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二年目 勧誘員現る
属性水晶
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朝食が終わると、いつもは年長者のみんなで食器の後片付けの時間。
なのに、その日はお片付けは免除。
代わりに順番に院長様の部屋に、一人づつ呼ばれることになった。
院長様は優しい方だけど、元は先代領主夫人だから、いつもお会いする時は緊張しちゃう。
とはいえ、普段だったらそうそう会う機会もないんだけど。
私の番になって部屋に入ると、やっぱり院長様の執務机の前にある応接セットにはあのお兄さんの姿。
院長様は私の名前を呼ぶと、彼の前に座るようにと促す。
「コンカッセ。
この方は、グラムナード領主様のご嫡男のアスラーダ様です。
そのことを踏まえて、失礼のないようにね。」
お兄さんは、その言葉に院長様から見えない様にしながらもげんなりした表情を浮かべる。
どうも、他の子が来る度に同じ会話が行われたっぽい。
「今回アスラーダ様がいらっしゃったのは、弟君が継がれている錬金術工房に弟子を迎える為だそうです。
このお話は強制ではありません。
興味がないのでしたら、ここで退室しても結構です。」
院長様はそう言いながらも、困惑している様子だ。
そりゃあ弟子を採る為に、わざわざ孤児院なんかに足を運ぶなんて変すぎ。
しかも、自分のじゃなくて弟のだし。
気持ちは分かる。
私がそのまま動かずにいると、院長様は気遣うように尋ねてきた。
「……本当にいいのですか?」
「はい。
お話を伺いたいと思います。」
私だってその気になればTPOをわきまえた話し方くらいできる。
普段は面倒だからやらないだけ。
私の返答に、諦めたように肩を落として、院長様はお兄さんに頭を下げた。
めっちゃ、紹介したくなさそう。
「宜しくお願い致します。」
その沈痛な表情と、お兄さんが院長様に気付かれないように吐いたため息で、私の前に来た子達はみんな彼の話を聞くところまではいかなかったんだろうな、と想像がついた。
――憐れ、お兄さん。
こんなに遠くまでやって来たのに人買い扱いとか、悲しすぎ。
今朝の食材提供とかが、よりそういう風に見えるって事。
「……とりあえずそこに座ってから、これを握ってみてくれ。」
「ん。」
応接セットのお兄さんの対面の席を勧められ、やっと腰を下ろす。
部屋に入ってきてからずっと、院長様は『部屋にお帰り』と言わんばかりの態度で椅子を勧めてくれないものだから、ずっと立ちっぱなしでちょっと居心地が悪かった。
勧められた椅子は年代物ではあるけど、いつも座っている足の長さが不ぞろいになっちゃってるものよりもずっと座り心地がいい。
揺れないのって、イイネ。
椅子に腰を落ち着けるとすぐに、ローテーブル越しにお兄さんの差し出してきた小さな水晶玉のようなものをギュッと握ってみる。
「――おお?」
乙女に相応しくない声を思わず上げてしまったのは、体の中から何かが抜けて行くような違和感を感じたせい。
驚いて握り込んだ手を開くと、ついさっきまで透明色だった水晶玉が赤、橙、黒と色相をクルクルと変えている。
「ナニコレ?」
目をパチクリしてみても、やっぱりおんなじ状態。
院長様は、驚きのあまり声もない様子だったけど、お兄さんは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「今握ってもらったのは、属性判定水晶という魔導具だ。」
「魔道具?
なんか、吸い出された感じがした。」
「魔導具……魔力石からでなく、使用者の魔力を利用して機能する道具になる。」
勝手に吸い出されるとかちょっと怖いけど、属性判定水晶って言う道具の名前は聞いたことがあるから危険なモノじゃないんだろう。
でも、ちょっとびっくり。
心臓に悪い。
「今のは適性検査だったんだが、『見込みあり』だ。」
お兄さんのその言葉に、胸が高鳴る。
「……何に対して、『見込みあり』?」
ドキドキする胸を押さえて、問いを返す。
朝ここまで案内する時に話してた事を考えると、『錬金術師』ではなさそう。
自分の好み的には、お薬よりも道具類を作れるようになる方が嬉しい。
どっちだろう?
それに……。
――見込みありって事は、魔法を勉強できる可能性があるって事?
「確実な事は言えないが、おそらく『魔道具師』の方に適性があると思う。」
彼はそう答えると、傍らに置いてあった封筒を手に取ると中から一枚の紙を取り出して、懐から出したペンみたいなモノで何かを書きつけはじめる。
インクを付けずに字が書けるなんて、アレも魔道具とか魔導具の類?
お兄さんは、私がドキドキしながらソレを見ているうちに書き上げたソレを、改めて封筒の中へと戻してこちらに差し出す。
「さっきドミニク夫人が口にしたように、強制ではない。
この中に、紹介状と勤務形態や給与に関する概要を書いたものが入っている。
内容を確認した上で、きちんとシスター達とも相談して双方が納得できたら是非応募してきてほしい。」
「ん、了解。」
私が封筒を受け取ると、お兄さんはそう言って軽く頭を下げた。
思わず、普段通りの返事をしちゃったから院長様の視線が怖い事になってる。
――お兄さんは気にしてないのに心が狭い。
あ、いや、院長様、恥をかかせてごめんなさい。
次から気を付けます。
私は、まるで心を読んだかのように視線が怖くなっていく院長様から逃げ出すように、部屋を飛び出した。
なのに、その日はお片付けは免除。
代わりに順番に院長様の部屋に、一人づつ呼ばれることになった。
院長様は優しい方だけど、元は先代領主夫人だから、いつもお会いする時は緊張しちゃう。
とはいえ、普段だったらそうそう会う機会もないんだけど。
私の番になって部屋に入ると、やっぱり院長様の執務机の前にある応接セットにはあのお兄さんの姿。
院長様は私の名前を呼ぶと、彼の前に座るようにと促す。
「コンカッセ。
この方は、グラムナード領主様のご嫡男のアスラーダ様です。
そのことを踏まえて、失礼のないようにね。」
お兄さんは、その言葉に院長様から見えない様にしながらもげんなりした表情を浮かべる。
どうも、他の子が来る度に同じ会話が行われたっぽい。
「今回アスラーダ様がいらっしゃったのは、弟君が継がれている錬金術工房に弟子を迎える為だそうです。
このお話は強制ではありません。
興味がないのでしたら、ここで退室しても結構です。」
院長様はそう言いながらも、困惑している様子だ。
そりゃあ弟子を採る為に、わざわざ孤児院なんかに足を運ぶなんて変すぎ。
しかも、自分のじゃなくて弟のだし。
気持ちは分かる。
私がそのまま動かずにいると、院長様は気遣うように尋ねてきた。
「……本当にいいのですか?」
「はい。
お話を伺いたいと思います。」
私だってその気になればTPOをわきまえた話し方くらいできる。
普段は面倒だからやらないだけ。
私の返答に、諦めたように肩を落として、院長様はお兄さんに頭を下げた。
めっちゃ、紹介したくなさそう。
「宜しくお願い致します。」
その沈痛な表情と、お兄さんが院長様に気付かれないように吐いたため息で、私の前に来た子達はみんな彼の話を聞くところまではいかなかったんだろうな、と想像がついた。
――憐れ、お兄さん。
こんなに遠くまでやって来たのに人買い扱いとか、悲しすぎ。
今朝の食材提供とかが、よりそういう風に見えるって事。
「……とりあえずそこに座ってから、これを握ってみてくれ。」
「ん。」
応接セットのお兄さんの対面の席を勧められ、やっと腰を下ろす。
部屋に入ってきてからずっと、院長様は『部屋にお帰り』と言わんばかりの態度で椅子を勧めてくれないものだから、ずっと立ちっぱなしでちょっと居心地が悪かった。
勧められた椅子は年代物ではあるけど、いつも座っている足の長さが不ぞろいになっちゃってるものよりもずっと座り心地がいい。
揺れないのって、イイネ。
椅子に腰を落ち着けるとすぐに、ローテーブル越しにお兄さんの差し出してきた小さな水晶玉のようなものをギュッと握ってみる。
「――おお?」
乙女に相応しくない声を思わず上げてしまったのは、体の中から何かが抜けて行くような違和感を感じたせい。
驚いて握り込んだ手を開くと、ついさっきまで透明色だった水晶玉が赤、橙、黒と色相をクルクルと変えている。
「ナニコレ?」
目をパチクリしてみても、やっぱりおんなじ状態。
院長様は、驚きのあまり声もない様子だったけど、お兄さんは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「今握ってもらったのは、属性判定水晶という魔導具だ。」
「魔道具?
なんか、吸い出された感じがした。」
「魔導具……魔力石からでなく、使用者の魔力を利用して機能する道具になる。」
勝手に吸い出されるとかちょっと怖いけど、属性判定水晶って言う道具の名前は聞いたことがあるから危険なモノじゃないんだろう。
でも、ちょっとびっくり。
心臓に悪い。
「今のは適性検査だったんだが、『見込みあり』だ。」
お兄さんのその言葉に、胸が高鳴る。
「……何に対して、『見込みあり』?」
ドキドキする胸を押さえて、問いを返す。
朝ここまで案内する時に話してた事を考えると、『錬金術師』ではなさそう。
自分の好み的には、お薬よりも道具類を作れるようになる方が嬉しい。
どっちだろう?
それに……。
――見込みありって事は、魔法を勉強できる可能性があるって事?
「確実な事は言えないが、おそらく『魔道具師』の方に適性があると思う。」
彼はそう答えると、傍らに置いてあった封筒を手に取ると中から一枚の紙を取り出して、懐から出したペンみたいなモノで何かを書きつけはじめる。
インクを付けずに字が書けるなんて、アレも魔道具とか魔導具の類?
お兄さんは、私がドキドキしながらソレを見ているうちに書き上げたソレを、改めて封筒の中へと戻してこちらに差し出す。
「さっきドミニク夫人が口にしたように、強制ではない。
この中に、紹介状と勤務形態や給与に関する概要を書いたものが入っている。
内容を確認した上で、きちんとシスター達とも相談して双方が納得できたら是非応募してきてほしい。」
「ん、了解。」
私が封筒を受け取ると、お兄さんはそう言って軽く頭を下げた。
思わず、普段通りの返事をしちゃったから院長様の視線が怖い事になってる。
――お兄さんは気にしてないのに心が狭い。
あ、いや、院長様、恥をかかせてごめんなさい。
次から気を付けます。
私は、まるで心を読んだかのように視線が怖くなっていく院長様から逃げ出すように、部屋を飛び出した。
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