影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
134 / 142
4章 〜過去 崩れゆく世界〜

8

しおりを挟む
 御湯の儀式が終わればすぐに帰るつもりだったカールだが、そんなわけにはいかなった。
 ここにいる者は皆カールが百合の宮へ来るのを待っていたのだ。書面では毎日報告を受けていたが、ここでまとめて報告会を行うことになった。

 強く拒否できなかったのは、ギデオンをもっと見ていたいという欲求に引きづられていたからだ。
 初めての沐浴が気持ちいいのかギデオンは湯の中で時々声を上げて手足をバタつかせていた。可愛い口を開けて欠伸をすることもあった。
 見てはいけないと頭では思っているのに目を逸らすことができなかった。
 今ギデオンは白い夜着を着せられ、マクレガー伯爵夫人に抱かれている。報告会にギデオンがいる必要はないので先に子ども部屋へ連れて行かれるのだ。


 マクレガー伯爵夫人は退出する前にギデオンを抱いてカールとルイザのところへやって来た。
 ギデオンはもうおねむのようで目を瞬いている。伯爵夫人はルイザにギデオンをそっと差し出した。 

「妃殿下。ギデオン様を抱いてあげて下さい」

「え、でも……怖いわ」

「大丈夫ですよ。このまま受け取ってくだされば良いのです」

 そう言われてルイザはおずおずと両手を差し出した。
 マクレガー伯爵夫人がそこへ上手くギデオンを乗せてくれる。ルイザはぎこちないながらも胸元へ抱き寄せ、愛しそうに頬を緩めた。

「妃殿下はまだ体調が回復していないので、あまりお抱きになれていないのです」

「ああ、そうか」

 ルイザの不慣れな様子をカールが気にすると思ったのだろうか。マクレガー伯爵夫人が弁明するように告げる。
 だけどカールはそれをあまり気にしていなかった。

 確かにルイザはまだ子を抱き慣れていないようで動きがぎこちない。カールの方が抱くのは上手いだろう。
 だけどエリザベートもルイを産んだ後は長く寝付いていたので面倒をみるようになったのは何ヶ月も経ってからだ。それまでは日に何度かこうして乳母に抱かせてもらっていたのを覚えている。
 だからルイザもそんなものなのだろうと受け止めていた。



 おっかなびっくり子を抱いていたルイザだが、少しずつ慣れていったようだ。
 ルイザには弟妹がいる。新生児の扱いに慣れていなかっただけで幼い子の面倒をみるのは慣れているのだろう。
 自然な様子で子をあやしていたルイザがカールに身を寄せ、ギデオンを差し出してきた。

「陛下も抱いてみて下さい。とても可愛いですわ」

「っ!!」

 無意識にギデオンを見つめていたカールはハッとして身を離す。
 この子に触れることはエリザベートを裏切ることだ。
 それをルイザはカールが新生児を抱くのを怖がっていると思ったのか微笑みながら更に腕を伸ばしてきた。

「大丈夫です。このまま受け取ってくだされば良いのです」

「やめてくれっ!」

 反射的にカールは怒鳴っていた。
 怒鳴られたルイザがビクッとして体を震わせ、間に挟まれたギデオンも驚いて泣き声を上げる。
 マクレガー伯爵夫人が慌ててギデオンを受け取り、二人に頭を下げた。

「ギデオン様はお休みの時間ですのでそろそろ失礼致します」

 退出を求める伯爵夫人にカールは手を振って許可を出した。

 カールが怒鳴った時のギデオンの表情が忘れられない。すっかり怖がらせてしまっていた。
 遠ざかる泣き声に胸が痛んだ。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...