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自称魔王
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「…………それでなんで狼がしゃべれるの?」
「だから我は魔王ですから…………」
「「……………………はぁ」」
これで四回目のこのくだりに俺たちはため息を吐いてしまう。
俺が何度も質問しても返ってくる言葉は『魔王ですから』。
こんなちっこい狼が魔王のはずがない。俺の答えはそれ以上でも以下でもないのだ。
「名前は?」
「ハデスです…………あ、ダジャレじゃないですよ?」
「……………………はぁ」
こんな感じで全くかみ合わない俺たちだが、何故か戦いにはなっていない。
もしかしらた最初からハデスは俺に危害を加えようとはしていなかったのかもしれない。
すると、ハデスはむくりと立ち上がって、
「この姿は慣れないのでいつもの姿になりますね」
すると一匹の狼だったはずのハデスが眩い光を発し始める。
眩いといってもそれは一般的の光ではなく、暗闇、いや、漆黒と言った方がいいだろうか。
そして、快晴だったはずの空は一瞬で黒い雲が現れ始め、ほぼ黒一色で覆いつくされた。
その漆黒の雲はハデスのもとに竜巻になるようにして吸収され…………
「よし。これで楽になれる」
ハデスは首をポキポキと鳴らしながらそう口にした。
その漆黒の雲たちが雲散した時には、もう、ハデスは狼ではなくなっていた。
ハデスは魔族のような姿になり、尾は狼の尻尾のままだが、獣耳は角に変わり、立派な漆黒の角が生えている。
漆黒の髪に、真っ黒で着こなされたコート。大人の男性を彷彿とさせるが、容姿は全然大人ではない。俺と同じ、十八ぐらいと言ったところか。
「これなら魔王と信じてくれますか?」
「いや、無理」
「…………なッ!」
そのハデスの言葉に俺は即答するように首を横に振った。
だって見た目も子供だし、いつも強者と会った時のピリピリした感覚が肌に来ないのだ。
もし魔王だというのなら、俺はこの場に立つことすらできていないだろう。
まぁハデスは少し魔法の才があるガキンチョと言ったところだ。
「ま、まぁそれは時間が経てば気づくはず…………じゃあ質問交代。何故、こんなところに人間がいるんです?」
「ん? スローライフを送りたいから辺境を探してたら魔族の国に来てたんだ」
「…………!? ま、まぁ仮にそうだとしましょう。【完全魔導壁】は?」
「多分、割っちゃったっぽい。あ、故意じゃないから!」
俺はジト目で見てくるハデスに言い訳するようにわざとではないと付け足す。
すると、ハデスは俺には聞こえないようほどの小声で呟いた。
「あれは我の最高傑作の魔法だったのに…………まさかこいつがアレなのか?」
「何ぼそぼそ言ってるか聞こえないけど、用が済んだならいい? 俺、色々と忙しいんだけど」
そう口にして俺は敵意がないハデスに背を向け、【インベントリ】から紙とペンを取り出す。
日が暮れるまでには土地設計を済ませたいところだ。当分はテント生活になるかもしれないが、そこは将来の投資だ。急いだところでろくなスローライフは遅れまい。
すると、ハデスが興味深そうに聞いてきた。
「もしかしてここに家を建てる気ですか?」
「うん。ここは誰の土地でもないって聞いたから」
「…………我も住んでいいですか?」
そんなハデスの急な提案に俺は少し驚いてしまう。
いや、そもそも魔族の国の領土の近くでスローライフを送ろうとしている奴が言うことではないが、急に見ず知らずの人に住んでいいですか? などととは俺でも言えない。
そんなことを考えていると、ハデスは少しにんまりとした歪な笑みを浮かべた。
「我がいれば色々と魔族のつながりを持てますよ?」
「いや、それは別の子がいるからいい」
「…………なっ!? な、なら、可愛い女子たちを連れてきましょう」
「犯罪者と同じ屋根の下で暮らすのは嫌だ」
「魔王の我を、は、犯罪者だと…………」
俺の冷たい態度にハデスは胸を押さえるようにしてうずくまる。
しかし、ハデスはどうしても諦めきれないようだ。こめかみに手を当てて一生懸命脳をフル回転させている。
だが、まぁこうして話し相手がいるのも悪くない。別にハデスもそこまで悪い魔族ではなさそうだ。
「まぁいいよ。なんかほっておいたら可哀想だし。ちなみに親には許可とってきてよ」
「本当ですか! 親ですか…………」
俺の承諾を聞くとハデスは一瞬でパッと表情を明るくした。
しかし、親という言葉を聞いた瞬間真っ暗になる。何かトラウマでもあるのだろうか。
そもそもこんな草原に一人いたのだ。ハデスには親がいないのではないか? そんな予想が脳裏によぎる。
「……………………分かった。住んでいいよ」
「同情したような目で見ないでくださいよ!」
俺がハデスの頭を撫でると、ハデスは歯をむき出しにして対抗してくる。
まぁこんな子供を草原に一人にするのも後味が悪い。まるで俺が悪人のようになってしまう。
こうして俺と自称魔王のハデスの二人は一緒に辺境で暮らすことになったのだった。
「だから我は魔王ですから…………」
「「……………………はぁ」」
これで四回目のこのくだりに俺たちはため息を吐いてしまう。
俺が何度も質問しても返ってくる言葉は『魔王ですから』。
こんなちっこい狼が魔王のはずがない。俺の答えはそれ以上でも以下でもないのだ。
「名前は?」
「ハデスです…………あ、ダジャレじゃないですよ?」
「……………………はぁ」
こんな感じで全くかみ合わない俺たちだが、何故か戦いにはなっていない。
もしかしらた最初からハデスは俺に危害を加えようとはしていなかったのかもしれない。
すると、ハデスはむくりと立ち上がって、
「この姿は慣れないのでいつもの姿になりますね」
すると一匹の狼だったはずのハデスが眩い光を発し始める。
眩いといってもそれは一般的の光ではなく、暗闇、いや、漆黒と言った方がいいだろうか。
そして、快晴だったはずの空は一瞬で黒い雲が現れ始め、ほぼ黒一色で覆いつくされた。
その漆黒の雲はハデスのもとに竜巻になるようにして吸収され…………
「よし。これで楽になれる」
ハデスは首をポキポキと鳴らしながらそう口にした。
その漆黒の雲たちが雲散した時には、もう、ハデスは狼ではなくなっていた。
ハデスは魔族のような姿になり、尾は狼の尻尾のままだが、獣耳は角に変わり、立派な漆黒の角が生えている。
漆黒の髪に、真っ黒で着こなされたコート。大人の男性を彷彿とさせるが、容姿は全然大人ではない。俺と同じ、十八ぐらいと言ったところか。
「これなら魔王と信じてくれますか?」
「いや、無理」
「…………なッ!」
そのハデスの言葉に俺は即答するように首を横に振った。
だって見た目も子供だし、いつも強者と会った時のピリピリした感覚が肌に来ないのだ。
もし魔王だというのなら、俺はこの場に立つことすらできていないだろう。
まぁハデスは少し魔法の才があるガキンチョと言ったところだ。
「ま、まぁそれは時間が経てば気づくはず…………じゃあ質問交代。何故、こんなところに人間がいるんです?」
「ん? スローライフを送りたいから辺境を探してたら魔族の国に来てたんだ」
「…………!? ま、まぁ仮にそうだとしましょう。【完全魔導壁】は?」
「多分、割っちゃったっぽい。あ、故意じゃないから!」
俺はジト目で見てくるハデスに言い訳するようにわざとではないと付け足す。
すると、ハデスは俺には聞こえないようほどの小声で呟いた。
「あれは我の最高傑作の魔法だったのに…………まさかこいつがアレなのか?」
「何ぼそぼそ言ってるか聞こえないけど、用が済んだならいい? 俺、色々と忙しいんだけど」
そう口にして俺は敵意がないハデスに背を向け、【インベントリ】から紙とペンを取り出す。
日が暮れるまでには土地設計を済ませたいところだ。当分はテント生活になるかもしれないが、そこは将来の投資だ。急いだところでろくなスローライフは遅れまい。
すると、ハデスが興味深そうに聞いてきた。
「もしかしてここに家を建てる気ですか?」
「うん。ここは誰の土地でもないって聞いたから」
「…………我も住んでいいですか?」
そんなハデスの急な提案に俺は少し驚いてしまう。
いや、そもそも魔族の国の領土の近くでスローライフを送ろうとしている奴が言うことではないが、急に見ず知らずの人に住んでいいですか? などととは俺でも言えない。
そんなことを考えていると、ハデスは少しにんまりとした歪な笑みを浮かべた。
「我がいれば色々と魔族のつながりを持てますよ?」
「いや、それは別の子がいるからいい」
「…………なっ!? な、なら、可愛い女子たちを連れてきましょう」
「犯罪者と同じ屋根の下で暮らすのは嫌だ」
「魔王の我を、は、犯罪者だと…………」
俺の冷たい態度にハデスは胸を押さえるようにしてうずくまる。
しかし、ハデスはどうしても諦めきれないようだ。こめかみに手を当てて一生懸命脳をフル回転させている。
だが、まぁこうして話し相手がいるのも悪くない。別にハデスもそこまで悪い魔族ではなさそうだ。
「まぁいいよ。なんかほっておいたら可哀想だし。ちなみに親には許可とってきてよ」
「本当ですか! 親ですか…………」
俺の承諾を聞くとハデスは一瞬でパッと表情を明るくした。
しかし、親という言葉を聞いた瞬間真っ暗になる。何かトラウマでもあるのだろうか。
そもそもこんな草原に一人いたのだ。ハデスには親がいないのではないか? そんな予想が脳裏によぎる。
「……………………分かった。住んでいいよ」
「同情したような目で見ないでくださいよ!」
俺がハデスの頭を撫でると、ハデスは歯をむき出しにして対抗してくる。
まぁこんな子供を草原に一人にするのも後味が悪い。まるで俺が悪人のようになってしまう。
こうして俺と自称魔王のハデスの二人は一緒に辺境で暮らすことになったのだった。
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