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ピンチを救ったのは?
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わたしたちを助けてくれようとした人物は、背が高くて痩せている。左横から見るその頬には、真新しい傷がある。金髪は、短く刈り揃えている。年齢は、四十代前半というところだろうか。渋カッコいいけ顔は、疲弊している感じがする。上から下までずぶ濡れなのは、先程の通り雨で雨宿りをし損ねたに違いない。
そのようにして男性を観察出来るまでになった自分に驚いてしまった。それはともかく、彼は泥にまみれるのもかまわず、車輪を持ちあげようとしたりぬかるみ具合を調べている。
「ウインド、力を貸してくれ」
彼は、立ち上がった。
だれに言っているのかと彼の動きを追うと、すぐ近くに一頭の立派な黒馬が佇んでいることに気がついた。
彼はトッドじいさんの馬車から老いた馬を離し、かわりに自分の黒馬を繋ぎ直した。
ずいぶんと手際がいい。
感心してしまった。
「坊主。おれが合図をしたら、ウインドの手綱をひっぱってくれ。出来るか?」
「もちろんです。ちゃんとやれます」
彼がマイクに尋ねると、マイクはおおきく頷いてから彼の馬に近づいた。
「ウインド、きみはカッコいい馬だね。馬車をぬかるみから出して欲しいんだ」
マイクは、アンディに乗馬を教えてもらってから馬に興味を持ち始めた。いまも馬に話しかけている。それを見ると、マイクには将来馬も必要になるかもしれないと考えた。
とはいえ、マイクに馬を飼う余裕があるわけはない。金銭面だけではない。馬を世話をすることが難しいのだ。
「坊主、いまだ」
「はいっ! ウインド、がんばって」
マイクは、男性の掛け声で黒馬の手綱をひっぱり始めた。
「ふんっ!」
男性は、黒馬が馬車をひっぱり始めると車輪を持ち上げた。
大量の泥が、容赦なく彼に飛び散ったり跳ね飛んだ。
彼は、すでに泥だらけのわたしたちよりひどい状態になった。それでも彼は、車輪を持ち上げ続けた。
「やった! 母さん、見てよ」
マイクの叫び声でハッとした。
馬車がぬかるみから解放されたのである。
「ほんとうにありがとうございました」
「いや……」
馬を繋ぎかえている彼に、あらためて礼を言った。
「おじさん、せっかくの乗馬服が泥だらけになってしまいましたね」
マイクは、彼にたいしてずいぶんと丁寧な態度である。
その態度は、アンディをはじめトッドじいさんや店のお客たちとはあきらかに違う。
「このくらい、なんでもない。それよりも坊主、よくやったな」
「ありがとうございます。おじさんのウインドが素晴らしかったからです。もちろん、おじさんもすごくカッコよかったです。そうだ、母さん。ブライトンの街は、ここからすぐです。おじさんに「おふくろ亭」によってもらおうよ」
「そうね。それはいい考えだわ。お礼というほどではないけれど、お風呂に入ってもらってなにか召し上がってもらうことくらいなら出来るわね」
マイクの思いつきに賛成した。
内心で複雑な思いを抱きつつ。
「おじさん、是非ともうちに寄って下さい」
「ブライトン? きみらはブライトンの街の住人なのか?」
男性は、潰れた声を張り上げた。
「はい。「おふくろ亭」という食堂にいるのです」
「そうか……。ちょうどよかった。じつは、おれもブライトンの街に向っていたところだから。では、坊主の言葉に甘えようかな」
というわけで、彼を伴って「おふくろ亭」へと帰った。
彼、すなわちサンダーソン公爵とともに……。
そのようにして男性を観察出来るまでになった自分に驚いてしまった。それはともかく、彼は泥にまみれるのもかまわず、車輪を持ちあげようとしたりぬかるみ具合を調べている。
「ウインド、力を貸してくれ」
彼は、立ち上がった。
だれに言っているのかと彼の動きを追うと、すぐ近くに一頭の立派な黒馬が佇んでいることに気がついた。
彼はトッドじいさんの馬車から老いた馬を離し、かわりに自分の黒馬を繋ぎ直した。
ずいぶんと手際がいい。
感心してしまった。
「坊主。おれが合図をしたら、ウインドの手綱をひっぱってくれ。出来るか?」
「もちろんです。ちゃんとやれます」
彼がマイクに尋ねると、マイクはおおきく頷いてから彼の馬に近づいた。
「ウインド、きみはカッコいい馬だね。馬車をぬかるみから出して欲しいんだ」
マイクは、アンディに乗馬を教えてもらってから馬に興味を持ち始めた。いまも馬に話しかけている。それを見ると、マイクには将来馬も必要になるかもしれないと考えた。
とはいえ、マイクに馬を飼う余裕があるわけはない。金銭面だけではない。馬を世話をすることが難しいのだ。
「坊主、いまだ」
「はいっ! ウインド、がんばって」
マイクは、男性の掛け声で黒馬の手綱をひっぱり始めた。
「ふんっ!」
男性は、黒馬が馬車をひっぱり始めると車輪を持ち上げた。
大量の泥が、容赦なく彼に飛び散ったり跳ね飛んだ。
彼は、すでに泥だらけのわたしたちよりひどい状態になった。それでも彼は、車輪を持ち上げ続けた。
「やった! 母さん、見てよ」
マイクの叫び声でハッとした。
馬車がぬかるみから解放されたのである。
「ほんとうにありがとうございました」
「いや……」
馬を繋ぎかえている彼に、あらためて礼を言った。
「おじさん、せっかくの乗馬服が泥だらけになってしまいましたね」
マイクは、彼にたいしてずいぶんと丁寧な態度である。
その態度は、アンディをはじめトッドじいさんや店のお客たちとはあきらかに違う。
「このくらい、なんでもない。それよりも坊主、よくやったな」
「ありがとうございます。おじさんのウインドが素晴らしかったからです。もちろん、おじさんもすごくカッコよかったです。そうだ、母さん。ブライトンの街は、ここからすぐです。おじさんに「おふくろ亭」によってもらおうよ」
「そうね。それはいい考えだわ。お礼というほどではないけれど、お風呂に入ってもらってなにか召し上がってもらうことくらいなら出来るわね」
マイクの思いつきに賛成した。
内心で複雑な思いを抱きつつ。
「おじさん、是非ともうちに寄って下さい」
「ブライトン? きみらはブライトンの街の住人なのか?」
男性は、潰れた声を張り上げた。
「はい。「おふくろ亭」という食堂にいるのです」
「そうか……。ちょうどよかった。じつは、おれもブライトンの街に向っていたところだから。では、坊主の言葉に甘えようかな」
というわけで、彼を伴って「おふくろ亭」へと帰った。
彼、すなわちサンダーソン公爵とともに……。
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