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しおりを挟むプロローグ
「ごちそうさまでした~!」
いつも通りの質素なスープとパンだけの朝食を終えると、大急ぎで自分の使った食器を片付け、おなじみの面子と共に孤児院の玄関へ向かう。
「みんな、忘れ物はない?」
玄関には、リエラ達を見送るために待っているシスター・アリスの姿がある。
彼女がお決まりの質問を投げかけながら玄関の扉を開けると、はちみつみたいな金色の髪が光を反射してキラキラと輝く。
同じ丸耳族だとは思えない綺麗な色の髪の毛で、正直リエラは羨ましい。
こんなバサバサの赤毛じゃ髪形も限られちゃうし、彼女みたいなサラサラの金髪がよかったなぁ。でも、これはないものねだりだと思うからナイショなのです。
あ、丸耳族というのは読んで字のごとく、丸っこい耳をしている人族のこと。
人族というのは会話可能な二足歩行の生き物の総称で、耳の形や、目の数、獣相の加減等によって○○族っていう区分がなされる。
リエラ達はお互いに目立った忘れ物がないかどうかをザッと確認し合うと、声を揃えてシスター・アリスに応える。
「「「「「「大丈夫です~!」」」」」」
「それじゃ、基礎学校の最終日、頑張ってきてね」
シスター・アリスのいつもの言葉を聞きながら、道端の根雪を横目に学校へと駆け出した。
リエラが暮らしている国、イニティ王国の都市部には基礎学校というものがある。
七歳から十二歳になるまでの間に、基本的な文字の読み書きや簡単な計算を教えてくれる場所だ。
小さな村や町にはないけれど、人口の多い大きな町に住んでればどんな身分の子供も通うことができる教育機関。
リエラが生まれ育ったエルドランの町にもあるから、孤児院の子達も通っている。
ここで学ぶことは結構重要。だって、親のいない子でも読み書き計算ができればお仕事が見つかりやすくなるんだから。
今日は、その基礎教育課程の修了の日。
この日は、先生方が座学の成績や実技の結果から、適性に合った見習い仕事や上級教育課程への斡旋書を書いてくれる。
ある意味、子供から大人へ仲間入りができる日とも言えた。
だから、この日を待ち望んでいたのはリエラだけじゃないハズ。
――まあ、それでもまだ半人前扱いなんだけどね。
斡旋してもらえるお仕事によっては、今日のうちに孤児院を出ることができるかもしれない。
そうそう孤児院っていうのは、親のいない子供を育ててくれている施設のこと。猫神ミルル様という女神様を祀る猫神教の教会が運営している。
猫神様の伴侶である創造神様がヤキモチを焼くから、猫神教の教会は男子禁制なんだって。でも、孤児院にはちゃんと男の子も保護されている。
神様の名前を直接口にするのは不敬だからと、名を伏せて猫神様、創造神様と呼ぶのが普通。
それなのにお金の単位は『ミル』って、どう考えても語源が猫神様の名前っぽいのが不思議……
ああ、話が逸れた。
とにかくシスター達の負担を減らすためにも、リエラは早くお仕事を決めたいな。
午前中に卒業式が終わると、次は進路相談のための面談の時間。
これは適性診断を元にした面談で、それぞれの生徒に合わせた進路が紹介される。
この面談によって、更に上級の教育課程に進むか、それとも弟子入り先を探すことになるかが決まってくる、とても大事なモノ。
「リエラさんの成績で特に優れていると思われるのは、工作技能ですね」
リエラの担当をしてくれるネリー先生は、はちみつ色の髪に紺色の瞳をしている。ザ・できる女って感じの素敵な猫耳族のお姉様だ。
冷静そうなイメージを強調するかのようなメガネ姿もまた素敵すぎ。
年齢を考えると一般的にはお姉様じゃないかもしれないけど、リエラ的にはまだまだイケテル。
え? いくつなのかって? ……女性の年齢は聞いちゃいけないものだから内緒です。
まあ、リエラより大きな子供がいてもおかしくない年齢だったはず……?
「魔力総量も多いので選択肢としては、魔術学院に進むか職人の見習いになるか、といったところでしょうか」
魔術学院! それに職人かぁ……
どっちも面白そうだけど、金銭的に魔術学院は無理だね。
魔術学院は王都近くのスフィーダという遠い町にある上に、学費が必要だ。すぐに稼ぎ手になる必要がない程度には裕福な家の子が行く場所だと思う。
旅費の工面すら難しい、リエラみたいな孤児が通うのは無理だよね。
そうなると、職人を目指すというのが現実的な進路。
職人なら住み込みが基本だから、孤児の仕事先としては悪くない。
それに、頑張りが認められれば独立してお店を持つことも夢じゃないよね?
「見習いで入れそうなのは、どんな職人さんのところになりますか?」
「リエラさんの得意分野ですと、この辺りになりますね」
できることなら孤児院に仕送りしたいし、どうせなら稼げそうな職人のところに弟子入りしたい。そう思いながら訊ねると、先生はあらかじめ用意していた職人のリストを机に置いてくれた。
細工職人さん。
縫製職人さん。
革細工職人さん。
リストに目を通していくと、なんだか手先を使いそうなお仕事が多い。
その中に、ちょっと意外な職業があって、思わず二度見してしまう。
「――錬金術師って、職人さんなんですか?」
職人さんのうちに入っているとは思ってもみなかった、お金が稼げそうなお仕事。
だから、思わず訊ねる声も上擦っちゃう。
「錬金術師も職人の一種になりますね。ある程度の魔力を保有している必要があるそうですが、リエラさんなら問題ないでしょう」
ということは、魔術学院に入れるくらいなら問題ないのか。
「ちなみに、簡単な魔法なら身につくという噂もあります。悪くない弟子入り先だと思いますよ」
お仕事を覚えながら、魔法の勉強もできるかもしれないなんて、とってもお得!
リエラ的には、素敵すぎると思います。
「勘違いしがちですが、錬金術はおとぎ話のように大きな窯でぐーるぐる……でポンっと何かが生み出されるわけではなく、地味な下準備が必要とされます。仕事内容も薬品作りのみではありません。工房によっても仕事の内容が変わってくるので、職場の事前リサーチは必須ですよ」
「錬金術師って、魔法の窯でお薬を作るお仕事なんだとばっかり思ってました……」
そっか、錬金窯はないのか……
ちょっとイメージが崩れてしょんぼりしながら口にしたリエラに、ネリー先生はメガネの位置をクイッと直して補足説明してくれる。
「確かに、錬金術師の製作物で特に有名なのは魔法薬ですね。魔力を帯びた薬は、通常の薬と比べて著しく効果が高いという評判です。ただ……本来ならば錬金術師を名乗るには、魔法薬だけでなく魔法具等も作れるようにならなくてはいけないらしいです」
「魔法具もですか!?」
「魔法具も、です」
それは……いずれ独り立ちできれば、随分な高収入を狙えるお仕事ってことだよね。
どこの家庭にもある調理用の魔法具だって、結構なお値段がするんだもの。
具体的には、一つで百万ミルとか……四人家族が三~四ヶ月は普通に暮らせる金額だ。
魔法具を作れるようになったら、仕送りも夢じゃない。
「実際には、どちらかを専門にする人が多いですけどね。お薬専門の錬金術師は調薬師、魔法具専門の錬金術師は魔法具師と呼ばれています。リエラさんならどちらもこなせそうですし、錬金術師はおすすめですよ」
「お薬も魔法具も作れるなんて、錬金術師ってすごいんですね~!」
「お薬ではなく『魔法薬』ですよ。効果も値段も段違いな代物ですから間違えないように。それでは、錬金術師への推薦状を用意しますか?」
「はい、お願いします」
色々な意味でわくわくしながらネリー先生を見上げると、彼女はにっこり笑って書類にペンを走らせる。書き上がった推薦状を封筒に入れ、丁寧に封をしてから学校印を押す。
「この封筒を斡旋所の窓口で見せれば、その後のことは教えてもらえます」
「ありがとうございます」
「それから、こちらが卒業証書です。リエラさん、あなたのこれからの活躍を楽しみにしていますよ。卒業、おめでとう」
推薦状を手渡した後、卒業証書を差し出しながらネリー先生がにっこりと微笑む。
「ネリー先生、今までありがとうございました」
リエラは、二つの書類を胸にぎゅっと抱きしめながら頭を下げると、進路相談室を後にした。
これで明日から、斡旋所でのお仕事探しが始められる。
一日でも早くお仕事を決めるぞと、帰り道で気合を入れ直した。
さよなら エルドラン
リエラは翌日の朝一番に、斡旋所へとやってきた。
斡旋所は三階建ての大きな建物で、クリーム色のレンガ造りで小綺麗な感じ。昨日まで通っていた学校よりは小さいけれど、初めて来る場所だからなんだかドキドキする。
とはいえ、いつまでも斡旋所の前に突っ立っているわけにはいかない。
思い切って、大きな木の扉についた取っ手を引っ張る。
……でっかいだけあって、すんごく重い。
カランコロン。
重い扉を開くと柔らかい鈴の音が鳴った。思わず音の源を探したら、扉の上に大ぶりな鈴が取り付けられている。
アレが音源か、と納得してから改めて中を見回す。
入り口は吹き抜けのホールになっていて、夏は涼しそう。まだ春になったばっかりだから、感じるのは肌寒さの方だけど。
遠目に受付と書いてあるカウンターがいくつもあるのが見える。
あそこに、もらった推薦状を持っていけばいいのかな?
入り口の左手に階段があるから上の階にも行けるみたいだけど、今は用事がないし無視だ。
斡旋所の中には、リエラと同じ目的で来ているらしい人達が思ったよりも大勢いた。同い年の子ばかりかと思いきや、意外と大人の姿が多い。
最初は、どの窓口に行けばいいのか分からずに戸惑ってしまう。
でも、何やら上の方に視線を向けている人がいたおかげで、カウンターの上に業務内容が書かれた木の札が吊るされていることに気づいた。
全部で六つある窓口のうちの三つは、職業斡旋受付。そこには若者と言うより、おじさんと言った方がいいような年齢の人達が大勢並んでいる。
その一方で並んでいるのが一人しかいない窓口は、求人受付。窓口の数も一つだ。仕事を斡旋してほしい人よりも、求人の方が少ないってことなのかな?
最後に、新卒受付窓口が二つあるけど、きっとこの時期以外は職業斡旋受付なんだろう。
そこまで行ってやっと同級生の姿を見つけて、なんだかほっとした。大人の姿ばっかりだから、場違いな気がして居心地が悪かったんだよ。
リエラも列に並ぶために足を向けると、一番後ろの子が手を振っている。
アレは、学校で隣の席だったアンナちゃん!
彼女は茶髪で愛嬌のある顔立ちをした、丸耳族の女の子だ。
「リエラ、リエラ! ネリー先生に言われた適職、なんだった?」
リエラが後ろに並ぶと、彼女は目をキラキラさせながら小声で訊ねてくる。
「んとね、錬金術師。アンナちゃんは?」
リエラも小声で囁き返したら、彼女は「おおー!」と大きな声を上げかけてから口元を慌てて押さえ、人の注目を集めていないかと辺りをキョロキョロ見回した。
特に誰も注目していないのを確認すると、興奮した様子でリエラの手を取って上下に振り回す。
「リエラすごいね!! 錬金術師って魔法の才能がないとなれないんじゃなかった? わたしはねー、販売員。お店でお客さんに『いらっしゃいませ』ってやるんだー♪」
「おおお~♪ アンナちゃんなら、すごく似合いそう! どんなお店を探すの?」
「う~ん? お洋服のお店もいいけど飲食店もいいし……。お店の種類はたくさんあるから悩んじゃう」
「よし、アンナちゃんが腕っこきの販売員になって、リエラが凄腕の錬金術師になったら、一緒にお店を開こう!!」
「わわわ! いいねいいね! リエラとお店ができるように、頑張る!」
そんな話をしていると、いつの間にやらリエラ達の順番が来た。
今の話が実現するかは怪しいものだけど、まずは弟子入り先を探さないとね。
受付のお姉さんにネリー先生からもらった推薦状を渡すと、求人情報の見方を教えてくれる。と言っても、壁際に並んだ棚の一角にある紫色の求人ファイルの中から、気に入ったものを受付に提出するっていうだけ。
お姉さんにお礼を言ってから探してみたんだけど、該当のファイルはたったの一冊……!
選択肢が少ないとがっかりしながらファイルを開くと、中身もスカスカで五枚しか入ってない。
一瞬、目の前が真っ暗になったよ!?
こんなに求人が少ないんじゃ、錬金術師になるなんて夢のまた夢なんじゃ……?
ちょっぴり途方に暮れたものの、気を取り直して内容にきちんと目を通してみる。だってね、モノは考えようなのだ。量より質の方が大事なんだから!
一件目。
・実務経験五年以上の経験者のみ。
この求人は、新卒者向けじゃないらしい。残念、あうとー!
二件目。
・未経験可。
・地属性魔法が使用できる人のみ。(未習得不可)
・面接は現地にて。(交通費支給なし)
リエラは魔法の勉強はしたことがないし、この工房はエルドランの町からはちょっと遠い。交通費も持ってないし、あうとー。
なんか、敷居が高い……
三件目。
・未経験可。
・男性のみ。
リエラは女だから、あうとー。
四件目。
・未経験可。
・若い女性のみ。
……若い女性限定なのが気になるけど、他になかったらここしかないかな? 一応、若い女性……ではあるし?
五件目。
・実務経験一年以上の経験者、男性のみ。
未経験で女なので、あうとー。
なんということか、四件目以外にはリエラが応募できそうなものがないんだけど……。頭を抱えつつ、四件目の応募条件を改めて見直す。
・未経験可。
・若い女性のみ。
・工房主 男性。
・募集人数 一名。
・募集年齢 十五~二十までを希望。
リエラが穿った見方をしすぎなのか、最後の条件がいわゆる結婚適齢期だから、恋人募集とか嫁募集とかそういう方向に見えて仕方がない……
リエラは十二歳だから先方が希望している条件とは違うけど、他に応募できそうなのがないし、ここに応募してみるしかないかな……
ちょっぴり泣きたい気分だ。
やるせない気持ちになりながら応募条件を睨みつけていると、不意に後ろから声をかけられた。
「失礼。新規の求人票をそのファイルに入れさせてもらえるかね?」
慌てて振り向くと、背の高い男の人がリエラの手にした紫のファイルを指している。
やたらと綺麗な顔立ちをした長耳族の男の人だ。
真っ白な肌に、切れ長で少し吊り上がった目。琥珀色の瞳が、肩の辺りで切り揃えた癖のない真っ直ぐな黒髪によく映えて、とっても綺麗だ。
年齢は二十代半ばくらいで、ちょっとキツそうにも見える容姿だけど、なんだか雰囲気が柔らかいから近寄りがたい感じはしない。
ただあんまりにも美人さんなので、しばらくの間ぽかんと口を開けたまま見惚れてしまった。
目の保養ありがとうございます。
「……入れさせてもらってもいいかね……?」
表情は変わらないものの、なんとなく途方に暮れた雰囲気で再び訊ねられて、やっと我に返る。
「あ! はい!」
手にしたファイルを慌てて差し出すと、彼はほっとした様子で一番後ろのページに求人票を挟み込む。中身を軽く確認してからファイルをリエラに返すと、少しためらった後に質問を投げかけてきた。
「錬金術師になりたいのかね?」
「はい! できるなら、ですけど」
「なるほど。では、もし条件が合うようなら、是非私の工房に応募してくれたまえ」
彼は小さく頷くと、少し目を細めてから軽く頭を下げて、斡旋所を出ていった。
多分、今のは睨んだんじゃなくて微笑んだんじゃないかな? なんとなく、そんな感じがしただけだけど、ドキドキしちゃったよ!
「リエラ、リエラ! 今のお兄さん、すごい美形だったね~! 何話してたの?」
彼がいなくなると、アンナちゃんが興奮に鼻の穴を膨らませながらやってきた。きっと、目の保養をさせてもらいながらも、話しかける勇気が出なかったんだろう。
気持ちは分かる、分かるよ! あっちから話しかけてもらえなかったら、リエラも目の保養だけで終わらせていたからね。
「美人さんだったね~! なんかね、条件が合ったら応募してって言われたよ」
「リエラのファイルに入れてったってことは、錬金術師さん?」
「多分、そうじゃないかな?」
リエラはそう答えながら、追加された求人票に目を通す。
・新卒の未経験者のみ。
・性別不問。
・賃金は習熟度により変動。
・十年以上働けること。
・魔法の素質が認められている、住み込み可能な者のみ募集。
んんんんんんんんん! いいかもしれない!
初めて、まともに応募できそうな求人に出会えた。
最後の魔法の素質っていう部分が普通ならネックになりそうなところだ。でも、リエラの場合は学校からの推薦状もあるし、条件は全部クリアしているはず。
「アンナちゃん、リエラ、あのお兄さんのとこに応募してみる!」
求人票を見せると、彼女はキラキラした目でコクコクと頷く。
「いいんんん! 採用されたら、絶対リエラのとこ遊びに行くね!」
リエラとアンナちゃんはガシっと手を握り合って、決意を込めた視線を交わす。
アンナちゃんはリエラをダシに、美形さんとお近づきになる気満々だ。彼女のそういう、行動的なところは割と好き。
それはともかくとして、なんとか美形のお兄さんの工房に弟子入りできますように……!
あんまり贅沢を言える立場じゃないけど、お年頃の女性のみという偏った募集をかけているところには、できれば面接にも行きたくない。
合格不合格は別として、そこに行くとなんか精神的ダメージを負いそうな予感が……
早速、斡旋所のお姉さんに求人票を渡したら、受け取ったお姉さんは大慌てであのお兄さんを探しに行ってしまった。
どうやら彼は遠方にある工房の主で、この町に滞在している間しか面接できないらしい。
そんなわけでリエラは、お兄さんが捕まり次第、早速面接してもらうことになったみたいだ。
「リエラさん、面接は専用の部屋で行いますのでこちらへどうぞ」
お兄さんを探しに行ったお姉さんとは別の人が、遠方から来た人が面接をするために用意されている小部屋へ案内してくれた。
そういった部屋を必要とする程度には遠方からの求人もあるってことなのかな?
ちょっとビックリだよね。
「では、おかけになってお待ちください」
ぺこりと軽くお辞儀をして、お姉さんBが部屋を出ていく。
「ありがとうございます」
リエラのお礼、聞こえたかな?
彼女が出ていった扉を眺めていても仕方ないので、部屋の中を見回してみる。
窓には飾り気のないベージュのカーテンがかかっているけど、明かり取りのためなのか、窓にはめ込まれた木戸は開け放たれていて、少し肌寒い。
閉めると真っ暗になりそうだし、春の日差しの暖かさに期待することにして窓際に移動した。
……ちょっぴり、ぬっくいかな?
部屋の中央には飾り気のかけらもない四角いテーブルと、作り付けの椅子が四脚。
普段は使われていないらしいことが分かるくらいに殺風景な部屋だから、暇潰しに見るものも特にない。
「うーん……座っていてもいいのかな……?」
少しの間悩んだものの、椅子に座るのはとりあえずやめておく。
扉を気にしつつ、窓から外を眺めて時間を潰すことにしよう。
ここは三階だけど、周囲にある建物も同じ高さのものが多い。見えるものはといえば、建物の壁に、窓に、路上を歩いていく人達だけ……
正直、見て時間を潰せるほどのものはないけど、部屋の中で宙を眺めるよりはマシか。
仕方がないので、窓から顔を出してぼんやりと空を見上げた。
「いい天気だなあ。こういう日は、洗濯物がよく乾くんだよね」
まだ始まってすらもいないけど、早く面接終わらないかなぁ……
雲ひとつない青空を見上げてぼんやりしながら、脳内で面接が終わった後の予定を立てる。
妥当なのは、大急ぎで帰ってシスター達のお手伝い、かな?
孤児院っていうやつは、遠慮なく汚す子供がたくさんいるから、晴れの日には干しているシーツや服で庭が埋まっちゃうくらいに、洗い物がたくさんあるんだよ。
あ、いざとなったら洗濯屋さんを開業するのもいいかもしれない。
まぁ、お客さんなんてそんなに来ないだろうけど。
適当な椅子を移動させて窓の外を眺めながら時間を潰すうちに、対面にある建物の開けっ放しになった窓際に、時計草の鉢があるのを発見!
これで、どれだけ時間が経ったかが分かるね。
ちなみに時計草っていうのは、時間の経過を教えてくれる多年草。生命力が強くて、荒れ地でも割と平気で増えていっちゃう雑草の一種だから、町中では鉢植えにしておくのが普通だ。
部屋の印象って、植物があるだけで随分違うよね。色や形が様々で、観葉植物の代わりにもなる時計草の鉢植えは、とっても便利なんだよ。
千切っても一日くらいなら平気で時を刻んでくれるから、手首に巻きつけて歩く人もいる。便利な草だけど、実が美味しくないのが玉に瑕だ。
チラチラと時計草を見て、時の経過を確認しつつ待つこと、三十分。
やっと、この部屋に案内してくれた人と一緒に、さっきの美人なお兄さんが入ってきた。
「リエラさん、お待たせしました。後はこちらの工房主さんとの面談になります」
慌てて椅子から立ったリエラにそう言い残すと、お姉さんBはさっさと部屋を後にする。
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