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二年目 疑惑の種
そして、光猫族の少年は
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暗闇に包まれ、世界が喧騒に包まれた。
明かりをつけようと宙に手をかざし、何度も何かを叫ぶ人もいれば、料理中に暗闇に包まれたことに動揺して家事を起こしている人もいる。
まさか、火の放つ光すらも認識できなくなるだなんて、誰も思わないよ。
燃え広がる炎の姿を視認することもできずに、火に巻かれていく。
熱さは感じるみたいで、それからうまく遠ざかることによって逃げることに成功した人もいたけれど、それは幸運なごく少数のみ。
火事の出た場所では、ほとんどの人が火に巻かれたみたいだ。
まだ、世界が暗闇に包まれてからさほど時間が経っていないっていうのに、そんな事件があちこちで起きている。
世界から光が失われたのは、昼下がり。
だからいろんな人が様々な活動をしていたというのも、悲劇がが多くなる理由だろう。
じゃあさっき、リエラの言葉によってアスタールさんが過剰反応してしまったのは……?
時間は日が沈んだ後だけれども、裕福な家ならまだ普通に活動している時間帯だったよね?
少なくとも、中町なら起きている人も多かったはずだ。
まだ、眼下の世界と同じように闇に閉ざされてしまっているんだろうか?
それとも、もうアスタールさんは気を取り直してくれている?
凄惨な事件が起こる姿ばかりが目に入るせいもあって、どうしても思考が怖い方に向かってしまう。
今もまた、狩りに出ていた男性が一人、追い詰めていた獲物を前に視覚を奪われたせいで命を落とした。
そんな中、一人だけ他の人と違う行動をとっている人がいても、意外と目立たないものらしい。
リエラがあちこちに気を散らせていたのも、気付かなかった原因なのかもしれないけれど――その人物は彼女の保護者さん。
彼はまるで平時と変わらない様子で、初代様(仮)から子供達を隔離して何かを説得しているみたいだ。
最終的に全員が頷くと、彼は急いで初代様(仮)の元へと向かう。
その足取りはしっかりとしたものだから、やっぱり彼にはこの暗闇の中でもきちんと周囲を把握できているらしい。
彼女の亡骸に取りすがって泣き続ける初代様(仮)の元につくと、彼は背中をさすってやりながら何かを話しかける。
自分の声が届くまで、根気よくいつまでも。
ようやく初代様(仮)に、彼の言葉が届いたのは随分と時間が経ってからのこと。
うつろな表情で、コテンと首を傾げながら彼の言葉に耳を傾けていた初代様(仮)は、フワリと嬉しそうにほほ笑みを浮かべると小さく頷く。
彼はその返答を望んでいなかったらしく、肩を落とす。
大事なものに触れるように彼が頭をそっと撫でると、初代様(仮)の体は静かに彼女の亡骸の隣へと倒れ込んだ。
ひとつ、ため息を吐いた彼の様子が、ひどく悲し気で胸がざわつく。
その手の中にはいつのまにか赤黒い肉塊があって、彼は大きく口をあけると一息に呑み込んでしまう。
初代様(仮)が倒れ込むのと同時に光の戻ってきた世界では、彼が不意にこちらを見上げていた。
口元を乱暴に拭ったその瞳の色が、ゆっくりと淡い紫から金色に変わっていく。
初めてまともに見た、彼は――
アスタールさんと同じ顔をしていた。
そのことをリエラが認識するのと同時に世界から色が消え、周りに浮き上がる他の風景の間をせわしなく視線が彷徨いだす。
まるで、何かを探しているみたいに。
自分の意志とは関係なく動き回る視界に気分が悪くなってきたところで、誰かがリエラを必死に呼ぶ声が聞こえてきて――
リエラは次の瞬間には、いつものアスタールさんの執務室の中に戻っていた。
明かりをつけようと宙に手をかざし、何度も何かを叫ぶ人もいれば、料理中に暗闇に包まれたことに動揺して家事を起こしている人もいる。
まさか、火の放つ光すらも認識できなくなるだなんて、誰も思わないよ。
燃え広がる炎の姿を視認することもできずに、火に巻かれていく。
熱さは感じるみたいで、それからうまく遠ざかることによって逃げることに成功した人もいたけれど、それは幸運なごく少数のみ。
火事の出た場所では、ほとんどの人が火に巻かれたみたいだ。
まだ、世界が暗闇に包まれてからさほど時間が経っていないっていうのに、そんな事件があちこちで起きている。
世界から光が失われたのは、昼下がり。
だからいろんな人が様々な活動をしていたというのも、悲劇がが多くなる理由だろう。
じゃあさっき、リエラの言葉によってアスタールさんが過剰反応してしまったのは……?
時間は日が沈んだ後だけれども、裕福な家ならまだ普通に活動している時間帯だったよね?
少なくとも、中町なら起きている人も多かったはずだ。
まだ、眼下の世界と同じように闇に閉ざされてしまっているんだろうか?
それとも、もうアスタールさんは気を取り直してくれている?
凄惨な事件が起こる姿ばかりが目に入るせいもあって、どうしても思考が怖い方に向かってしまう。
今もまた、狩りに出ていた男性が一人、追い詰めていた獲物を前に視覚を奪われたせいで命を落とした。
そんな中、一人だけ他の人と違う行動をとっている人がいても、意外と目立たないものらしい。
リエラがあちこちに気を散らせていたのも、気付かなかった原因なのかもしれないけれど――その人物は彼女の保護者さん。
彼はまるで平時と変わらない様子で、初代様(仮)から子供達を隔離して何かを説得しているみたいだ。
最終的に全員が頷くと、彼は急いで初代様(仮)の元へと向かう。
その足取りはしっかりとしたものだから、やっぱり彼にはこの暗闇の中でもきちんと周囲を把握できているらしい。
彼女の亡骸に取りすがって泣き続ける初代様(仮)の元につくと、彼は背中をさすってやりながら何かを話しかける。
自分の声が届くまで、根気よくいつまでも。
ようやく初代様(仮)に、彼の言葉が届いたのは随分と時間が経ってからのこと。
うつろな表情で、コテンと首を傾げながら彼の言葉に耳を傾けていた初代様(仮)は、フワリと嬉しそうにほほ笑みを浮かべると小さく頷く。
彼はその返答を望んでいなかったらしく、肩を落とす。
大事なものに触れるように彼が頭をそっと撫でると、初代様(仮)の体は静かに彼女の亡骸の隣へと倒れ込んだ。
ひとつ、ため息を吐いた彼の様子が、ひどく悲し気で胸がざわつく。
その手の中にはいつのまにか赤黒い肉塊があって、彼は大きく口をあけると一息に呑み込んでしまう。
初代様(仮)が倒れ込むのと同時に光の戻ってきた世界では、彼が不意にこちらを見上げていた。
口元を乱暴に拭ったその瞳の色が、ゆっくりと淡い紫から金色に変わっていく。
初めてまともに見た、彼は――
アスタールさんと同じ顔をしていた。
そのことをリエラが認識するのと同時に世界から色が消え、周りに浮き上がる他の風景の間をせわしなく視線が彷徨いだす。
まるで、何かを探しているみたいに。
自分の意志とは関係なく動き回る視界に気分が悪くなってきたところで、誰かがリエラを必死に呼ぶ声が聞こえてきて――
リエラは次の瞬間には、いつものアスタールさんの執務室の中に戻っていた。
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