影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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3章 〜過去 正妃と側妃〜

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 ここでカールは、ヴィラント伯爵夫妻から祝いの品や子ども用品が届いたと一度も聞いていないことに気がついた。
 だが夫妻にとっても初めての孫である。それも王位を継ぐかもしれない子どもなのだから喜んでいないはずがない。
 イーネにはルイザの様子を報告するよう命じているが、何もかもすべてを報告する必要はないのだ。だから親子間でのやり取りが報告から省かれていてもおかしくない。ルイザの交友関係については一度も知らされていないのだから。


 ふと目を閉じればルイが生まれるまでのことが思い浮かんだ。
 エリザベートは懐妊の兆候が現れるとすぐに安静に努めたので子ども部屋の準備をすることができなかった。だからカールや侍女たちが沢山の色見本を抱えてベッドサイドに立ち、一緒に壁の色を選んだ。壁の色が決まると今度は壁に描く絵の見本を沢山用意させてその中から選ぶ。絨毯の色、並べるチェストの色や形を決め、ベビーベッドをいくつもエリザベートのベッドサイドに並べさせて選んだ。

 エリザベートの懐妊に喜んだのはダシェンボード公爵家でも同じだった。それまで二度子が流れていることは伝えてないが、元々授からないのではないかと言われていた子どもである。
 公爵夫人やアンヌ、ゾフィーからはたくさんの手袋や靴下、帽子などが届いた。すべて彼女たちが編んだものである。エリザベートが長く座って編み物ができないことを思って作ってくれたのだろう。得意のレースで縁取られた涎掛けも沢山あった。

 それだけではなく、彼女たちはおもちゃやぬいぐるみなども一緒に選んだ。
 薔薇の宮に商人を呼んでも彼らを寝室に入れるわけにはいかない。
 だから商人たちは応接間に商品を並べ、その中から公爵夫人たちが良いと思ったものを持って見せに来る。カールとエリザベートはそれを見て買うか買わないかを決めるのだ。まあほとんど買ってしまったのは言うまでもない。

 あの頃は希望と期待に満ち溢れていて楽しかった。
 薔薇の宮でもいつも人の話し声や笑い声が響いていて活気に満ちていた。
 あの楽しさをルイザが味わえないのは可哀想な気もするが、それがヴィラント伯爵家の選択なら仕方ないだろう。
 そう結論付けたカールは、教えられたままに懐妊を人に知られてはいけないのだと信じたルイザが実の両親にも伝えていないとは考えもしなかった。



 そしてそれから数日後。
 待っていたようで恐れていた報せが百合の宮からもたらされた。
 ルイザの出産が始まったのだ。




 
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