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二年目 見習い期間 ~調薬工房~

半自動石臼 下

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 今、第二回目の手抜き魔法具講座のお時間。
リエラが焼き付けた魔法文字の効果を確認し終えて、次の工程についてのお話をお伺いするところです。

「では、『属性魔力の付与』の方法について。君は、何か試してみた事はあるかね?」
「属性魔力石を使って魔力を纏わせることが出来ないか、とは考えたんですが……」

 リエラが上手くいかなかったと首を横に振ると、アスタールさんは納得したように頷く。
どうせなら、一度ダメ元でやってみようと思って試したんだよね。
上手くいかなかったけど……。
それでも、挽いた分はきちんと煎じて、ケアクリームの材料に変身してもらいましたとも。
材料を無駄にはしたくないので!

「上手くいかなかった原因について、君の意見は?」
「原因、ですか……」

 正直、この原因は単純なんじゃないかと思ってる。
ただ単に、纏わせ付加する属性魔力が足りない、その一点に尽きる気がする。
動力源にする魔力石は、手で握る『挽き手』があった場所に入れるように改造した。
だからリエラは、そこに『地』の属性魔力石を入れてみる事を試してみたんだけど……。
結果は、極々わずかに魔力を纏わせただけに過ぎなかった。
その状態以上にする方法も考えてはみたんだけど、結局、思い浮かばずに今日に至るんだよね……。

「原因については、君の予測通りで間違いないだろう」

 リエラが自分なりの予想を口にすると、アスタールさんは満足げに頷きながらそう告げる。
やっぱりと思うのと同時に、なら、どうしたらいいんだろうと途方に暮れちゃうよね。

「石臼の構造は分かっているかね?」
「上臼と下臼があって――」

 大まかな構造を口にすると、アスタールさんはリエラに改めて訊ねる。

「それで、どこか部品が変えられそうな部分はあったかね?」
「――!!」

 あった、変えられそうな部品!
改めて聞かれるまで、考えもしなかったけど。

「……確かに、軸の部分なら、素材を変える事も出来ます」
「うむ。では、軸に細工を施すと良い」

 そう言って教えてくれたのは、『魔力放射装置』のページ。
そのページに載っている装置の形は照明みたいな形状だったから軸にするのには向かないけど、必要なのは正しい魔法文字の配置なのでそこは問題にならないらしい。
なら、なんで載っている魔法具の形状がなのかって、この本を書いた人に追求したい気分になっちゃったよ。
そういや、なんだか魔法具に限らず魔法の本でも、こう言う知りたい部分が欲しい部分が抜けてたりするのがあった気がするんだけど……もしかして、ワザとなのかな?
ワザとなら、なんでだろ??

「この本を書いた人って、意地悪なんですかねぇ……」
「……なんでそう思ったのかね?」
「なんだか、ワザと一番難しいやり方を書いたり、要らない固定観念を刷り込もうとしているみたいに感じる時があるんですよ」
「ああ……。それは、故意にだろう」

 軸の部分で属性魔力石を挟み込むような形になるように細工を施しながらぼやくと、アスタールさんは当然の事のようにリエラの意見に同意する。
そっか、やっぱりワザとなのか。

「今作っている軸を導線代わりに使って、下の方にも魔力供給用の魔力石を入れる場所を作った方が良い」
「そっか、そうしないと属性魔力石を毎回付け替えなきゃいけなくなっちゃうんですね?」
「うむ。軸受けの下にすると言うのも手だが、それだと頻繁に臼をひっくり返す必要がでてきてしまう」
「それは……筋力的な方向で厳しいです」
「では、この辺りに穴を開けて……うむ……それでいいだろう」

 アスタールさんの指示に従って黙々と形状変化を施していくと、三〇分ほどで本体が出来上がり!
後は、薬草を勝手に補充してくれる用の漏斗状になった軽い容器を上に乗せて、石臼本体の下に、魔力を散らしづらい素材で作った入れ物を設置すれば完成!!
付属品の二つを作り終わったところで、丁度、本日の手抜き魔法具講座、終了の時間です。

「出来た~!!」
「うむ、……これなら、十分実用に耐えるだろう」

 確認をしてくれたアスタールさんのお墨付きが貰えたところで、改めて一つ聞かなきゃいけない事が。

「それで、なんで『故意に』曲げられた情報の載ってる本を使ってご指導なさってるんですか?」

 リエラがそれを訊ねると、アスタールさんの耳が両方ともペタンと垂れ下がった。

「その話は、まだ続いていたのかね?」
「だって……作業中だったから、聞き流しちゃいそうだったんですもん」

 大事な話だと思うから、きちんと聞かないとダメだよね?
答えを待って、じっとアスタールさんを見詰めていると、彼は困ったように呟いた。

「君に使わせているのは、祖父が書いて、表に出すのを止めた魔法書モノなのだ」
「祖父……先代様、でしたっけ?」
「うむ。祖父は魔法をこの大陸に広げたくないと思っていたらしい。それでも、叔母にせがまれてあの本を書いたようなのだが……。そう言う訳で、応用がきかない様にしようと妙な書き方をしているのだろうと思う」
「そういう事……って、魔法を広めたくないって事ですか? でも、それじゃあ、グラムナードの人達は??」
「うむ……。ここでは普通の場合、各氏族内の口伝で魔法を受け継ぐのだ、だから本で学ぶ機会は基本的にははない」

 結局、アスタールさんが話してくれたのはここまで。
分かったのは、グラムナードの人達が親族から口伝えで魔法を習ってる事と、どういう訳だか、先代様が魔法をグラムナードの外に広めたくなかったらしい事だけ。
魔法書を表に出さなかった理由も、分かった様な分からないような……いや、やっぱり分かんないな……。
リエラは、なんともモヤモヤした気持ちを抱えたまま、お夕飯を食べる事になってしまったのでした。
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