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ダンジョン
事件
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「…………うぐっ!」
楽園の崩壊は唐突にやってきた。
いや、現実がやってきたと言うべきか。
「どうしました!? 魔王様!?」
急に苦しみ始めた魔王にハデスがすぐに駆け寄った。
心臓を押さえた魔王は地面に蹲ってしまう。
このままでは本当に危ないのではと思ってしまうほどその表情は深刻である。
しかし、
「どけハデス! もう魔王様は…………」
「さっさとエリスを連れて帰るぞ」
「あぁ。魔王様の真意を汚す気か」
残りの三人はハデスとは対応が違い、この場から去ろうとしていた。
まるでもともと分かっていたかのように。
その三人に責められたハデスは少ししおらしくなって首を縦に振った。
納得できないこともないのだろう。
「…………はぁ、はぁ。エリス」
「ど、どうしたのよ!? どこか体調でも…………」
苦しみながらも魔王は私の名を呼んだ。
そんな魔王を見て私は何かにすがろうと手を伸ばす。
しかし、
「止めろ、エリス。もう今の魔王様は手遅れだ」
私の手はカイセルによって阻まれる。
今まで見てきたカイセルの表情とはまったくもって別物であり、冷徹非道とも例えることができそうである。
「待て。カイセル。魔王様の言葉を遮るな」
しかし、今回はハデスも意見を曲げないようだ。
従者として主の意見を聞くのは当たり前である
「エリス…………我は全ての魔物を統べる魔王ダ」
魔王は苦しみながらもできるだけ明瞭に伝えようと口を開く。
「我には願望がアル…………ソレは地上で日の光を浴びるコトダ」
「「「「…………」」」」
今までの無邪気な魔王とは違い、声のトーン、表情、雰囲気、全てが真剣であった。
それは四天王も同じようで、沈黙を保ったまま魔王の言葉を聞いている。
「ダガ、我ら魔を宿す種族は本能が存在スル。ソレは人間を殺せトイウものダ」
魔王は自分の両腕を血が出るほど押さえつけている。
この時の私はやっと理解した。しかし理解したくなかった。
やっとできた友達を別れなければならないなど。
「オマエニこの力を託ス。もし、その力をツカイコナセルようになったら…………」
魔王はそう口にし、何か黒いモヤモヤを私に預けた。
私がそれに触れた瞬間、浸透していくかのように私と統合する。
「ワレをコロシテクレ…………オマエタチはメイレイ、ドオリニ行動シロ!」
「「「「はっ! 仰せのままに!」」」」
魔王の言葉を聞いた瞬間、ハデスは私を抱えて後方へと下がっていく。
分かっている。これは魔王の命令だ。魔王の願いだ。
だが、この時の私はそんな理由を脳で理解していたとしても体に理解させることは出来なかった。
「い、いやああああああああぁぁぁぁ!」
私はどんどん遠ざかっていく魔王に手を差し出すように叫んだ。
どんな状況か、私は理解していない。
この現状がどう意味するかも私は知らない。
だが、ここで魔王と別れたら、もう一生会えないとは理解していた。
「ジャアな…………エリス」
「まおおおおおおおおおおおおうううぅぅぅぅ!」
私は迷宮中に響き渡るほどの声で叫ぶ。
しかし、私を抱えているハデスは私を放そうとはしない。
これが私と魔王の最後であった。
楽園の崩壊は唐突にやってきた。
いや、現実がやってきたと言うべきか。
「どうしました!? 魔王様!?」
急に苦しみ始めた魔王にハデスがすぐに駆け寄った。
心臓を押さえた魔王は地面に蹲ってしまう。
このままでは本当に危ないのではと思ってしまうほどその表情は深刻である。
しかし、
「どけハデス! もう魔王様は…………」
「さっさとエリスを連れて帰るぞ」
「あぁ。魔王様の真意を汚す気か」
残りの三人はハデスとは対応が違い、この場から去ろうとしていた。
まるでもともと分かっていたかのように。
その三人に責められたハデスは少ししおらしくなって首を縦に振った。
納得できないこともないのだろう。
「…………はぁ、はぁ。エリス」
「ど、どうしたのよ!? どこか体調でも…………」
苦しみながらも魔王は私の名を呼んだ。
そんな魔王を見て私は何かにすがろうと手を伸ばす。
しかし、
「止めろ、エリス。もう今の魔王様は手遅れだ」
私の手はカイセルによって阻まれる。
今まで見てきたカイセルの表情とはまったくもって別物であり、冷徹非道とも例えることができそうである。
「待て。カイセル。魔王様の言葉を遮るな」
しかし、今回はハデスも意見を曲げないようだ。
従者として主の意見を聞くのは当たり前である
「エリス…………我は全ての魔物を統べる魔王ダ」
魔王は苦しみながらもできるだけ明瞭に伝えようと口を開く。
「我には願望がアル…………ソレは地上で日の光を浴びるコトダ」
「「「「…………」」」」
今までの無邪気な魔王とは違い、声のトーン、表情、雰囲気、全てが真剣であった。
それは四天王も同じようで、沈黙を保ったまま魔王の言葉を聞いている。
「ダガ、我ら魔を宿す種族は本能が存在スル。ソレは人間を殺せトイウものダ」
魔王は自分の両腕を血が出るほど押さえつけている。
この時の私はやっと理解した。しかし理解したくなかった。
やっとできた友達を別れなければならないなど。
「オマエニこの力を託ス。もし、その力をツカイコナセルようになったら…………」
魔王はそう口にし、何か黒いモヤモヤを私に預けた。
私がそれに触れた瞬間、浸透していくかのように私と統合する。
「ワレをコロシテクレ…………オマエタチはメイレイ、ドオリニ行動シロ!」
「「「「はっ! 仰せのままに!」」」」
魔王の言葉を聞いた瞬間、ハデスは私を抱えて後方へと下がっていく。
分かっている。これは魔王の命令だ。魔王の願いだ。
だが、この時の私はそんな理由を脳で理解していたとしても体に理解させることは出来なかった。
「い、いやああああああああぁぁぁぁ!」
私はどんどん遠ざかっていく魔王に手を差し出すように叫んだ。
どんな状況か、私は理解していない。
この現状がどう意味するかも私は知らない。
だが、ここで魔王と別れたら、もう一生会えないとは理解していた。
「ジャアな…………エリス」
「まおおおおおおおおおおおおうううぅぅぅぅ!」
私は迷宮中に響き渡るほどの声で叫ぶ。
しかし、私を抱えているハデスは私を放そうとはしない。
これが私と魔王の最後であった。
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