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きみをはらませたのはだれだ?

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「誤解するなよ。なにも下種の勘繰りというやつじゃない。ただ、このさきのおれたちの関係にかかわってくることだからな。きみとマイクとおれ。三人の関係を前向きに考えれば、知っておいた方がいい。ちがうか?」

 アンディは葡萄酒の瓶と空になったグラスをテーブルの脇にどけると、テーブル越しに顔を近づけてきた。

 酒精のにおいが鼻にまとわりつく。

 その臭気だけで酔ってしまいそうになる。

「なぁ、そろそろ進展があってもいい頃だろう? おれときみ、おれとマイク。いい関係を築けている。だろう? だったら、もっと親密になるべきだ。たとえば、このように……」

 アンディはそう言うなり手を伸ばし、わたしの右手を握った。というよりか、痛みで飛び上がるほどの力でつかんできた。

 一瞬、体が硬直した。それは、痛みによるものだけではない。

 初夜のときにサンダーソン公爵にされたことを思い出し、恐怖心で体も心もいっぱいになった。

「おいおい。いくら田舎で生まれ育ったとはいえ、子どもを産んでるんだ。ヤルことはしっかりヤッテいるってことだろう? なにもそんなにお嬢様ぶることはないぞ」

 アンディは、美貌に笑みを浮かべた。

 その笑みは、やけにいやらしく見えた。

 彼には、わたしはこの街で生まれ育っているということにしている。メリッサもその話にあわせてくれている。

 当然、過去のことは話していない。

 アンディは、軍人だった。しかも彼は、ついこの前まで行われていた戦争に将校として従軍している。将校ともなれば、サンダーソン公爵、というよりかサンダーソン将軍の身近にいたはず。すくなくとも彼はそう自己申告した。軍人としてというだけではない。貴族としても、このサムズ王国の三大公爵家の一家であるサンダーソン公爵を知らないわけはない。

 だから、わたしとサンダーソン公爵の関係について、彼には口が裂けても言えない。

 しかし、もしも真実を話せば、アンディはどういう反応を示すだろうか?

 サンダーソン公爵のことをどんなふうに思い、言うかしら?

 ふと興味を抱くこともあった。

 が、すぐに思い直した。

(こんな陰気臭くて見た目もよくないわたしが、訳アリとはいえサンダーソン公爵の妻だっただなんて、言っても信じないわね)

 アンディがそんな話を信じるわけはない。

「あの、後片付けをしますね」

 かなり動揺している。

 たった一度だけ男性とそういうことをしたとはいえ、それ以外には経験がない。息子であるマイク以外の男性とは、手をつなぐとか挨拶でハグをするとかさえなかった。

 アンディを怖れていることを悟られたくない。

 小説では、ヒロインが男性から逃れようとすればするほど、その男性の興奮を誘うという描写が多々ある。

 そんなことになれば、軍人のアンディにかなうわけはない。

 いくらわたしが「おふくろ亭」で鍛えられて体力や筋力がついたといっても、軍人だった男性にかかればどうってことはない。

 そう判断し、とりあえず彼と距離を置こうとした。
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