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一人目 つよつよ幼馴染

在り方

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「はぁ、はぁ、はぁ。今回は本当に死ぬかと思いましたよ」
「ご、ごめんなさい。流石にあそこまで飛ぶとは思っていなくて」

 私は華麗に空を舞っていたキールを走って追いかけ、最後には私も地を蹴って飛び、お姫様抱っこをするようにして回収した。
 もし、あのまま放置していたら殺人をしてしまうところだっただろう。
 私はもう一度仕切り直そうと話を持ち掛ける。

「じゃあ改めてもう一度――」
「いえ、もう充分です。僕の負けですよ」

 しかし、キールは首を横に振り、私の言葉を遮るように両手を頭の上にあげた。

「もう一度飛ばされると考えると僕も諦めるしかありません。一撃で勝てるとか言ってた過去の自分が今は猛烈に恥ずかしいですよ」

 顔を真っ赤に紅潮させたキールは両手で自分の顔を押さえる。

 一撃で終わらせると言っていたキールは一撃で終わらせられたのだ。
 それは恥ずかしくもなるだろう。

 私なら衝動的に屋上から飛ぶレベルの羞恥である。

「僕の全てをお話ししましょう…………」

 キールは覚悟を決めたように私の目を見たのだった。




 ――数分後


「ふざけんなああああああぁぁぁぁぁ!!」
「い、痛いですよ!?」

 私はキールを何度も殴っていた。
 それはそうだろう。キールは軽々しく爆弾発言をしたのだから。

『さっきのは全てエリス様を困らせる演技だったんですよ』

 どうやら先ほどのいなくなるとか、最後とかは全て嘘だったらしい。
 花畑から屋敷までは徒歩で一時間を超える時間がかかる。
 それならちょっとぐらいからかってもバレないのでは? とキールは考えたのだ。

 そう。いつもの煽りと一緒である。
 私の困る表情を見て楽しんでいたのだ。私の覚悟をどうすればいいものか。
 
「それでお父様には何を渡したの?」

 だいたい、私と婚約できなかった場合何らかの形でキールが支払うはずだ。
 どうせお父様はキールを最後の砦にしようとしていたのだろう。
 だが、私が好きな人がいると言ったため難なく引き下がってくれたのかもしれない。

「…………です」
「…………え?」

 キールは下を向いて言いにくそうに呟いた。
 私は聞こえなかったためキールとの距離を詰めて聞きなおす。
 すると、キールは今度は聞こえる声で、しかし小さな声で言った。

破壊者デストロイヤーについての報告書です」
「…………な、なんでその人を調べてるのかしら?」

 唐突の私のご指名に少し動揺しながらも私は聞く。
 キールは頭をかき、苦笑いをしながらも答える。

「カイロス様が破壊者デストロイヤーにご執心なんですよ。どうしても一目見たいとか何とかで」
「…………そ、そうなんだ」

 キールなら空間魔法も使えるため諜報には向いているだろう。
 だが、まさか父がキールをそんなことに使っていたとは。

 後々聞いたことだが、どうやら父は私に破壊者デストロイヤーを勧めようとしていたようだ。
 そのため私のことを好きであるキールは諜報がとても嫌だったらしい。
 キールが父に巻物を渡した時の表情に納得がいく。

 そもそも父はただ平民の天才と呼ばれていたキールがどれだけ貴族社会でやっていけるのか知りたかっただけらしい。
 私と付き合えないから刑罰、罰則。そんなことはないようだ。
 平民の人生を使ったいつもの父の娯楽ということである。

「しかし、まさかこんな近くにいるとは思いませんでしたよ。あの報告書。全て嘘になっちゃったじゃないですか」
「……………え? なんで気づいたの?」
「そりゃあ普通の人間が人間をホームランなんて出来るわけないでしょ?」
「…………あ、そうですよね。はい」

 私はキールのド正論に苦笑いしか出来なかった。
 
 キールは私に背を向けてまるで独り言のように口を開く。

「エリス様…………」
「……………ん?」

 その声から真剣であるとすぐに理解したため私も真面目に聞くようにした。
 流石に今更からかってくるなんてことはないだろう。

「僕は諦めてませんから」
「…………ッ! そう。なら頑張って私を惚れさせなさい」
「お手を…………【テレポート】!」

 そう言い残してキールは私の手を握り、転移魔法を行使した。
 その瞬間、視界が真っ暗に染められる。


 なんて不純なのだろう。
 今のキールの言葉に胸が少し弾んでしまうなんて。
 そんな私の気持ちが態度に出てなければいいなと願いながら私は意識を沈めた。
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