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2章 最強冒険者
父
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私とライは一階へと移動して、エントランスに座っていた父上に頭を下げる。
「お久しぶりです。お父様」
「お久しぶりです。父さん」
実際、父と会うのは一年ぶりだ。
半年前の私は実家で暮らしていた。だが、父は仕事や貴族関係の面倒なことで忙しく、屋敷にいること自体少なかったのだ。
「二人とも久しいな…………まぁ席に座ってくれ」
父は私たちを見ると少し口角を上げてから席を差し出してくる。
周りを見回すと私たちの三人だけしか視界に入らない。どうやら父がこの間を仕切っているのだろう。
普通ならキールのように父専用の従者がいるはずのだが、その男の気配もない。
それだけ大事な話ということなのかもしれない。
私は背筋を伸ばして、真剣な面持ちで父に視線を戻す。
「エリス。今日はマルク様について話をしに来た」
「…………知っていたのですか?」
「当たり前だ。本当ならキールが報告してくるはずなのだが生憎、連絡が取れてなくてな。今キールは何をしている?」
父は少し困ったような表情で言った。
あの主従関係に厳しいキールが父と連絡が取れない? それは緊急事態ありえない。
実際、今までそんなことは一度もなかった。
キールは今までの行動で信頼を勝ち取れているため大丈夫であるが、一般の従者であればすぐに首にされていてもおかしくない。
そのため私は隣にいるライにお願いをする。
「ライ。ちょっとキールの部屋に行って呼んできてくれないかしら?」
「分かった!」
ライは元気よく答えると席から立ち上がり足早に二階へと戻っていった。
そんな元気なライを横目に血とは聞いてくる。
「エリス。マルク様とは上手くやれているか?」
「…………も、もちろんです」
「はぁ…………本当にお前は昔から人付き合いが苦手だな。しっかり幼いことから学ばせておけばよかった」
私は出来ていると答えたのにもかかわらず、父は頭を抱える。
まるで私がマルクに対して無礼な行動をとったとでも言いたげな表情だ。
まぁとったはとったが現在進行形で仲良くできているので文句を言われる筋はない。
「それで、婚約相手はまだ見つからんのか?」
「……………………」
私は唐突な話の展開と、その内容に言葉を詰まらせてしまう。
大体は予想がついていた。マルクのことは建前で私の将来について話したいのだろう。
正直娘のことが心配である父の気持ちも分からんこともない。
だが、このように厚かましすぎるのだ。
だから私はエレメンタルに逃げた。現実から目を背けるために。
「これは最終手段であるが…………父さんはエリスの婚約相手は平民でもいいと思っている」
「……………………え?」
私の言葉からやっと出てきた言葉はその一文字だった。
あの貴族社会に染まりきっているあの父が平民でも許すなんてことありえない。会っていいはずがないのだ。
だが、父は状況を理解できていない私に続けて言う。
「父さんはエリスの考えを知っているつもりだし、知ろうともしている。お前がカースト制度を嫌っていることも十分承知している」
「それでも…………アルローゼ家の者が平民と結ばれるなどあっては…………」
いつもならそんなカースト制度に捕らわれた言葉は口にしない。
だが、こんな父の言葉を聞けば、自ずとそんな言葉も出てくる。
「ああ。そこらの野心もない人間は絶対にダメだ。今までの父さんなら反対していただろう」
「もしかして…………」
「そうだ。平民にも一人生きのいい野心家がいたものだ」
私はここで一つの予想が思い浮かぶ。
父はアレンのことを知っているのではないか。
アレンなら貴族社会で噂になってもおかしくない。実際、将来貴族になれるのはほぼ確定している身だ。
もし、父がアレンとの結婚を許容してくれるのであれば私もコソコソ隠れなくても済む。
別にそこまでこっそりダンジョンに潜ることは気にしていなかったが、破壊者としてではなく、エリスとしてダンジョンに潜ることが出来るのだ。
まぁ今の私には重すぎる肩書き。正直エリスとして潜れたほうが嬉しい。
そんな内心喜んでいる私を見て父はゆっくりと口を開く。
「その男の名は…………」
「…………その男の名は?」
私は父の発言をごくりと息をのんで見る。
これは私の人生の分岐点だ。それほど今の私にとって大事な発言である。
父は目を見開いてゆっくりと口を開いた。
「…………破壊者だ」
「…………なんでやねえええええぇぇぇぇん!?」
私はその父の発言に貴族の私など忘れて全力でツッコんだ。
お父様。今、目の前にいるのが可愛らしい娘が破壊者です。
「お久しぶりです。お父様」
「お久しぶりです。父さん」
実際、父と会うのは一年ぶりだ。
半年前の私は実家で暮らしていた。だが、父は仕事や貴族関係の面倒なことで忙しく、屋敷にいること自体少なかったのだ。
「二人とも久しいな…………まぁ席に座ってくれ」
父は私たちを見ると少し口角を上げてから席を差し出してくる。
周りを見回すと私たちの三人だけしか視界に入らない。どうやら父がこの間を仕切っているのだろう。
普通ならキールのように父専用の従者がいるはずのだが、その男の気配もない。
それだけ大事な話ということなのかもしれない。
私は背筋を伸ばして、真剣な面持ちで父に視線を戻す。
「エリス。今日はマルク様について話をしに来た」
「…………知っていたのですか?」
「当たり前だ。本当ならキールが報告してくるはずなのだが生憎、連絡が取れてなくてな。今キールは何をしている?」
父は少し困ったような表情で言った。
あの主従関係に厳しいキールが父と連絡が取れない? それは緊急事態ありえない。
実際、今までそんなことは一度もなかった。
キールは今までの行動で信頼を勝ち取れているため大丈夫であるが、一般の従者であればすぐに首にされていてもおかしくない。
そのため私は隣にいるライにお願いをする。
「ライ。ちょっとキールの部屋に行って呼んできてくれないかしら?」
「分かった!」
ライは元気よく答えると席から立ち上がり足早に二階へと戻っていった。
そんな元気なライを横目に血とは聞いてくる。
「エリス。マルク様とは上手くやれているか?」
「…………も、もちろんです」
「はぁ…………本当にお前は昔から人付き合いが苦手だな。しっかり幼いことから学ばせておけばよかった」
私は出来ていると答えたのにもかかわらず、父は頭を抱える。
まるで私がマルクに対して無礼な行動をとったとでも言いたげな表情だ。
まぁとったはとったが現在進行形で仲良くできているので文句を言われる筋はない。
「それで、婚約相手はまだ見つからんのか?」
「……………………」
私は唐突な話の展開と、その内容に言葉を詰まらせてしまう。
大体は予想がついていた。マルクのことは建前で私の将来について話したいのだろう。
正直娘のことが心配である父の気持ちも分からんこともない。
だが、このように厚かましすぎるのだ。
だから私はエレメンタルに逃げた。現実から目を背けるために。
「これは最終手段であるが…………父さんはエリスの婚約相手は平民でもいいと思っている」
「……………………え?」
私の言葉からやっと出てきた言葉はその一文字だった。
あの貴族社会に染まりきっているあの父が平民でも許すなんてことありえない。会っていいはずがないのだ。
だが、父は状況を理解できていない私に続けて言う。
「父さんはエリスの考えを知っているつもりだし、知ろうともしている。お前がカースト制度を嫌っていることも十分承知している」
「それでも…………アルローゼ家の者が平民と結ばれるなどあっては…………」
いつもならそんなカースト制度に捕らわれた言葉は口にしない。
だが、こんな父の言葉を聞けば、自ずとそんな言葉も出てくる。
「ああ。そこらの野心もない人間は絶対にダメだ。今までの父さんなら反対していただろう」
「もしかして…………」
「そうだ。平民にも一人生きのいい野心家がいたものだ」
私はここで一つの予想が思い浮かぶ。
父はアレンのことを知っているのではないか。
アレンなら貴族社会で噂になってもおかしくない。実際、将来貴族になれるのはほぼ確定している身だ。
もし、父がアレンとの結婚を許容してくれるのであれば私もコソコソ隠れなくても済む。
別にそこまでこっそりダンジョンに潜ることは気にしていなかったが、破壊者としてではなく、エリスとしてダンジョンに潜ることが出来るのだ。
まぁ今の私には重すぎる肩書き。正直エリスとして潜れたほうが嬉しい。
そんな内心喜んでいる私を見て父はゆっくりと口を開く。
「その男の名は…………」
「…………その男の名は?」
私は父の発言をごくりと息をのんで見る。
これは私の人生の分岐点だ。それほど今の私にとって大事な発言である。
父は目を見開いてゆっくりと口を開いた。
「…………破壊者だ」
「…………なんでやねえええええぇぇぇぇん!?」
私はその父の発言に貴族の私など忘れて全力でツッコんだ。
お父様。今、目の前にいるのが可愛らしい娘が破壊者です。
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