122 / 142
3章 〜過去 正妃と側妃〜
56
しおりを挟む
ここでカールは、ヴィラント伯爵夫妻から祝いの品や子ども用品が届いたと一度も聞いていないことに気がついた。
だが夫妻にとっても初めての孫である。それも王位を継ぐかもしれない子どもなのだから喜んでいないはずがない。
イーネにはルイザの様子を報告するよう命じているが、何もかもすべてを報告する必要はないのだ。だから親子間でのやり取りが報告から省かれていてもおかしくない。ルイザの交友関係については一度も知らされていないのだから。
ふと目を閉じればルイが生まれるまでのことが思い浮かんだ。
エリザベートは懐妊の兆候が現れるとすぐに安静に努めたので子ども部屋の準備をすることができなかった。だからカールや侍女たちが沢山の色見本を抱えてベッドサイドに立ち、一緒に壁の色を選んだ。壁の色が決まると今度は壁に描く絵の見本を沢山用意させてその中から選ぶ。絨毯の色、並べるチェストの色や形を決め、ベビーベッドをいくつもエリザベートのベッドサイドに並べさせて選んだ。
エリザベートの懐妊に喜んだのはダシェンボード公爵家でも同じだった。それまで二度子が流れていることは伝えてないが、元々授からないのではないかと言われていた子どもである。
公爵夫人やアンヌ、ゾフィーからはたくさんの手袋や靴下、帽子などが届いた。すべて彼女たちが編んだものである。エリザベートが長く座って編み物ができないことを思って作ってくれたのだろう。得意のレースで縁取られた涎掛けも沢山あった。
それだけではなく、彼女たちはおもちゃやぬいぐるみなども一緒に選んだ。
薔薇の宮に商人を呼んでも彼らを寝室に入れるわけにはいかない。
だから商人たちは応接間に商品を並べ、その中から公爵夫人たちが良いと思ったものを持って見せに来る。カールとエリザベートはそれを見て買うか買わないかを決めるのだ。まあほとんど買ってしまったのは言うまでもない。
あの頃は希望と期待に満ち溢れていて楽しかった。
薔薇の宮でもいつも人の話し声や笑い声が響いていて活気に満ちていた。
あの楽しさをルイザが味わえないのは可哀想な気もするが、それがヴィラント伯爵家の選択なら仕方ないだろう。
そう結論付けたカールは、教えられたままに懐妊を人に知られてはいけないのだと信じたルイザが実の両親にも伝えていないとは考えもしなかった。
そしてそれから数日後。
待っていたようで恐れていた報せが百合の宮からもたらされた。
ルイザの出産が始まったのだ。
だが夫妻にとっても初めての孫である。それも王位を継ぐかもしれない子どもなのだから喜んでいないはずがない。
イーネにはルイザの様子を報告するよう命じているが、何もかもすべてを報告する必要はないのだ。だから親子間でのやり取りが報告から省かれていてもおかしくない。ルイザの交友関係については一度も知らされていないのだから。
ふと目を閉じればルイが生まれるまでのことが思い浮かんだ。
エリザベートは懐妊の兆候が現れるとすぐに安静に努めたので子ども部屋の準備をすることができなかった。だからカールや侍女たちが沢山の色見本を抱えてベッドサイドに立ち、一緒に壁の色を選んだ。壁の色が決まると今度は壁に描く絵の見本を沢山用意させてその中から選ぶ。絨毯の色、並べるチェストの色や形を決め、ベビーベッドをいくつもエリザベートのベッドサイドに並べさせて選んだ。
エリザベートの懐妊に喜んだのはダシェンボード公爵家でも同じだった。それまで二度子が流れていることは伝えてないが、元々授からないのではないかと言われていた子どもである。
公爵夫人やアンヌ、ゾフィーからはたくさんの手袋や靴下、帽子などが届いた。すべて彼女たちが編んだものである。エリザベートが長く座って編み物ができないことを思って作ってくれたのだろう。得意のレースで縁取られた涎掛けも沢山あった。
それだけではなく、彼女たちはおもちゃやぬいぐるみなども一緒に選んだ。
薔薇の宮に商人を呼んでも彼らを寝室に入れるわけにはいかない。
だから商人たちは応接間に商品を並べ、その中から公爵夫人たちが良いと思ったものを持って見せに来る。カールとエリザベートはそれを見て買うか買わないかを決めるのだ。まあほとんど買ってしまったのは言うまでもない。
あの頃は希望と期待に満ち溢れていて楽しかった。
薔薇の宮でもいつも人の話し声や笑い声が響いていて活気に満ちていた。
あの楽しさをルイザが味わえないのは可哀想な気もするが、それがヴィラント伯爵家の選択なら仕方ないだろう。
そう結論付けたカールは、教えられたままに懐妊を人に知られてはいけないのだと信じたルイザが実の両親にも伝えていないとは考えもしなかった。
そしてそれから数日後。
待っていたようで恐れていた報せが百合の宮からもたらされた。
ルイザの出産が始まったのだ。
65
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる