リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

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二年目 不本意な継承

泣きたい

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 その週の夜の時間は、アスタールさんからの宿題をこなす為に全て使った。
昼間に関しては、スケジュール通りなので夜に動くのは問題ないのだ。

 ちなみに、ルナちゃん以外の人からもお話を聞いてみた結果、最初にルナちゃんに話を聞きに行ったのが思った以上に正解だったらしい事が分かった。
二日間かけて彼女から教えて貰った話は、思った以上に偏りがなかったんだよ。

 ちょっぴり意外だったのは、セリスさん。
知らないというよりも……なんだか、話したくない雰囲気でのらりくらりと肝心な部分について話してもらう事が出来なかった。
あと、セリスさんは、先代様には随分と手厳しい印象。
いつも通りの穏やかな物言いではあったんだけど、先代様に対してどうこう……というよりは、アスタールさんに全面的に見方するスタンスなのかな?

 レイさんやテミスちゃんは、ルナちゃん程詳しくなかったけど、セリスさんよりは多めの情報を提供してくれた。ちなみに彼等は、どっちかというと先代様に同情的みたい。
曰く、『先代様を壊したのは、奥方様達を殺した人間』だから。
壊れてたのか、先代様。
って言う、リエラの内心のツッコミは置いといて……。
自分の立場に置き換えると、なんとなく気持ちが理解できる気がするらしい。
セリスさんの、『ソレはソレ』って言うスタンスと正反対だ。
ちなみに、リエラはセリスさん派です。
だって、どんな事情があっても、やっちゃいけない事もあると思う。


 でも――いや、だからこそかな?
毎週末の蒼月の日にリエラの作った箱庭で会うのが習慣になっているから、と、最後に話を聞く事にしていた彼のこんな反応はとても意外だった。

「今更、そんな事をアスタールが?」
「――そう、ですね。リエラが今になるまで興味を持たなかったのが原因だと思いますけど」
「今までそういった事に関して、アスタールからの説明は?」
「ほぼ、なかった? ――様な気がしますね……」

 グラムナードに来たばっかりの時に、日向ぼっこをしながらサラリとさわり程度に聞いた位だったと思う。
ただ、そこに関しては町の中を案内してくれたアスラーダさんも一緒だったよね?
むしろ、ここ最近は毎週末、リエラの箱庭でまったりとお茶をしたりしながら一緒に居た彼の方が、リエラにそういった事を教える機会が沢山あった様な気が……。
なんで、アスラーダさんはこんなに怒ってる雰囲気なんだろう??

 彼が険しい表情でブツブツ呟いてるのに静かに耳を傾けた結果、分かったのは、このお話はとっくの昔にリエラに説明されてなきゃいけないモノだったらしい。
それを知った上で、リエラがグラムナードに残ったんだと思っていたのにそうじゃなかった事が分かったから怒っている……と。
アスラーダさんが怒ってる理由が、『リエラの為』らしい事が分かってくると、なんだか口元が緩んできてしまった。
うん、なんか、嬉しい??
アスラーダさんがリエラの代わりに怒ってくれてるのが、リエラは嬉しいらしい。

「なんだか、リエラの為に怒ってくださってるのは嬉しいんですけど……」

 そんな彼の怒りの呟きが途切れたタイミングで、そう口にするのはちょっぴり申し訳ない。
でも、時間は有限だ。
声を掛けられて、一瞬、怒りの表情をこちらに視線を向けたアスラーダさんだったけど、すぐにそれを向けた相手を認識すると、気まずそうな表情になって視線を逸らす。
多分、ブツブツ言ってる間にリエラの存在を忘れてたよね? 
今の反応は。
それはそれとして、バツの悪そうなその表情が、なんだかイタズラを見つかってしまった小さな子みたいで可愛いから、心の中でひっそりと『ごちそうさまです』と呟いておく。

「……悪い」

 短い謝罪に、首を振って応える。
きっと怖い顔して呟いてた事に関してだろうけど、本気で気にしてないし。
幸いな事に、今居るのはリエラの箱庭の中だから、例え大きな声を出したって、誰に聞かれるわけじゃないからね。
むしろ、珍しいアスラーダさんの姿を堪能させてもらって、ちょっぴり得した気分。

「最初にルナちゃんから教えて貰った時にはちょっと気が遠くなっちゃったりもしましたけど……。でも、中には中町をもっと歩き回っていれば気付いたんじゃないかって話もあったので、興味を持たなかった自分のせいでもあるのかなーと」

 例えば、『錬金術師見習い』に対する態度とか。
昨日の白月の日に、ルナちゃんにお願いして水の氏族の住居街に連れて行ってもらっただけでも、ルナちゃんに対する態度と自分に対する、グラムナードの民の態度が違う事に気付けたんだもの。
なにせ、中には膝をついて祈りを捧げる人もいて、それに気が付かなかった今までの自分にビックリした位。
なんの前知識もない状態で気が付いてたら、何事かと思って誰かに聞いてた……ような気がする。

 その事をアスラーダさんに話してみると、彼もなんとなく、リエラが自分の置かれている状況を疑問に思う機会がなかったらしいとい事に納得したっぽい。
ちょっと、納得してもらって良かったのか悪かったのかが微妙な気分だけど、良かったという事で……。

 納得してもらえたところで、アスラーダさんに自分が調べたアレコレを確認してもらう。
自分の認識との齟齬はないと太鼓判は押してくれたものの、彼は、そう口にした後、少し困った表情を浮かべた。

「アスタールとは、五歳までの間は一緒に育ったんだが……。俺に、錬金術師としての才がないと分かった時に叔母に王都に連れて行かれて、次にここに戻ってきたのは一八になった頃だった」

 そう言えば、そんな話を前に聞いた気がするなと思いながら、彼の言葉に耳を傾ける。

「アスタールに再会した時は――驚いたなんてもんじゃなかった。死んだって聞いた祖父が目の前に立ってたんだから」
「アスタールさんって、そんなに先代様に似てるんですか?」
「瓜二つ……と言うか、見分けられた父がおかしい位にそっくりだ」
「あ、でもお父さんは見分けられたんですね」
「……俺は見分けられなかったけどな」

 あ、分かりやすく落ち込んだ。
どうも、その後続いた話を要約すると、先代様とアスタールさんとを見分けられなかった事で、アスラーダさんはアスタールさんに滅茶苦茶冷たくされたらしい。
その後、必死で信用を取り戻そうと頑張ったそうだけど、今みたいなやりとりが出来るようになるのには三年近くかかったみたいだ。
よく、途中でめげなかったなぁ……。

 まぁ、その信用を取り戻す過程で、先代様が神格化されてる事とか、今現在はアスタールさんがその状態になってる事とかを知って、ショックを受けたみたい。
確かに、離れて暮らしてた弟が再会した時には神様扱いされてるとか、『は?!』ってなるよね。
リエラも、『スルトはこの町の神様です』なんて言われたら、言った人の正気を疑うし。
本人がそんな事言い出したら、まぁ、正気に戻るまで殴る……かな?
そんなリエラが、むしろ、スルトに殴られる立場になってるとか、笑えない状況っぽいあたり、どうなのよって感じだけど。

「泣きたい……」

 不意に、そんな言葉が口をついて出た。
自分でもビックリ。
何度も、錬金術師見習いって言うのが、この町では現人神あらびとがみの見習いみたいな扱いをされてるって事に頭が行く度に心の中で呟いてきた言葉だったけど、それが口から飛び出したのは初めてだ。

 気が付いたら、リエラはアスラーダさんの腕の中で優しく背中を撫でられてた。
自分でもビックリする位に沢山の涙が出たからか、喉がひりひりする。

「アイツも、こんな風に感じてたのかな……」

 誰が?
なんて聞くのはナンセンスだよね。
今現在、現人神あらびとがみなんて立場に置かれてる、この人の弟アスタールさんはそう扱われてるって知った時、どう思ったんだろう?
その立場よりもずっと軽い扱いに違いないリエラですら、どう反応したらいいか分からないのに。
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