お狐様の言う通り

かやつばめ

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「女を紹介しろ? どーした健ちゃん、そんな溜まってんの?」
 頬杖をついて茶化すように言ってきたのは、同い年の幼馴染である舘山まさるだ。
 彼の家は酒屋を経営していて、神社で使うお神酒の手配などもしてもらっている。酒屋独特
の前掛けをしていなければ、金髪に女の子ウケする甘い顔立ちの勝はホストにでも見える。軽
い性格も相まって、昔から勝の周りには女の子がいつも耐えない。
(勝なら、紹介してもらえると思ったんだけど)
 物心ついた時から兄弟同様に育ってきているので、色々とこちらの恥ずかしい事情も知って
いるし、他所の神様に頼る前にと思って飲みに誘うついでに相談したのだけれど、早まったか
もしれない。
「うっさい! 俺の人生かかってるんだよ!」 
勢いで机を叩くと、さすがに勝も驚いて目を丸くする。
「はあ? どーしたのマジで。サワー半分しか飲んでねーけどもう酔ってんのか」
 飲むのをストップさせるべく、さり気なく健次郎の前にあるサワーの入ったグラスを引っ張
ろうとした勝の手を掴む。
「酔ってないし、俺は真剣なの! とにかく女の子紹介してよ。勝ならフリーの女の子のひと
りやふたり、知ってるだろ」
 我ながら酷い言い方だと思うけれど、背に腹はかえられない。
 本来の自分なら絶対言わない、投げやりな言葉に勝は疑いたっぷりな目を向けてくる。
「知ってるけどさあ……いいのかよ。健ちゃん、脱童貞は好きな子とって夢見てたんじゃねー
の?」
「うっ……い、いつの頃の話してんだよ! 俺だってもうハタチだし、恥ずかしいって思った
んだよ」
「ふーん……まっ、健ちゃんがそれでいいならいいけど。でも、アレは大丈夫なのか?」
 勝の言う『アレ』というのは、たぶん心霊現象的なものだろう。
 付き合いの長い勝は健次郎が霊感が強いせいで色々な目に合っているのを知っているので、
心配してくれているようだった。
「それは何とも言えないかも……」
 頭の片隅に笛吹の顔がちらついたけれど、深く考えないことにする。
「んーまあ、何人かメールしてみるけど、捕まらなかったら許せ」
 喋りながら勝はスマホを操作して、何人かにメールを送ってくれたらしい。何回か着信音が
鳴って、ドキドキしながら待っていると、勝が手を止める。
「お、ひとり今からオッケーだと」
「えっ、今から?」
「ああ、なんか彼氏にドタキャンされたから、憂さ晴らし付き合って欲しいって。どうする?」
「お願いしますっ!」
 こんなチャンスを逃す手はない。机に頭をぶつける勢いで頭を下げると、勝に笑われてしまっ
た。
「ま、肩の力抜いて頑張ってこいよ」
 応援がわりなのかポンっと手に乗せられた避妊具を見て、見慣れないものに焦って一気に顔
が赤く染まる。
(なんか……上手く進み過ぎな気がするけど……大丈夫だよな?)
 ネガティブに考えが行くのは良くないけれど、どこかスッキリとしない胸の内を抱えつつ、
勝から相手の女の子の連絡先を教えてもらい、待ち合わせ場所へと向かった。
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