は人前で感情を表に出したりしない」
それではまるでルイザが淑女ではないと言っているようではないか。
こんな時まで父上は母上を侮辱するのか――。
ギデオンはギリッと奥歯を噛み締めた。
そう言って俯いたシェリルをギデオンは信じられない気持ちで見つめた。
ギデオンが知っているシェリルは、ギデオンが何をしていても興味を示さない、父と同じように冷たい女だったからだ。
だけどシェリルは我慢していた?
本当は母と同じように泣き喚いて、ギデオンに縋りたかったというのだろうか。
「だ、だったらそう言えば良かっただろう?!他の女を見るな、傍にいてくれと言ってくれれば俺だって……っ!」
「……学園に入学する頃の私たちは、既にそのような関係ではありませんでした。覚えておられるでしょうか」
幼い頃のような親しい関係であれば、シェリルももっと違う言葉で縋ることができただろう。
「あの女性と親しくなさらないで」
「私だけを見て!」
そう言えたらどんなに良かっただろうか。
だけどシェリルとギデオンの間にはすっかり壁ができてしまっていた。
シェリルを婚約者としての役目を果たすだけの女と見做して距離を取るギデオンにシェリルが言えたことは、「婚約者ではない女性とあまり親しくされていては良くない噂が立ってしまいます」「公の場に婚約者以外の女性を連れて出てはいけません」というような、行いを諫める言葉だけだった。
「そのような言葉が、殿下の心に響かないことはわかっていました。ですが少しでも感情的な言葉を言ってしまっていたら、誰に見られていたとしても止めることができなくなっていたでしょう……」
「だから、そうすれば良かっただろう?!言いたいことを言えよ!!泣いて喚いて俺を責めれば良かったんだ!そうすれば俺だって……っ」
「おまえはそれを、シェリル嬢に許していたのか?」
言葉を挟んだのは国王だった。
ギデオンとシェリルが2人だけで話していても、このままでは平行線を辿るだけだろう。そう危惧した国王がシェリルに助け舟を出してくれたのだ。実際ギデオンは「え……?」と呟き、動きを止めている。
「そなたとシェリル嬢では身分が違う。いくら婚約者という立場にあってもだ。シェリル嬢が親しく口をきくにはそなたからの許可がいる」
まだきちんとした礼儀を知らない幼い頃は親しく話していたかもしれない。
だけど立場を自覚し、礼儀を身に着けるにつれて言葉遣いも態度も改まっていくものだ。
それを淋しく思うならば、「これまでと同じように話して良い」「2人だけの時は改まった態度を取る必要はない」と、ギデオンが許可を出さなければならなかった。
そこで国王はちらりとミーシャへ視線を向けた。
国王はずっと気になっていたのだ。長年婚約者であったシェリルはずっとギデオンを殿下と呼んでいたのに、ミーシャはずっとギデオン様と呼んでいた。
それをギデオンが許しているからだと思っていたけれど、これまでの礼儀を知らない振る舞いを考えると勝手に呼んでいたのかもしれない。
「それに淑女は人前で感情を表に出したりしない。妃教育を終えて完璧な淑女と呼ばれるシェリル嬢が、人前で感情的に振る舞うことなどあるはずがないだろう」
「で、ですが母上は……っ!」
ギデオンが弾かれたように声を上げる。
ギデオンの中で基準となっているのは母のルイザだ。
ルイザはいつも得られない国王の愛を求めて嘆き悲しんでいた。
「淑女は人前で感情を表に出したりしない」
それではまるでルイザが淑女ではないと言っているようではないか。
こんな時まで父上は母上を侮辱するのか――。
ギデオンはギリッと奥歯を噛み締めた。
12
あなたにおすすめの小説
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる