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4章 〜過去 崩れゆく世界〜
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御湯の儀式が終わればすぐに帰るつもりだったカールだが、そんなわけにはいかなった。
ここにいる者は皆カールが百合の宮へ来るのを待っていたのだ。書面では毎日報告を受けていたが、ここでまとめて報告会を行うことになった。
強く拒否できなかったのは、ギデオンをもっと見ていたいという欲求に引きづられていたからだ。
初めての沐浴が気持ちいいのかギデオンは湯の中で時々声を上げて手足をバタつかせていた。可愛い口を開けて欠伸をすることもあった。
見てはいけないと頭では思っているのに目を逸らすことができなかった。
今ギデオンは白い夜着を着せられ、マクレガー伯爵夫人に抱かれている。報告会にギデオンがいる必要はないので先に子ども部屋へ連れて行かれるのだ。
マクレガー伯爵夫人は退出する前にギデオンを抱いてカールとルイザのところへやって来た。
ギデオンはもうおねむのようで目を瞬いている。伯爵夫人はルイザにギデオンをそっと差し出した。
「妃殿下。ギデオン様を抱いてあげて下さい」
「え、でも……怖いわ」
「大丈夫ですよ。このまま受け取ってくだされば良いのです」
そう言われてルイザはおずおずと両手を差し出した。
マクレガー伯爵夫人がそこへ上手くギデオンを乗せてくれる。ルイザはぎこちないながらも胸元へ抱き寄せ、愛しそうに頬を緩めた。
「妃殿下はまだ体調が回復していないので、あまりお抱きになれていないのです」
「ああ、そうか」
ルイザの不慣れな様子をカールが気にすると思ったのだろうか。マクレガー伯爵夫人が弁明するように告げる。
だけどカールはそれをあまり気にしていなかった。
確かにルイザはまだ子を抱き慣れていないようで動きがぎこちない。カールの方が抱くのは上手いだろう。
だけどエリザベートもルイを産んだ後は長く寝付いていたので面倒をみるようになったのは何ヶ月も経ってからだ。それまでは日に何度かこうして乳母に抱かせてもらっていたのを覚えている。
だからルイザもそんなものなのだろうと受け止めていた。
おっかなびっくり子を抱いていたルイザだが、少しずつ慣れていったようだ。
ルイザには弟妹がいる。新生児の扱いに慣れていなかっただけで幼い子の面倒をみるのは慣れているのだろう。
自然な様子で子をあやしていたルイザがカールに身を寄せ、ギデオンを差し出してきた。
「陛下も抱いてみて下さい。とても可愛いですわ」
「っ!!」
無意識にギデオンを見つめていたカールはハッとして身を離す。
この子に触れることはエリザベートを裏切ることだ。
それをルイザはカールが新生児を抱くのを怖がっていると思ったのか微笑みながら更に腕を伸ばしてきた。
「大丈夫です。このまま受け取ってくだされば良いのです」
「やめてくれっ!」
反射的にカールは怒鳴っていた。
怒鳴られたルイザがビクッとして体を震わせ、間に挟まれたギデオンも驚いて泣き声を上げる。
マクレガー伯爵夫人が慌ててギデオンを受け取り、二人に頭を下げた。
「ギデオン様はお休みの時間ですのでそろそろ失礼致します」
退出を求める伯爵夫人にカールは手を振って許可を出した。
カールが怒鳴った時のギデオンの表情が忘れられない。すっかり怖がらせてしまっていた。
遠ざかる泣き声に胸が痛んだ。
ここにいる者は皆カールが百合の宮へ来るのを待っていたのだ。書面では毎日報告を受けていたが、ここでまとめて報告会を行うことになった。
強く拒否できなかったのは、ギデオンをもっと見ていたいという欲求に引きづられていたからだ。
初めての沐浴が気持ちいいのかギデオンは湯の中で時々声を上げて手足をバタつかせていた。可愛い口を開けて欠伸をすることもあった。
見てはいけないと頭では思っているのに目を逸らすことができなかった。
今ギデオンは白い夜着を着せられ、マクレガー伯爵夫人に抱かれている。報告会にギデオンがいる必要はないので先に子ども部屋へ連れて行かれるのだ。
マクレガー伯爵夫人は退出する前にギデオンを抱いてカールとルイザのところへやって来た。
ギデオンはもうおねむのようで目を瞬いている。伯爵夫人はルイザにギデオンをそっと差し出した。
「妃殿下。ギデオン様を抱いてあげて下さい」
「え、でも……怖いわ」
「大丈夫ですよ。このまま受け取ってくだされば良いのです」
そう言われてルイザはおずおずと両手を差し出した。
マクレガー伯爵夫人がそこへ上手くギデオンを乗せてくれる。ルイザはぎこちないながらも胸元へ抱き寄せ、愛しそうに頬を緩めた。
「妃殿下はまだ体調が回復していないので、あまりお抱きになれていないのです」
「ああ、そうか」
ルイザの不慣れな様子をカールが気にすると思ったのだろうか。マクレガー伯爵夫人が弁明するように告げる。
だけどカールはそれをあまり気にしていなかった。
確かにルイザはまだ子を抱き慣れていないようで動きがぎこちない。カールの方が抱くのは上手いだろう。
だけどエリザベートもルイを産んだ後は長く寝付いていたので面倒をみるようになったのは何ヶ月も経ってからだ。それまでは日に何度かこうして乳母に抱かせてもらっていたのを覚えている。
だからルイザもそんなものなのだろうと受け止めていた。
おっかなびっくり子を抱いていたルイザだが、少しずつ慣れていったようだ。
ルイザには弟妹がいる。新生児の扱いに慣れていなかっただけで幼い子の面倒をみるのは慣れているのだろう。
自然な様子で子をあやしていたルイザがカールに身を寄せ、ギデオンを差し出してきた。
「陛下も抱いてみて下さい。とても可愛いですわ」
「っ!!」
無意識にギデオンを見つめていたカールはハッとして身を離す。
この子に触れることはエリザベートを裏切ることだ。
それをルイザはカールが新生児を抱くのを怖がっていると思ったのか微笑みながら更に腕を伸ばしてきた。
「大丈夫です。このまま受け取ってくだされば良いのです」
「やめてくれっ!」
反射的にカールは怒鳴っていた。
怒鳴られたルイザがビクッとして体を震わせ、間に挟まれたギデオンも驚いて泣き声を上げる。
マクレガー伯爵夫人が慌ててギデオンを受け取り、二人に頭を下げた。
「ギデオン様はお休みの時間ですのでそろそろ失礼致します」
退出を求める伯爵夫人にカールは手を振って許可を出した。
カールが怒鳴った時のギデオンの表情が忘れられない。すっかり怖がらせてしまっていた。
遠ざかる泣き声に胸が痛んだ。
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