追放された【助言士】のギルド経営 不遇素質持ちに助言したら、化物だらけの最強ギルドになってました

柊彼方

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3巻

3-2

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「で、では三試合目を開始します」

 武器の点検を終え、ミントとローレンは所定の位置につく。
 ローレンは大きな体格を活かして、水魔術を付与したおのを振り回す戦い方だ。
 魔術師のミントとしては、力任せの戦い方をするローレンは一番厄介な相手である。懐に入り込まれたら一巻の終わりだからだ。
 けれど彼女には不安の欠片かけらもなかった。

(ローレンには悪いけど、私たちには化け物助言士がいるの。そんな化け物の指導の賜物たまもの。見せつけてあげる)

 ミントは笑みを浮かべてローレンを見る。
 不利な状況にあるはずの彼女の笑みに、ローレンは寒気を覚えた。

「れ、レディ……ファイト!」

 審判は、自分にまで伝わる威圧感に震えながらも戦いの火蓋ひぶたを切ったのだった。

「最初から全力で行くぞ! 【水の加護】!」

 ローレンは戦闘が始まってすぐにスキルを行使した。
 このスキルこそが『碧海の白波』の由来。本来なら水属性に耐性がつくだけの低レベルのスキルだが、彼はそれをAクラスまで成長させることで、強力なスキルへと進化させた。
 効果は水の完全操作。水を使って何でも出来るというチートスキルである。
 そのためミントはこの試合、水魔術を行使出来ないのだ。行使したらローレンに制御せいぎょを奪われて自滅することになる。

「おらあああああああぁぁぁぁ!」

 ローレンは巨大な斧を構え、ミントに突進する。
 その突進には全く隙がなく、全ての行動を警戒しつつ行われていた。
 これまでの二試合とも常識外れの戦い方で負けているのだ。ミントも成長しているのではないか、そう疑うのは当たり前である。

「【氷の壁アイスウォール】!」

 ミントは詠唱を破棄し、即座に妨害魔術を行使した。
 彼女が放った魔術は、ローレンの行く手を阻むように璧となって屹立きつりつする。
 しかし、それはほんの少しの時間稼ぎにしかならない。

「こんなもので俺は止まらないぞ!」

 ローレンは斧を振り回し、その勢いで壁を崩した。
 天才ミントが使う魔術だ。どの魔術も精度や効力は人一倍高いはずである。そんな魔術をいとも簡単に彼は破壊したのだ。
 これがフェーリア王国最強と呼ばれる斧使いの実力である。

「すまんな! 俺は女性だからといって手加減はしない! おらっ!」
「【防御結界】――うぐっ!」

 一瞬で距離を詰めたローレンは、ミントの横腹に斧をぶち込んだ。
 その威力は他の斧使いとは段違い。咄嗟に防御魔術を行使したため、飛ばされるだけで済んだが、少しでも反応が遅れていれば肋骨ろっこつくだけていただろう。

「ふぅ、本当に馬鹿力ね」
「これが俺のだからな!」

 ミントはローレンと距離を取り、荒れた呼吸を鎮める。
 彼女にはマルクスのような打撃力も、オルタナのような射撃能力もない。
 彼女にあるのは、ただひたすら極めてきた『魔術』だけだ。
 どれだけ壁が高かろうが、これまでの努力が、学んできた知識が、動力源となって彼女を突き動かす。

「【浮遊】!」

 ミントはロイドに鍛えられた【同時並列思考】を使い、浮遊魔術を行使する。
 浮遊魔術は術式の構成が桁違けたちがいに難しく、他の技との同時行使など出来るはずがない。
 だから彼女が浮遊したまま攻撃すると考える者はいなかった。

「【風の刃ウインドカッター】!」

 ミントは空中に幾つもの【風の刃ウインドカッター】を出現させ、ローレンに放つ。
 ローレンも対抗するように、水の加護を受けた斧を振り、水の刃を飛ばした。
 双方の斬撃は空中で轟音を立てて爆散する。
 ローレンは幾つもの魔術を相殺。ミントは魔術の同時行使である。
 異次元の戦いを見ている観客たちは、盛り上がっているというより、安堵あんどしているようだった。

「良かった。やっぱりこれが戦いってやつだよな」
「あぁ。今までのは戦いじゃねぇよ。なんだよ拳で防御結界を割るって」
「あの魔弾使いもヤバかった。一発一発が上級魔術並みの威力とかふざけてんだろ」

 本来A級冒険者同士の戦いなどお目にかかれない貴重なものだ。
 しかし、今回は前菜で満腹になってしまったのだ。
 魔弾使いに魔導拳闘士。未知の存在を見すぎた観客たちにとって、この試合はどことなく退屈に映っていた。
 ミントはそんな観客の態度に少し頬を膨らませる。

(私よりオルタナとマルクスがいいの? なら私が目を覚まさせてあげる)

 一概にA級といっても、実力には差がある。
 B級寄りのA級か、S級寄りのA級か。
 それらの実力差は同じクラスとは思えないほど大きい。それこそ、もう一クラス作れるくらいはあるだろう。
 だが、A級の中でのクラス分けはされていない。A級の基準に到達しただけでこの国では最強という扱いだからだ。その上のS級は、例外的な化け物のために用意された形式的な階級である。
 マルクスと戦ったルースは、A級といえどその中では格下だ。

「ローレン。本気でいこうよ」
「いいぞ! ミントがその気なら俺も本気を出そう!」

 ローレンとミントはS級寄りのA級にあたる。
 彼らが戦う光景は、二回戦のそれとは次元が違う。

「はああああぁぁぁぁ!」
「せやあああぁぁぁぁ!」

 二人は咆哮ほうこうしながら、開いていた距離を一瞬で詰めた。
 ローレンは水を纏った斬撃を繰り出し、ミントは自身に補助魔術を行使し、風の刃で斬撃を弾き飛ばす。
 二人の戦闘はB級冒険者がやっと目で追えるスピードで行われた。ただの観客たちには、金属音と爆風しか感じられない。

「な、何が起こってるんだ!?」
「多分ローレンとミントが斬り合ってるんだ!」
「魔術師のミントがローレンについていけてるのか!?」

 観客たちは分からないなりに、歓喜交じりの叫び声を上げた。
 今、ミントがローレンの攻撃についていけているのは、ローレンが斧使いであったためだ。
 斧使いは俊敏さに欠けており、その分腕力がある。そのため、ミントのステータスでも辛うじてついていけているのだ。

「おらおらおらおらっ!」
「はああああああぁぁ!」

 二人は何度も斬撃で刻み合い、消耗しょうもうしていく。
 もちろん二つの魔術を同時行使しているミントのほうが消耗は激しい。

(なんでこんな戦い方をするんだ? これでは俺のほうが有利だぞ!)

 ローレンはミントと刃を交えながら思う。
 ここまで力量が拮抗するとあとはスタミナの勝負になる。ただ杖を振るだけでも肉体的な疲労は積み重なるため、時間が経つにつれてミントの腕は上がらなくなり、いずれローレンが勝つだろう。
 そんな冒険者の初歩と言うべきことにミントが気づかないはずがない。ローレンはそれが引っかかっていたのだ。
 だが、相手がわざわざ自分のフィールドで戦ってくれているのだ。間違いなく好機でもあった。
 ローレンは後ろに軽く跳躍し、ミントから適度な距離を取った。
 彼は斧を肩に担ぎ、とどめの一撃を放つために腰を落とし構える。

「【水式秘術アクアベルク】! 三式!」

 ローレンの秘技である【水式秘術アクアベルク】。
 水の加護を応用した技であり、一式から三式と奥義の四つがある。
 数字が上に行くほど威力は増していくため、三式はかなりの威力となる。奥義となるとそう簡単にお目にかかることは出来ない。

「へぇ。完全に仕留めに来るわけね」

 ミントは【浮遊】を解いて地面に下りる。そして視線の先で溜めの姿勢をとっているローレンを見つめた。
 ローレンは魔物以外に【水式秘術アクアベルク】を使わないことで有名である。人を殺すだけの威力があるからだ。
 その彼がここで【水式秘術アクアベルク】を使った。それはミントのことを強者として認めている証拠である。

「ローレンの【水式秘術アクアベルク】!? 初めて見るぜ!」
「そりゃそうだろ! 【水式秘術アクアベルク】はダンジョンでしか使わないことで有名なんだから!」
「それを今目の前で見れるなんて最高じゃねぇか!」

 観客たちも目を輝かせていた。
 最強の斧使いが使う秘技。その威力を目に出来るのだ。興奮しない方がおかしいというものである。
 ローレンはにんまりと笑みを浮かべて咆哮ほうこうした。

「【水之殲滅斧アクアブレイカ】!」

 斧を媒体とし、水の加護によってその大きさは百倍以上に変貌した。
 水で出来た巨大な斧。このステージを埋め尽くすほどの大きさだ。
 観客たちはその異次元な光景に目を見開いて驚愕する。

「な、なんだあの巨大なやつは!?」
「でかすぎだろ!? あんなのどうやって防ぐんだよ!」
「これがローレンの【水式秘術アクアベルク】……こんなのまともに食らえば端微塵ぱみじんだぞ!」

 こんな巨大な斧を目にしたら誰もが戦意をなくすだろう。この先にあるのは『死』のみである。
 だが、そんな状況でも笑っていられる例外がこの場に一人だけいた。

「ふっふっふ……」

 この状況、この立場、この展開。ミントは全ての流れが予想通りであることにいびつな笑みを浮かべる。

(ロイドはこの状況を予想してたってわけね)

 ロイドと出会う前のミントであればここで棄権きけんしていた。【水式秘術アクアベルク】に対抗する魔術など人間には行使出来ないのだから。
 だが、今のミントは違う。

(ここで私が【水式秘術アクアベルク】を破壊する。これこそがロイドの視た光景ね)
「双方術式展開! 【岩の加速槍レールランサー】! 【拡大ラージ】!」

 ミントは甲高かんだかく、自分の魔術を誇示するように叫んだ。
 彼女の左右には何重にも重なる巨大な二つの術式が展開される。
 ローレンの【水之殲滅斧アクアブレイカ】に見惚れていた観客たちの視線がミントに集中した。

「おい……おいおいおい!?」
「双方術式展開!? なんだそれ!」
「しかもあの【岩の加速槍レールランサー】って魔術……オリジナル魔術じゃないか!?」

 観客たちの驚愕の波は収まらない。
 術式展開とは詠唱の代わりとなる魔術の発動方法だ。本来脳内で想像する術式を、魔力を使って目に見えるかたちで展開する。可視化する分、術式の間違いは許されず、その魔術を完全に理解していなければ発動出来ない。
 一方で、術式展開を使うと、巨大な魔術を一瞬で使える。元々詠唱しない彼女には必要ないと思うかもしれないが、それは大いに間違っている。

(ローレン。あなたのミスは、私が近接戦闘をした理由を知ろうとしなかったことよ)

 簡単に言えば、術式とは作り置きである。
 ミントは近接戦闘を行っている間に【岩の槍ロックランサー】と【風の波動ウインドウェーブ】の術式を完成させ、【同時並列思考】で【岩の加速槍レールランサー】を作ったのだ。
 彼女はそんな融合魔術にさらに【拡大ラージ】を融合させようとしているわけだ。

「むぐぅ……出来た!」

 今回は術式作りに時間をかけたため、高度な魔術でも融合させることが出来た。
 実際、一度術式を作ってしまえばそれ以上の思考を必要としないため、融合させることだけに思考を使えるのだ。

(次からこれも術式使お)

 こうしてミントは着実に化け物の階段を上っていくのだが、彼女がそれに気づくことはない。

「融合術式展開! 【巨大岩の加速槍ラジレールランサー】!」

 ミントは融合させた術式を展開して、巨大な魔術を顕現けんげんさせた。


 こちらもまた、このステージを埋め尽くす巨大な岩の槍と制御された暴風。
 そんな【水之殲滅斧アクアブレイカ】並みの魔術を見て、観客たちはただただ驚きをあらわにする。

「おいおいおい!? なんだあの魔術!」
「魔術が合体したぞ!? しかもあの大きさ! 【水之殲滅斧アクアブレイカ】と同じぐらいだ!」
「魔術の融合なんてあり得ないはずだ! なんでこんなことが……」
「これが本物のA級……こんなのやばすぎだろ!」

 観客たちは怪獣の頂上決戦を見ているような気分で二人の試合を見ていた。
 そして、その頂上決戦はすぐに幕を閉じる。
 二人は全力を出しきるべく咆哮した。

「打ち砕けえええええええぇぇぇぇぇ!」
「貫ぬけええええええええぇぇぇぇぇ!」

 ローレンは巨大な斧をミント目掛けて振り下ろし、ミントは巨大な槍をローレン目掛けて放つ。
 双方の魔術は巨大な爆発音を立てて衝突したのだった。

「「「ゴクリッ……」」」

 砂ぼこりが舞い、よく見えないステージを観客たちは息を呑んで見守る。
 ミントの奥義【巨大岩の加速槍ラジレールランサー】とローレンの秘技【水之殲滅斧アクアブレイカ】が衝突したのだ。
 もともと運営が何重もの防御結界をステージに張っていたため、観客に被害はないが、数枚の防御結界は割れている。観客たちも今までにない迫力に呆然としていた。
 徐々に砂ぼこりが落ち着き、戦闘の結果が見えてくる。

「ったく! なんて威力だ……」

 砂ぼこりの中から筋骨隆々の肉体を持つ人影が見え始めた。
 顔を見なくともその体格で誰か判断出来る。

「か、勝ったのはローレンか!?」
「この声はローレンだぞ!」
「まぁ【水之殲滅斧アクアブレイカ】にはミントでも勝てなかったというわけか」

 観客たちはその人影を見て口々にそう言った。だが、その中で一人だけ異論を述べる者がいた。

「いや、待てよ。ローレンの様子……変じゃないか?」

 たった一人の言葉だ。誰も聞く耳を持とうとしない。
 しかし、その言葉の正しさがすぐに証明された。

「まさか、俺が負けるとは……な」
「私の魔力も底をついたわ。ここまで全力を出したのは初めてよ」

 ローレンは意識を保てなくなったのか、顔面から地面に倒れていく。そして、入れ違いになるように、倒れていたミントがゆっくりと立ち上がった。
 観客たちは頓狂とんきょうな声を上げる。

「「「なっ!?」」」

 あの最強の斧使いと呼ばれたローレンを、あのギルド順位三位のギルマスであるローレンを、彼女は倒したのだ。
 一人の魔術師が斧使いに勝った。
 それは、魔術師は近接戦闘に弱いという固定観念を否定するのに十分な材料である。

「「「お、おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 その瞬間、会場は観客たちの歓喜の波に包まれたのだった。

         †

『緑山の頂』と『碧海の白波』の対抗戦の結果はすぐに全国民に広まった。
 ギルド順位七位の『緑山の頂』が三位に急浮上。魔弾使いに魔導拳闘士、さらには融合魔術などという人智を超えた技術を持つギルドマスター。
 これだけでも一週間は話題になりそうである。
 しかし、国民が一番驚いた事実は別にあった。


『雲隠の極月』の拠点の応接間にて。

「え!? 『碧海の白波』が僕たちの傘下に入る!?」

 対抗戦終了後、ローレンは僕――ロイドを訪ねて頭を下げた。

「お願いだ! 俺たちを大将の配下に入れてくれ!」
「え? いや、どういう風の吹き回しなんですか!?」
「前回と今回の対抗戦で痛感したんだ! 大将の力がどれだけ偉大かを! 俺たちも大将に強くしてもらいたい!」

 ローレンの表情は一切ふざけたものではない。本心からそう思っているのだろう。
 そう言ってくれるのは嬉しいが、僕としても心の準備というものがある。

「いや、大将って……僕は何の実力もない、それこそ戦えもしない助言士ですよ?」
「大将が戦えないなら俺が右腕となりミントが左腕となろう!」

 まさかここで彼女の名前が出てくるとは思わなかった。
 僕はローレンに聞き返した。

「ミント? どういう――」
「私たち『緑山の頂』も同盟ではなく傘下に入ることにしたんだよ」

 僕の言葉が遮られた。
 応接間に入ってきたミントは、にんまりと笑みを浮かべている。

「は、はあああああぁぁ!? なんでそんなことになってるんですか!?」

 別のギルドの傘下に入るということは同盟とは大きく異なる。
 順位に変更はないが、傘下に入ったギルドの実績の半分は、上に立つギルドに譲渡されることになるのだ。
 つまり、僕たちギルド順位二十二位の『雲隠の極月』は、三位と四位のギルドの恩恵を受けることになる。

「それじゃあ僕たちにしか得がないですよね?」
「いや、あるぞ? 俺は大将に教育してほしい。それに、お、俺はエリスさんの魔術を受けて……みたい」

 ローレンは赤くなった頬をかきながら言った。
 最近は「やばい魔術を受けてみた」、みたいな企画でも流行っているのだろうか。
 いや、流石にギルドマスターが私情で動くはずがない。僕の聞き間違いだろう。

「もともと同盟には納得いってなかったもん。今回の対抗戦でなんでエリスちゃんがロイドに執着してるか分かった気がするよ」

 ミントはローレンに賛同するように口にした。

「今の私たちにはロイドの指導が必要なんだよね」
「負けてすぐに『配下にしろ』。これは正直、調子のいい話だと分かってる。でも、俺はどうしても大将の行く末を近くで見たい。それに迷惑をかけた分、力になりたいんだ」

 二人は律儀に膝を折り、こうべをたれる。

「え……」

 これは古くからの慣習で、その者の配下になることを誓う儀式だ。
 そう。僕が何と言おうと、二人ははなから決めていたのである。

「「どうか、俺(私)たちを雲隠の極月の配下に入れてください!」」

 二人は真剣な面持ちで嘆願したのだった。


 ローレンとミントの覚悟を感じた僕は渋々首を縦に振り、二つのギルドは正式に『雲隠の極月』の傘下に下ることになった。
 その場で、僕ら三人はこんな話をした。

「雲隠に緑山に碧海……う~ん、共通点はないけど。ロイド、私たちの正式名称はどうするの?」

 同盟ではなく傘下に入るとなると話は変わってくる。
 個々のギルド名はそのままだが、三つまとめた時に、別の大きな組織として扱われることになるのだ。

「規格外な者ばかりだから……幻想郷リュネール。これでどうかな?」
「賛成だ! なんかかっこいいじゃないか!」
「いいね! じゃあ私たちが作る組織の名前はこれから幻想郷リュネールということで!」

 こうして僕たちは『幻想郷リュネール』と名乗ることになった。

         †

「おい聞いたか? 『碧海の白波』と『緑山の頂』が下位グループの傘下に入ったこと」
「知ってるぜ! 『幻想郷リュネール』だろ」
「『幻想郷リュネール』? なんだそれ?」
「そういう組織名らしいぜ。三位と四位が二十二位の下につくなんて、これはただごとじゃねぇぞ」

 街を歩けば国民たちが噂し――

「おいおい……なんだよ『幻想郷リュネール』って!」
「えぐいよなぁ。雲隠って確か魔式拳銃を作ったニックのギルドも傘下に入れてなかったか?」
「まじかよ!? なんなんだよ雲隠って!」
「ギルマスがまじで正体不明なんだよな。戦闘職でもないみたいだし……」

 冒険者ギルドやダンジョンでは冒険者が噂する。
 完全に『幻想郷リュネール』はフェーリア王国の特異点となっていた。
 今やこの国では『幻想郷リュネール』を知らない者のほうが少ないだろう。
 しかし、ロイドの名が広まることはなかった。
 それは彼がスラム出身であるためか。それとも『太陽の化身』から追放したことをカイロスがもみ消したためか。
 まだロイドの名前が広まることはなさそうだ。

         †

 対抗戦から一週間経ったある日。『雲隠の極月』の会議室では、現状報告会が始まろうとしていた。
 僕――ロイドは、会議室の前で受付をしていたメイドのセリーナに声をかける。

「セリーナさん。代表たちは集まってます?」
「はい。五名全員揃っております。それとロイド様。もう敬語はおやめください」

 僕も今では国中で噂される組織のトップである。メイドに敬語を使っていては小物と思われるかもしれない。
 だが、彼女にはどことなく大物のオーラを感じるのだ。

「あ、そうだね。でもなんかセリーナには敬語を使っちゃうんだよね……って五名? 四人じゃなかったっけ?」
「一人だけどうしても話に加えてほしいと申す者がおりまして。ロイド様に判断をお任せしようと思い部屋に入れております」

 今回の会議は『幻想郷リュネール』の代表たちを集めた会議である。
 僕の中でメンバーは自分を入れて五人だったはずなのだが、あと一人は誰だろうか。


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