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1章 ~現在 王宮にて~
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「あの……、ルイザ様も人前で感情的になることはありませんよ?ルイザ様が思いのままにお話されるのは百合の宮におられる時だけで、それもお一人の時か懇意にされている極少数の方の前だけでしょう。誰の前でも自由にお話されているわけではありません」
「……?!」
悔しそうに顔を歪めるギデオンを宥めるようにシェリルが言うと、ギデオンは勢いよく振り向いた。
だけどそれは本当のことだ。
ルイザは妃教育を受けていないだけで、淑女教育は受けている。ミーシャのように所構わず好き勝手に振る舞っているわけではない。
「それとも殿下は、ルイザ様が誰かお客様の前でそのように振る舞われるのをご覧になったことがあるのでしょうか」
「……!!」
シェリルは遠慮をして「お話される」と言っているが、要するにルイザが客人の前で泣き喚いているのを見たことがあるかと訊いているのだ。
そして考えてみればギデオンもそんな場面は見たことがない。
側妃であるルイザは国王のパートナーとして王宮の舞踏会や晩餐会に出ることはできないが、ルイザ自身がお茶会やサロンを開いて百合の宮に客人を招くことはある。
だけどその時のルイザはいつも笑顔だった。
ルイザが泣きながら夫への不満をぶちまけるのは、夜遅く1人きりになった時か、誰かがいるとしてもギデオンや実家の伯爵家から連れてきた馴染みの侍女が1人か2人いる時だけだ。
「貴族である以上、人前では感情を抑えるべきだと教えられますが、だからといって私たちにも感情がないわけではないのです。感情を抑え続けていては疲れ果ててしまいますわ。だから誰か……、心を許した家族や友人の前でだけは、心のままに感情を口にしても良いのです。……それが信頼でもあります」
信頼。
信頼していたミーシャに裏切られたばかりのギデオンには重い言葉だった。
それと同時に気がついた。
ギデオンの前ではあんなに夫の不実を詰り、顧みられない身の上を嘆き悲しむルイザだが、国王の前でそんな姿を見せたことはなかったのだ。極稀に国王が訪れる時は、いつも穏やかに微笑んでいた。
「今話しているのは貴族として当然のことだ。そなたも同じように教えられているはずなのだがな」
再び頭を抱えてソファに沈み込んだギデオンへ、国王が困惑したような視線を向ける。
そう、人前で感情を隠すことは、淑女だけではなく貴族として当然のことだ。
王太子教育を受けているギデオンも当然教えられているし、身につけている。
「恐らく殿下は、無意識に公と私を使い分けてこられたのでしょう。ご自身が無意識にされていることですから、他の者が意識して使い分けているとは思わなかったのですね」
以前は気に入らないことがあると声を荒らげ、乱暴な振る舞いを見せることもあったギデオンだが、公的な場面でそんな振る舞いを見せたことはない。
他国からの賓客に側妃腹の王子であることをあからさまに見下された時も、笑顔のままでやり込めていた。
人は、自分が無意識に行っていることが特別なことだとは思わないものだ。
普段見聞きしているルイザの嘆きが、自身の劣等感とも相まり強烈な印象として焼き付いているのもあるだろう。
「つまりはすべて俺の思い違い……、ということなのだな?」
ギデオンの呻くような言葉に、シェリルは応えることができずに視線を下げた。
「……?!」
悔しそうに顔を歪めるギデオンを宥めるようにシェリルが言うと、ギデオンは勢いよく振り向いた。
だけどそれは本当のことだ。
ルイザは妃教育を受けていないだけで、淑女教育は受けている。ミーシャのように所構わず好き勝手に振る舞っているわけではない。
「それとも殿下は、ルイザ様が誰かお客様の前でそのように振る舞われるのをご覧になったことがあるのでしょうか」
「……!!」
シェリルは遠慮をして「お話される」と言っているが、要するにルイザが客人の前で泣き喚いているのを見たことがあるかと訊いているのだ。
そして考えてみればギデオンもそんな場面は見たことがない。
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だけどその時のルイザはいつも笑顔だった。
ルイザが泣きながら夫への不満をぶちまけるのは、夜遅く1人きりになった時か、誰かがいるとしてもギデオンや実家の伯爵家から連れてきた馴染みの侍女が1人か2人いる時だけだ。
「貴族である以上、人前では感情を抑えるべきだと教えられますが、だからといって私たちにも感情がないわけではないのです。感情を抑え続けていては疲れ果ててしまいますわ。だから誰か……、心を許した家族や友人の前でだけは、心のままに感情を口にしても良いのです。……それが信頼でもあります」
信頼。
信頼していたミーシャに裏切られたばかりのギデオンには重い言葉だった。
それと同時に気がついた。
ギデオンの前ではあんなに夫の不実を詰り、顧みられない身の上を嘆き悲しむルイザだが、国王の前でそんな姿を見せたことはなかったのだ。極稀に国王が訪れる時は、いつも穏やかに微笑んでいた。
「今話しているのは貴族として当然のことだ。そなたも同じように教えられているはずなのだがな」
再び頭を抱えてソファに沈み込んだギデオンへ、国王が困惑したような視線を向ける。
そう、人前で感情を隠すことは、淑女だけではなく貴族として当然のことだ。
王太子教育を受けているギデオンも当然教えられているし、身につけている。
「恐らく殿下は、無意識に公と私を使い分けてこられたのでしょう。ご自身が無意識にされていることですから、他の者が意識して使い分けているとは思わなかったのですね」
以前は気に入らないことがあると声を荒らげ、乱暴な振る舞いを見せることもあったギデオンだが、公的な場面でそんな振る舞いを見せたことはない。
他国からの賓客に側妃腹の王子であることをあからさまに見下された時も、笑顔のままでやり込めていた。
人は、自分が無意識に行っていることが特別なことだとは思わないものだ。
普段見聞きしているルイザの嘆きが、自身の劣等感とも相まり強烈な印象として焼き付いているのもあるだろう。
「つまりはすべて俺の思い違い……、ということなのだな?」
ギデオンの呻くような言葉に、シェリルは応えることができずに視線を下げた。
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