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二年目 アッシェの願い
前提
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しばらくして、アッシェがリエラちゃんを連れて戻ってきた。
やっと、これで話が進むみたい。
お師匠様の隣に座らされたリエラちゃんは、不思議そうな顔でこの場にいる人の顔を見回す。
「……アスタールさんに呼ばれているって聞いてきたんだけど、一体、何の話ですか?」
「うむ。今から、私が話すことを前提に、アッシェの話を聞いてほしい」
その言葉を聞いた彼女は、苦い薬を飲まされたような表情になる。
分かりやすい、嫌な顔。
「まさか、あの話のお仲間ですか?」
「……そのような予感がしている」
二人の間だけで通じているらしい会話に、アッシェと顔を見合わせる。
アッシェ、こういう時に、いつもの読心術的な何かを使って、説明して?
私の心の内を読んで、アッシェは苦笑を浮かべて首を振る。
どうやら、理由は分からないけど駄目みたい。
リエラちゃんが、大きなため息を吐いて目を閉じる。
その様子に親近感を覚えてしまったのは、きっと、私がアッシェから夢の話を聞かされる前にするのと同じ覚悟を彼女がしているように見えたから。
しばらくのあいだうつむいていた彼女が、顔を上げてから頷くと、お師匠様は口を開く。
まず、お師匠様が話し始めたのは、アッシェの種族について。
お師匠様曰く、アッシェは多眼族ではなくて『先見族』というらしい。
「多眼族じゃないなら、三つ目族とかかとおもってたです」
って言うのが本人の言い分。
私だけでなく、リエラちゃんも頷いていたからアッシェだけじゃないか。
「先見族の特徴は、一瞬先の未来を見ることができるというものだ」
「一瞬先、ですか?」
「分かりやすいもので言うなら、投げたコインの表と裏が分かる」
……どおりで孤児院にいた頃、『~~争奪戦』に参加した時のアッシェは負け知らずだったわけだよね。
何をどうすれば勝てるってわかっていたんだもの。
ジトッとした目で彼女を見ると、気まずそうに視線を逸らす。
ズルをしていた自覚はあるみたい。
まあ、もう時効か。
「それから――」
お師匠様は何かを言いかけて、一度、口を閉じる。
「先見族の中でもごく一部の者は『夢』を媒介にして未来を見ることがあるらしい」
改めて話し始めたのは、多分、さっき言いかけたのとは別のこと。
「さっきのと何か違うんですか?」
「見る『夢』は、数日先であることもあれば、数十年後だという場合もある」
「自分で、その範囲を決めることは?」
「本人にもその制御は出来ないようだ」
アッシェに視線を向けると、小さく頷く。
リエラちゃんの質問に対する答えは、アッシェにも当てはまるらしい。
ちなみに、『先見族』が見る夢は、決まった未来ではない。
やりようによっては、夢で見た事態を回避することもできるんだって。
「『先見族』に関しては、ここまでだ」
お師匠様がそう言って、口を閉じたことに私は戸惑う。
アッシェって、人の考えてることが分かるんだと思ってたんだけど……
それは、『先見族』の能力とは別なのかな?
それとも、どっちも正解とか。
アッシェが視界の端で頷く。
うわぁ……
人の考えてることが分かる上に、ちょっと先の未来も見えるの?
随分と性質が悪いんじゃない?
「……なるほど。前提条件としてそんな話をするってことは、アスタールさんにとって不本意な未来をアッシェちゃんが見たってことですか」
「うむ……」
憮然とした表情でそう呟くリエラちゃんに、なんとなく縮こまってお師匠様は同意する。
「私がどの程度力になれるのかは分かりませんけど……」
彼女はそう言って、覚悟を決めた表情になると両手を握りしめた。
「詳しいお話に入ってください」
うん、リエラちゃん。
大丈夫だよ。
そんな風に一人で抱え込む覚悟を決めなくって。
今回の件は、アッシェ絡みだからね。
私も、精いっぱい頑張るよ。
やっと、これで話が進むみたい。
お師匠様の隣に座らされたリエラちゃんは、不思議そうな顔でこの場にいる人の顔を見回す。
「……アスタールさんに呼ばれているって聞いてきたんだけど、一体、何の話ですか?」
「うむ。今から、私が話すことを前提に、アッシェの話を聞いてほしい」
その言葉を聞いた彼女は、苦い薬を飲まされたような表情になる。
分かりやすい、嫌な顔。
「まさか、あの話のお仲間ですか?」
「……そのような予感がしている」
二人の間だけで通じているらしい会話に、アッシェと顔を見合わせる。
アッシェ、こういう時に、いつもの読心術的な何かを使って、説明して?
私の心の内を読んで、アッシェは苦笑を浮かべて首を振る。
どうやら、理由は分からないけど駄目みたい。
リエラちゃんが、大きなため息を吐いて目を閉じる。
その様子に親近感を覚えてしまったのは、きっと、私がアッシェから夢の話を聞かされる前にするのと同じ覚悟を彼女がしているように見えたから。
しばらくのあいだうつむいていた彼女が、顔を上げてから頷くと、お師匠様は口を開く。
まず、お師匠様が話し始めたのは、アッシェの種族について。
お師匠様曰く、アッシェは多眼族ではなくて『先見族』というらしい。
「多眼族じゃないなら、三つ目族とかかとおもってたです」
って言うのが本人の言い分。
私だけでなく、リエラちゃんも頷いていたからアッシェだけじゃないか。
「先見族の特徴は、一瞬先の未来を見ることができるというものだ」
「一瞬先、ですか?」
「分かりやすいもので言うなら、投げたコインの表と裏が分かる」
……どおりで孤児院にいた頃、『~~争奪戦』に参加した時のアッシェは負け知らずだったわけだよね。
何をどうすれば勝てるってわかっていたんだもの。
ジトッとした目で彼女を見ると、気まずそうに視線を逸らす。
ズルをしていた自覚はあるみたい。
まあ、もう時効か。
「それから――」
お師匠様は何かを言いかけて、一度、口を閉じる。
「先見族の中でもごく一部の者は『夢』を媒介にして未来を見ることがあるらしい」
改めて話し始めたのは、多分、さっき言いかけたのとは別のこと。
「さっきのと何か違うんですか?」
「見る『夢』は、数日先であることもあれば、数十年後だという場合もある」
「自分で、その範囲を決めることは?」
「本人にもその制御は出来ないようだ」
アッシェに視線を向けると、小さく頷く。
リエラちゃんの質問に対する答えは、アッシェにも当てはまるらしい。
ちなみに、『先見族』が見る夢は、決まった未来ではない。
やりようによっては、夢で見た事態を回避することもできるんだって。
「『先見族』に関しては、ここまでだ」
お師匠様がそう言って、口を閉じたことに私は戸惑う。
アッシェって、人の考えてることが分かるんだと思ってたんだけど……
それは、『先見族』の能力とは別なのかな?
それとも、どっちも正解とか。
アッシェが視界の端で頷く。
うわぁ……
人の考えてることが分かる上に、ちょっと先の未来も見えるの?
随分と性質が悪いんじゃない?
「……なるほど。前提条件としてそんな話をするってことは、アスタールさんにとって不本意な未来をアッシェちゃんが見たってことですか」
「うむ……」
憮然とした表情でそう呟くリエラちゃんに、なんとなく縮こまってお師匠様は同意する。
「私がどの程度力になれるのかは分かりませんけど……」
彼女はそう言って、覚悟を決めた表情になると両手を握りしめた。
「詳しいお話に入ってください」
うん、リエラちゃん。
大丈夫だよ。
そんな風に一人で抱え込む覚悟を決めなくって。
今回の件は、アッシェ絡みだからね。
私も、精いっぱい頑張るよ。
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