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4章 〜過去 崩れゆく世界〜
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カールが薔薇の宮に戻るとエリザベートは既に眠っていた。
侍女たちの話によると、カールが出掛けた後すぐに寝る準備を始めたらしい。
平気そうなふりをしていても何も感じていないわけがない。それでも寝顔は穏やかだった。
少しでも眠りが癒やしになれば良い。
カールはエリザベートをそっと抱き寄せ眠りについた。
それからもカールは基本的にエリザベートの傍で過ごし、月に一度か二度百合の宮へ行く生活を続けた。
百合の宮へ行くのは主にギデオンの養育について話し合う時だ。
その中の一つにマクレガー伯爵夫人の休日についての話もあった。
ギデオンの乳母にはマクレガー伯爵夫人一人しか雇っていない。だから週に一度マクレガー伯爵夫人が休む時は子どもがいる侍女が中心になってギデオンの面倒を見る。
ルイの時はエリザベートとカールが率先して面倒を見ようとし、侍女たちがそれを助ける形だったので乳母は一人で事足りていたが、今カールは百合の宮に寄り付かず、ルイザも普段からマクレガー伯爵夫人に子の世話を任せているのでもう一人乳母を増やすべきではないかと進言があったのだ。
だが、マクレガー伯爵夫人は乳母を増やす必要はないと言う。
「私に丸一日の休みは必要ありません。朝食後に帰らせて頂ければ、夕食までに戻ってまいります」
「だがそれでは伯爵家の者が納得しないだろう。あちらにはそなたの子もいるのだ」
「長男は既に母親の手をそれ程必要としていません。昼間に一緒に出掛けたり勉強を見てやれれば夜は寝るだけですから。次男も乳母を雇っておりますし、面倒を見れる者が揃っております」
おかしな話に聞こえるが、マクレガー伯爵家では夫人が出仕するに当たって乳母を三名雇ったらしい。
ギデオンをあまり人目につかせたくないカールが使用人の数を絞っているのでこうなることを予測していたのかもしれない。
将来的に王太子の乳母として重用される為に他の者を寄せ付けないよう望んでいるのか。
「本当に良いのだな?」
「はい。問題ございません」
マクレガー伯爵夫人としては父王に放置された王子に同情心を抱いていた。
ルイザも子を可愛がる気持ちはあるが、それよりカールの気を引くことに集中している。
だけどカールにも子を愛する気持ちはあるのだ。
今はその気持ちを受け入れられていないだけ。少しずつ距離を縮められるよう手助けしてあげたい。
ルイザもカールの気持ちがこちらに向けば落ち着いていくだろう。それを傍で見守りたい。
そうして他の乳母を雇わないと決まるとマクレガー伯爵夫人は深々を頭を下げた。
ギデオンが初めて熱を出した時もカールは駆けつけた。
ベビーベッドを囲む侍医たちの姿に嫌な記憶が蘇る。
「どうなっている?!ギデオンは無事だろうな?!」
「落ち着いて下さい、陛下。侍医が今診ております」
大きな声を上げるカールをイーネが押し止める。
カールは診察の邪魔にならないよう侍医たちの後ろで大人しくしているしかなかった。
この時もカールはギデオンに触れることはなかったが、熱で赤くなった顔を心配そうに見つめていた。
幸いなことに軽い風邪だったようで二日程で熱は下がった。
その間カールはイライラしながら報告を待っていた。
侍女たちの話によると、カールが出掛けた後すぐに寝る準備を始めたらしい。
平気そうなふりをしていても何も感じていないわけがない。それでも寝顔は穏やかだった。
少しでも眠りが癒やしになれば良い。
カールはエリザベートをそっと抱き寄せ眠りについた。
それからもカールは基本的にエリザベートの傍で過ごし、月に一度か二度百合の宮へ行く生活を続けた。
百合の宮へ行くのは主にギデオンの養育について話し合う時だ。
その中の一つにマクレガー伯爵夫人の休日についての話もあった。
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ルイの時はエリザベートとカールが率先して面倒を見ようとし、侍女たちがそれを助ける形だったので乳母は一人で事足りていたが、今カールは百合の宮に寄り付かず、ルイザも普段からマクレガー伯爵夫人に子の世話を任せているのでもう一人乳母を増やすべきではないかと進言があったのだ。
だが、マクレガー伯爵夫人は乳母を増やす必要はないと言う。
「私に丸一日の休みは必要ありません。朝食後に帰らせて頂ければ、夕食までに戻ってまいります」
「だがそれでは伯爵家の者が納得しないだろう。あちらにはそなたの子もいるのだ」
「長男は既に母親の手をそれ程必要としていません。昼間に一緒に出掛けたり勉強を見てやれれば夜は寝るだけですから。次男も乳母を雇っておりますし、面倒を見れる者が揃っております」
おかしな話に聞こえるが、マクレガー伯爵家では夫人が出仕するに当たって乳母を三名雇ったらしい。
ギデオンをあまり人目につかせたくないカールが使用人の数を絞っているのでこうなることを予測していたのかもしれない。
将来的に王太子の乳母として重用される為に他の者を寄せ付けないよう望んでいるのか。
「本当に良いのだな?」
「はい。問題ございません」
マクレガー伯爵夫人としては父王に放置された王子に同情心を抱いていた。
ルイザも子を可愛がる気持ちはあるが、それよりカールの気を引くことに集中している。
だけどカールにも子を愛する気持ちはあるのだ。
今はその気持ちを受け入れられていないだけ。少しずつ距離を縮められるよう手助けしてあげたい。
ルイザもカールの気持ちがこちらに向けば落ち着いていくだろう。それを傍で見守りたい。
そうして他の乳母を雇わないと決まるとマクレガー伯爵夫人は深々を頭を下げた。
ギデオンが初めて熱を出した時もカールは駆けつけた。
ベビーベッドを囲む侍医たちの姿に嫌な記憶が蘇る。
「どうなっている?!ギデオンは無事だろうな?!」
「落ち着いて下さい、陛下。侍医が今診ております」
大きな声を上げるカールをイーネが押し止める。
カールは診察の邪魔にならないよう侍医たちの後ろで大人しくしているしかなかった。
この時もカールはギデオンに触れることはなかったが、熱で赤くなった顔を心配そうに見つめていた。
幸いなことに軽い風邪だったようで二日程で熱は下がった。
その間カールはイライラしながら報告を待っていた。
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