リエラの素材回収所

回り道

アスタールの求人旅行 １０

　求人手続きをしてから、昼食の後に面接を行うことを繰り返す。
面接に来るのは、給料さえ貰えればどんな職でも構わないと思っているのが透けて見えるものも多い。

「今からすぐに工房に向かうからさ。ほら、分かるだろ？　先立つものがないと……な？」

　私が工房主としては若いせいか、とうとう採用が決まりもしないうちに路銀をよこせと言い出す者まで現れる。
ぶっちゃけた話、ありえない。
本気で言っているのだろうか？
それ以外にも『未経験者のみ』を募集しているのにも関わらず、経験があることを声高に主張する者まで出てくる始末。

「私はスフィーダ魔術学園で錬金術を志し――」

　スフィーダ魔術学園というのは、私の兄が十二歳から十八歳までの間に通っていた場所だ。
グラムナードの中町から出ると魔法に関する情報の認識が歪む中、一体何を学ぶのかは知らないが、結構な有名校であるらしい。
兄が言うには、通っているうちに魔法が使えるようになるものも一定数いるようだが……
おそらく、学園での教育の賜物というよりは、個人の資質が花開いたと言った方が正しいのではないかと思う。
その学園内であっても成績優秀であったという話が本当なら、自分で工房を運営すればいいだけだ。
初対面の人間の、訳が分からない自慢話に興味はない。
さっさと帰ってもらえないだろうか……
無性にリリンとの他愛のないやり取りが恋しくなって、小さくため息を吐いた。

　最初に面接をした少女の後、めぼしい人間と顔を合わせることはなく。
短期間の間に、ため息を吐く大幅に回数が増えた。
三日の朝になると、この街での求人を諦めて他の街で改めて募集し直すことに心が傾き始める。
もう、移動する予定を立てることにしよう。
私は朝食を食べ終えると、早速、移動の準備を始めることにした。
次にいつ、グラムナードから出る機会があるかわからないのだから、今度は駅馬車というものを使ってみることにしよう。
鼠人族達に相乗りさせてもらった荷馬車に続く、初体験だ。
私はワクワクしながら、宿の受付で駅馬車の受付がある場所を確認してから目的地へ向かった。



　ちなみにエルドランからグラムナードへ向かう道中で、職業斡旋所が存在する街は二つ。
そちらへ行く駅馬車の種類は二種類あるらしい。

　まずは、とにかく高速で長距離を走るもので特急馬車と呼ばれているらしい。
途中で馬を替えながら、八時間かけて二百km近くも移動する。
日に一本しか出ておらず、こちらは急いでいる人向けなのではないかと思う。
乗車賃は１万ミルと高いのか安いのかは良く分からないが、私の工房で売っている『高速治療薬』を十本分だと考えると、それなりの金額なのかもしれない。
途中で休憩を兼ねて馬の交換をする必要があるのだそうで、馬を替えるために立ち寄るそうだ。
その際に途中下車をすることはできるようだが、途中で降りたからと言って返金はない。

　もう一つは、隣町との往復のみをしている巡回馬車もの。
晴れていれば日に五本も出ているようで、こちらの方が一般的なのではないだろうか？
乗車賃も二千ミルと、特急馬車と比べて随分と安い。
安い分、屋根はついていないし、持ち込めるのは手荷物だけなどの制限はあるようだ。

「隣町へ行きたいのだが――」
「ああ、巡回馬車なら出発時間までに窓口に来てくれれば大丈夫だよ」
「なるほど。では、時間を教えてもらえるかね」

　気のいい販売員の男性に巡回馬車の運行時間を教わり、明日の朝一番で移動することに決める。
後は、職業斡旋所で募集の取り下げ手続きをするだけだ。
今日も面接はすることになるだろうが、少しだけ気が楽になった。
巡回馬車には、目的の街へ向かうものだけでなく他の街へ行くものもある。
その挙げ句、街の中を回っているものまであるのだ。
明日は乗り場を間違えないように気を付けるとしよう。

　午後に行った面接も相変わらずの結果だったが、次の街に移動することを決めていたお陰でまだ耐えられた。
その日は機嫌よく眠りについた私は、まさか他の街でも同じような結果に終わるだなんて思いもしなかった