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第4章 錬金都市アラストと知り合いだと思いたくない知り合い
第34話 ルーナの怒り
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「おい、兄ちゃんたち。ちょっと、手ぇ貸してくれねえか?」
道を歩いていると突然声をかけてきたのは、ボロボロのフードを被った中年の男だった。
露天商のような風貌で、彼の背後には粗末な荷車と壊れかけた木箱がいくつも積まれている。
「どうかしたんですか?」
ガルドが振り返ると、男は深いため息をつきながら答えた。
「実は、街道沿いの岩場に荷を落としちまってな……荷車も壊れちまったし、俺一人じゃどうにもできねぇ。ギルドには頼めないしかといって兵士も相手にしてくれねぇ」
「ギルドに頼めない、って……何か訳ありですか?」
「まぁ、ちょっとな……ここじゃ話しにくい。もし手伝ってくれるなら、詳しい話は現地で……報酬だってちゃんと用意してる」
男の目はやや泳いでいたが、困っている様子は本物のように見えた。
「……どうする、ご主人様?」
ルーナがそっとガルドに寄り添って問う。
ガルドは少し考え込んだ後、小さく頷いた。
「依頼は依頼だ。受けようかな……ギルドを通さないからって見捨てる理由にはならないだろ」
その言葉に、男の顔がパッと明るくなった。
「助かるぜ兄ちゃん! 恩に着る!」
「場所はどこですか?」
ルージュが低い声で尋ねる。
「南門を出てすぐの街道沿いだ。岩場のとこで待ってる……昼頃に来てくれりゃちょうどいい」
そう言い残して男は立ち去った。
その背中を見送りながら、ルーナが首を傾げる。
「……ちょっと怪しくないですか? あの人」
「怪しい、けど……あえて罠に乗るのもアリだと思ってる」
ガルドの表情に、微かな決意の色が宿る。
「ノランが仕掛けてきてるのは明白だ。なら、どこかで一発裏をかかせてもらわないとな」
その言葉に、ルージュが静かに頷いた。
「理解しました。状況を掌握し逆手に取る。ガルド様の判断に従います」
「じゃあ決まりですね!」
ルーナが拳を握る。
こうして――ガルドたちは、南門へと向かうこととなった。
▽
昼下がりのアラスト南門前。
空は晴れ渡り、街の外れには心地よい風が吹いていた。
「……依頼の場所って、本当にこのあたりなんですか?」
ガルドが首を傾げながら、手に持った依頼書を見直す。
『街道沿いでの落石調査』の依頼書――内容も簡易で、危険も少ない。
だが、今思えば、違和感はあった。
「うーん、やっぱり罠だったかなぁ……」
ガルドが眉をひそめて紙を指差す。
「えっ、じゃあ、これって……」
ルーナが言いかけた、そのとき。
――パシィン!
空気が一瞬で張りつめた。乾いた音と同時に、周囲の茂みから複数の影が飛び出してくる。
「アラスト警備隊だ!全員その場から動くな!」
「召喚士ガルドと、その同行者たちを確保せよ!」
十数名の武装した兵士が一斉に取り囲む。
彼らの手には拘束具と、魔力封じの紋章が刻まれた短杖。
「なっ……!?」
ガルドは反射的に身構える。
「やはり……どこからどう見ても『罠』ですね」
ルージュが静かに呟く。
その瞬間、兵士たちの背後から、ゆったりと歩み寄ってきた一人の男。
紫の外套に身を包み、薄ら笑いを浮かべるその顔――ノランだった。
「よう、ガルド」
皮肉と悪意が混じった声が響く。
「ノラン……!」
ガルドは拳を握りしめる。
ノランはわざとらしく肩をすくめながら、警備隊長へと視線を投げた。
「この者たちは、街に潜伏し、不審な行動を取っていた。魔力的に危険な存在と見なされる可能性がある。私の錬金術研究所の結界でも反応があった。だからこうして、正式に保護しようというだけの話さ」
「保護……? それは拘束って意味じゃないか!」
「おい、ふざけないで! ご主人様を勝手に悪者扱いしないでっ!」
ルーナが叫ぶ。
瞬間――空気が震えた。
ルーナの身体から、熱を帯びた魔力が一気に溢れ出す。
その銀髪が風もないのにふわりと揺れ、紅い瞳が怒りに染まる。
「ルーナ、やめ――!」
「だってっ、こいつら、ご主人様を侮辱して、しかも捕まえようとして――!!」
怒気に満ちた魔力が、周囲の空間をきしませた。
兵士たちが後ずさりし、一部の者は尻もちをつく。
「な…… この娘、いったい何者だ!」
ノランが目を見開く。
「ルーナ、落ち着け! やり返したら、あいつらと同じになる!」
ガルドが必死に叫ぶ。
「でもっ、でも……!」
ルーナは唇を噛み、怒りのままに震えていた。
しかし、そのまま行動に移したのはルーナではなく、ルージュだった。
すっ……と静かに、ルージュが彼女の背後に立ち、指先で空中に印を描いた。
淡い青の魔法陣が展開されると、暴走しかけていた魔力がふわりと沈静化していく。
「……っ!? あ……?」
ルーナがその場に膝をつく。
ルージュは彼女の肩に手を置きながら、静かに囁いた。
「ガルド様が怒っておられないのなら、我らが怒るべきではありません」
「……でも……ご主人様が傷ついてるのに……」
その声は悔しさに震えていた。
ガルドはゆっくりと彼女に近づき、そっと頭を撫でた。
「ありがとうルーナ。でも、俺は大丈夫だ。あいつの言葉なんかもう俺の中には入ってこない」
「……ご、ご主人様……」
ルーナが涙をこらえるように目を伏せる。
そのやり取りを見ていたノランが、鼻を鳴らした。
「……まったく感情的な連中だな……やはり君たちは普通ではない。この街にとって危険な存在なんだよ」
「……その判断、もうすぐ覆されることになるさ」
ガルドはノランを真っ直ぐに見据えて、ゆっくりと背を向ける。
拳を握りしめながら――ガルドは静かに怒りをこらえたのだった。
道を歩いていると突然声をかけてきたのは、ボロボロのフードを被った中年の男だった。
露天商のような風貌で、彼の背後には粗末な荷車と壊れかけた木箱がいくつも積まれている。
「どうかしたんですか?」
ガルドが振り返ると、男は深いため息をつきながら答えた。
「実は、街道沿いの岩場に荷を落としちまってな……荷車も壊れちまったし、俺一人じゃどうにもできねぇ。ギルドには頼めないしかといって兵士も相手にしてくれねぇ」
「ギルドに頼めない、って……何か訳ありですか?」
「まぁ、ちょっとな……ここじゃ話しにくい。もし手伝ってくれるなら、詳しい話は現地で……報酬だってちゃんと用意してる」
男の目はやや泳いでいたが、困っている様子は本物のように見えた。
「……どうする、ご主人様?」
ルーナがそっとガルドに寄り添って問う。
ガルドは少し考え込んだ後、小さく頷いた。
「依頼は依頼だ。受けようかな……ギルドを通さないからって見捨てる理由にはならないだろ」
その言葉に、男の顔がパッと明るくなった。
「助かるぜ兄ちゃん! 恩に着る!」
「場所はどこですか?」
ルージュが低い声で尋ねる。
「南門を出てすぐの街道沿いだ。岩場のとこで待ってる……昼頃に来てくれりゃちょうどいい」
そう言い残して男は立ち去った。
その背中を見送りながら、ルーナが首を傾げる。
「……ちょっと怪しくないですか? あの人」
「怪しい、けど……あえて罠に乗るのもアリだと思ってる」
ガルドの表情に、微かな決意の色が宿る。
「ノランが仕掛けてきてるのは明白だ。なら、どこかで一発裏をかかせてもらわないとな」
その言葉に、ルージュが静かに頷いた。
「理解しました。状況を掌握し逆手に取る。ガルド様の判断に従います」
「じゃあ決まりですね!」
ルーナが拳を握る。
こうして――ガルドたちは、南門へと向かうこととなった。
▽
昼下がりのアラスト南門前。
空は晴れ渡り、街の外れには心地よい風が吹いていた。
「……依頼の場所って、本当にこのあたりなんですか?」
ガルドが首を傾げながら、手に持った依頼書を見直す。
『街道沿いでの落石調査』の依頼書――内容も簡易で、危険も少ない。
だが、今思えば、違和感はあった。
「うーん、やっぱり罠だったかなぁ……」
ガルドが眉をひそめて紙を指差す。
「えっ、じゃあ、これって……」
ルーナが言いかけた、そのとき。
――パシィン!
空気が一瞬で張りつめた。乾いた音と同時に、周囲の茂みから複数の影が飛び出してくる。
「アラスト警備隊だ!全員その場から動くな!」
「召喚士ガルドと、その同行者たちを確保せよ!」
十数名の武装した兵士が一斉に取り囲む。
彼らの手には拘束具と、魔力封じの紋章が刻まれた短杖。
「なっ……!?」
ガルドは反射的に身構える。
「やはり……どこからどう見ても『罠』ですね」
ルージュが静かに呟く。
その瞬間、兵士たちの背後から、ゆったりと歩み寄ってきた一人の男。
紫の外套に身を包み、薄ら笑いを浮かべるその顔――ノランだった。
「よう、ガルド」
皮肉と悪意が混じった声が響く。
「ノラン……!」
ガルドは拳を握りしめる。
ノランはわざとらしく肩をすくめながら、警備隊長へと視線を投げた。
「この者たちは、街に潜伏し、不審な行動を取っていた。魔力的に危険な存在と見なされる可能性がある。私の錬金術研究所の結界でも反応があった。だからこうして、正式に保護しようというだけの話さ」
「保護……? それは拘束って意味じゃないか!」
「おい、ふざけないで! ご主人様を勝手に悪者扱いしないでっ!」
ルーナが叫ぶ。
瞬間――空気が震えた。
ルーナの身体から、熱を帯びた魔力が一気に溢れ出す。
その銀髪が風もないのにふわりと揺れ、紅い瞳が怒りに染まる。
「ルーナ、やめ――!」
「だってっ、こいつら、ご主人様を侮辱して、しかも捕まえようとして――!!」
怒気に満ちた魔力が、周囲の空間をきしませた。
兵士たちが後ずさりし、一部の者は尻もちをつく。
「な…… この娘、いったい何者だ!」
ノランが目を見開く。
「ルーナ、落ち着け! やり返したら、あいつらと同じになる!」
ガルドが必死に叫ぶ。
「でもっ、でも……!」
ルーナは唇を噛み、怒りのままに震えていた。
しかし、そのまま行動に移したのはルーナではなく、ルージュだった。
すっ……と静かに、ルージュが彼女の背後に立ち、指先で空中に印を描いた。
淡い青の魔法陣が展開されると、暴走しかけていた魔力がふわりと沈静化していく。
「……っ!? あ……?」
ルーナがその場に膝をつく。
ルージュは彼女の肩に手を置きながら、静かに囁いた。
「ガルド様が怒っておられないのなら、我らが怒るべきではありません」
「……でも……ご主人様が傷ついてるのに……」
その声は悔しさに震えていた。
ガルドはゆっくりと彼女に近づき、そっと頭を撫でた。
「ありがとうルーナ。でも、俺は大丈夫だ。あいつの言葉なんかもう俺の中には入ってこない」
「……ご、ご主人様……」
ルーナが涙をこらえるように目を伏せる。
そのやり取りを見ていたノランが、鼻を鳴らした。
「……まったく感情的な連中だな……やはり君たちは普通ではない。この街にとって危険な存在なんだよ」
「……その判断、もうすぐ覆されることになるさ」
ガルドはノランを真っ直ぐに見据えて、ゆっくりと背を向ける。
拳を握りしめながら――ガルドは静かに怒りをこらえたのだった。
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