リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

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二年目 疑惑の種

時間稼ぎ

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 声をかけてみると、思いのほかあっさりとアスタールさんからの反応が返ってきて驚いた。
周りの人たちの反応からすると、それまでは何の反応もなかったっぽいのに。

「今、どんな状況か、分かりますか?」

 訊ねた言葉に返ってきたのが小さくても肯定の仕草だったことに、リエラはホッとする。
覚悟したよりも、アスタールさんの精神状態はマシな状態かな?

「兄上」

 やっと口を開いたアスタールさんをよく見てみると、やっぱり顔色が悪い。
声も、少しかすれて震えているみたいだ。

「なんだ?」
「もうしばらくしたら、あちこちからここにグラムナードの民が押しかけてくる」

 アスタールさんの言葉を聞いてセリスさんが口元に手をあてて息を呑むのと同時に、他の面々の表情にも緊張の色が浮かぶ。
リエラの背中も、自然とピンと伸びる。
ここで対応を間違えたら、さっきの誰かさんが見たのと同じようにきっと『暴動』が起きかねない。
みんなの頭に浮かんだのも、そのことだろう。

「――大変!」

 セリスさんが口元を押さえて、小さく呟く。
でも、どうすればいい?
必死で考えているうちに、アスラーダさんが口を開いた。

「なら、時間稼ぎが必要だな」
「時間稼ぎ、かね?」

 不思議そうに問い返すアスタールさんに頷きを返すと、彼はため息交じりに理由を説明しはじめる。

「幸いと言っていいかは別として、今は夜だ。異常事態に人が押しかけてくるにしても、グラムナードの民が全員来るわけじゃないだろう」
「あ、確かに……」
「来るにしても、居住区の代表格がほどんどかもね」

 アスラーダさんの言葉に、ハッとした顔で表情を明るくするルナちゃんの言葉の後を引き取ったのはレイさんだ。
言われてみればその通りで、時間的には夜の早い人は寝ていてもおかしくない。

「それに、居住区の距離もまちまちだからな。各氏族の代表者が来るにしても、時間もバラバラだろう。それを一々相手になどしていられない」

 そこでアスラーダさんは言葉を切って、鼻を鳴らす。

「来た連中には、改めて事態の説明をすると話して帰ってもらう」
「だが――」
「『だが』じゃない。アスタール、そんな真っ青な顔で来た連中に何を話す気だ? 今のお前が矢面に立つ方が騒ぎが大きくなる」

 アスラーダさんは、この場にいるみんなが心の中で思っていることだった。
全員がその言葉に頷くのを見て、アスタールさんは黙りこむ。

「――では、明日の昼に輝影神殿で説明すると伝えてくれたまえ」

 視線を逸らして少しの間考え込んだ後、アスタールさんはため息交じりにそう口にすると、俯いて両手で顔を覆ってしまった。
やっぱり、大分精神的に参っているみたいだ。

「分かった。昼に輝影神殿だな」

 アスラーダさんはアスタールさんの指示を繰り返して確認すると、押しかけてくるはずの人々にどう話をするかを打ち合わせるために部屋を出るように促す。
先に立って部屋を出ようとした彼が、立ち止まってリエラを見た。
視線が合うとすぐに、アスタールさんに視線を向けてからもう一度目を合わせると、小さく口が動く。
声はなかったけれど「たのむ」といったように見えたから頷き返すと、少し肩の力が抜けたみたい。
――うん。
元はと言えば、リエラが迂闊なことを口走ってしまったのが、真っ暗闇こんなことになった原因だ。
きちんと、アスタールさんの精神状態のケアをしなくちゃいけない。

 レイさんが、ルナちゃんとテミスちゃんを連れてアスラーダさんの後を追うと、部屋の中に残ったのはアスタールさんとセリスさんとリエラの三人だけだ。

「アスタール様……」

 ソファから動こうとしないアスタールさんに、セリスさんは気づかわし気に声をかける。

「少し、こうしていれば平気だ」
「……では、お飲み物をご用意します」

 両手で目を覆い俯くアスタールさんの姿に後ろ髪を引かれる様子で、セリスさんは部屋を出て行く。
最後に不安そうにリエラのことを見たから、頷きを返す。
多分、大丈夫。
もし大丈夫じゃなくても、なんとかしなくちゃ。
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