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霧ちゃん→霧聖羅

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二年目 フレトゥムールの昔話

アッシェはやる気

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「なーにをしけた顔してるのですか、コンちゃん。」

 そう言って笑うアッシェの顔は、いつも通り。
そのせいで私の頭の中からは、攫われてきたらしいなんてことを一瞬とはいえ忘れそうになっちゃたよ。
危ない危ない。
現状把握は大事な事なのに。

「……アッシェ、状況分かってる?」

 だから、彼女に対する口調はちょっと強めなもの。
自分の中からまで、緊張感が抜け落ちたら困っちゃうじゃない?
アッシェのペースに巻き込まれると、あっという間に緊張感なんかなくなっちゃうんだから。

「分かってるですよ?」
「本当に?」
「もちのろんなのです♪」

 その言葉からは、やっぱり信憑性のかけらも感じられない。
まぁ、いつもの事ではあるんだけど。
ちゃんと現状を把握してるのかと、内心不安に思ってたから、それに続く彼女の言葉は正直意外だった。

「なんというか、正直な話、コンちゃんとアッシェの二人だけならいつでも逃げ出せるですよ?」
「二人だけ、なら……?」

 その言葉に思わず周りを見回すと、そこには私達よりも幼い子供達の姿が全部で十人。
ちなみに、私達より幼いって事は、十歳にならない子供ばっかりって事。
確かに、基礎学校での武術の訓練で好成績を修めてるアッシェなら、一人で抜け出すのは簡単とまではいわなくても可能なのかもしれない。
でも、流石にここにいる全員を連れて逃げ出すのは無理な話。
ついでに言うなら、アッシェの言うところの『二人』の内訳は自分と私の事で間違いない。
こういう時、彼女は線引きがすごくシビアなんだよ。
見知らぬ誰かじゃなく、より身近な誰かしか、絶対に選ばない。
手遅れになるまでグダグダと悩み続けそうな私とは大違いなんだよ。

「勿論、知らない子を連れて行くつもりはないのです。」
「私だったら自分で何とか……」
「出来るのだったら、夜のデザートをパクパク食べたりなんかしてないはずなのです。」

 アッシェのその言葉で、私ははじめて夕飯の時に出たパウンドケーキに(多分)眠り薬が仕込まれてたらしい事に気が付いた。


――もしかして、院長様にその事を話してくれてたらこういう事態になってなかったんじゃ……。


「ちゃんと、おばーちゃんには話したですよ?
でも、『そんな失礼な事を言うモノじゃありません!』って言われちゃったのです。」

 ケーキに眠り薬が仕込まれてるなんて事が分かってたなら、先に言うことも出来たんじゃないかと思った瞬間にアッシェが少し不貞腐れた表情で呟く。

「……言われそう。」

 むしろ、院長様がそう言うのは普通だよね。
自分の保護下に居る子供が言ってる事に一々振り回されてたらキリがないし、そう言う反応になるのも無理はないと思う。
ただ、一つ言えるのは、孤児院に居る人はみんなあの時点で眠ってしまってただろうって事。
そうなると、たとえ院長様が事態に気が付いて、すぐに捜索隊をだしたとしても、丸一晩以上のタイムラグがあるって事になる。
正直、捜索隊そのものが出るかどうかも分からないけど。
だって、私にしろアッシェにしろ、孤児院で保護されてるだけのただの子供だし。
別にフレトゥムールの町でどうしても必要な人間と言う訳でもないものね。

「なので、攫われた時に何とかする用に多少の準備はしてたのです。」
「例えば?」
「大きなものはバレちゃうので、鉛筆削り用のカミソリをアッシェとコンちゃんの髪の毛に仕込んでおいたです。」
「いつの間に?!」
「コンちゃんがぐーすかぴーってなった時ですよ?」

 言われて、思い返してみると確かに、意識を失った時になんだか髪を引っ張られた記憶がある。
あの時にはすでに、アッシェは攫われる前提での行動に入ってたらしい。
どれだけ用意周到なんだか……。
正直、感心していいのやら、呆れていいのやら悩んじゃう。
実際のところは有難いんだけど。

「とは言っても、身に着けててもおかしくないような嵩張らない物限定になっちゃったので、大したものは持って来れてないのです。」

 そう言ってアッシェが見せてくれたのは、確かに身近にあるものばっかり。


――これで、一体どうやって何とかする心算なんだろう……。


 持ち込まれた代物を眺めながら私は、やっぱりどうにもならないんじゃないかな、なんて思い始めてた。
アッシェはやる気満々だけど。
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