誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜

山田空

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27話

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​レオンが自身の壮絶な過去を打ち明け、エルナが「影」の服を「騎士の鎧」だと肯定した翌日。屋敷は、侯爵家との最終的な対決を前に、緊張感に包まれていた。

​執務室のテーブルには、前回レオンが受け取った侯爵家からの通告書が広げられていた。その隣には、エルナが作成した、南の谷の村の復興計画と、領地全体の水利整備の詳細な図面が置かれている。

​「侯爵家からの使者が来るのは、明日の午後です」

レオンの声は落ち着いているが、その目は鋭く、緊張を隠さない。

​「彼らは、私を元侯爵の『道具』として、感情的な弱みを突いてくるでしょう。私の過去を知った上で、私を屈服させようと試みるはずです」

​レオンは、昨日エルナが提案した「領民を盾にする」戦略が、侯爵家相手に通用するか、まだ確信を持てずにいた。侯爵家は、何よりも貴族社会の論理を絶対視するからだ。

​「レオン。彼らが突いてくるのは、あなたの**『過去』**よ」

エルナは、レオンの横に椅子を引き、領地の地図に指を置いた。

​「でも、私たちの武器は、あなたの**『今』**にあるわ」

​エルナは、水利整備の予定地に沿って、線を引いた。

「この整備計画は、侯爵家の支配下にあった頃には、決して実行されなかったものね。資金も、手間もかかるから」

​「はい。侯爵家は、採算の取れない事業には一切手を出しません」

​「私たちは、それをやる。そして、その証拠を彼らに見せるのよ」

​🗡️ 優しい戦略 

​エルナの戦略は、感情論ではなかった。

​「彼らに、私たちは、もう侯爵家と同じ論理では動かないということを、物理的に示しましょう。彼らの最大の弱点は、領地に対する無関心と、貴族としての体面よ」

​エルナは、レオンが「影」として働いていた際の、裏の取引に関する資料をそっと閉じた。

「あなたが苦しんで集めた、その過去の証拠は、ここでは使わない」

​レオンは驚いた。貴族間の争いでは、相手の不正を暴くのが定石だからだ。

​「なぜですか? 隠された取引の証拠があれば、私たちにも反論の余地が生まれる」

​「いいえ。あの資料を使えば、あなたは再び『影』として、彼らの土俵に立つことになるわ。私たちは、もうその土俵には立たない」

​エルナは、レオンの目をまっすぐに見つめた。

「私たちは、この領民たちがレオンを**『真の領主』として慕っているという事実、そして、私たちが『領民の生活を第一に考えている』**という未来の証拠で、彼らを打ち負かすの」

​彼女は、領民の復興計画書をレオンに渡した。

「これが、私たちが領民のために作成した、**『誠実さ』**という名の契約書よ」

​レオンは、その計画書を受け取りながら、エルナの手の甲にそっと触れた。

​「エルナ様。あなたの優しさは、私にとって最大の護りであり、そして、彼ら侯爵家にとっての最大の武器となります」

​彼は、エルナの戦略が、彼の過去の苦しみを尊重し、彼の未来を肯定するものであることに、深く感動していた。

​👑 決戦前夜の誓い 

​その夜、レオンは静かにエルナの部屋を訪れた。

​「準備は整いましたか?」

レオンの問いに、エルナは頷いた。

​「ええ。後は、彼らがこの領民の生活を踏みにじるかどうか、賭けに出るだけよ」

​レオンは一歩近づき、エルナの前に膝をついた。それは、護衛でも、領主でもない、一人の男の誓いの姿勢だった。

​「エルナ様」

レオンは、エルナの指輪をはめた手に、自分の唇を寄せた。

​「私は明日、あなたとこの領地の未来を守るために戦います。ですが、たとえすべてを失っても……私の選択は変わりません」

​彼の声は、決意に満ちていた。

「私は、侯爵家の『影』に戻るよりも、あなたと共に、この領地で光として生きることを選びます。すべては、あなたの隣で」

​エルナは、レオンの黒髪に手を触れ、そっと撫でた。

​「あなたを信じているわ、レオン。あなたはもう、誰の道具でもない。わたしだけの、レオンよ」

​二人の間に、静かな、しかし熱い信頼の誓いが交わされた。翌日、彼らは過去の支配者と対峙する。勝利の鍵は、レオンの才能でも、侯爵の血筋でもなく、彼らが共に築き上げた**「愛と誠実さ」**という、偽りではない夫婦の絆にあった。
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