帰らなければ良かった

jun

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許さない

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団長がベルとナタリア様の尋問の様子や内容を説明してくれた。

細かく言わないのは私やブライアンに気を使ってなのだろう。
それでも団長の顔が、不快極まれりという顔をしている。余程態度が悪かったのだろう。

「ナタリア元夫人はまだまだかかりそうだ。これからフランシス嬢などに話しを聞いていく。
シシリーの調書はミッシェルが取る。
ブライアンは俺が取る。
今から取ってもいいか?」

「構いません、早く今回の事を終わらせてしまいたいので。」

「私も構いません。あ、団長、後でイーグルのラルス団長に挨拶に行きたいのですがよろしいですか?それとカールの事もあるのに私が移動して大丈夫ですか?」

「ラルスの所へは俺も一緒に行く。シシリーの移動はやはり延期にしてもらいたいと思っているからな。」

「分かりました。お願いします。」

ブライアンと団長はそのまま調書を取る為に執務室に残った。

私は一番隊の執務室で待っているミッシェルの所へ向かっている途中、

「リーダー!」

私を呼び止めたのはヤコブだった。

「ヤコブ…色々ごめんね、カールもいないし大変だったでしょ?」

「俺は大丈夫です。俺…リーダーに謝らないといけないと思って…。
姉のせいで…ご迷惑をおかけしました…。
俺も副リーダーに肩入れしてしまっていました…。
でもリーダーと副団長が別れればいいなんて思ってません。
でも副リーダーが気の毒で姉に軽い気持ちで話してしまったんです…。
副リーダーがリーダーの事を前から好きだった事。
それでこんなことになってしまって…。
なので副リーダーになる資格なんて俺にはありません。辞退しようと思っています。」

「ヤコブがカールを慕っていたのは知ってるわ。なんとかしてあげたいと思うのは当たり前だと思う。
私はカールの気持ちにちっとも気付かなかった…。
そんなカールに私はブライアンの事をたくさん相談したし、嫌がらせをされた時もブライアンではなくカールを頼ってしまった…。
だからヤコブが気にする必要はないよ。
ヤコブが何かしてたのなら許されないけど貴方は何もしていないでしょ?
ナタリア様にも大した事は言ってなかったんだもの、一番隊の為に辞退するなんて言わないで。」

「でも…もし副リーダーが…」

「ヤコブ、カールは死なない。死なせない。だってブライアンにした事は許せないもの。ちゃんと謝ってもらうまで死んでもらったら困る!退院したらボコボコにする!」

「それこそ副リーダー、死んじゃいますよ。」

ようやく笑ったヤコブを連れて、私の執務室へ向かった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*団長執務室 エドワード団長視点


「引っ越しは終わったのか?」

「はい、無事終わりました。前より今の家の方が近いし、綺麗です。
今度遊びに来てください。」

「そうだな、この件が落ち着いたら遊びに行かせてもらおう。」

「はい、楽しみにしています。」

「前に聞いているから、調書はもう出来てるんだが、間違いがないか確認してもらえるか?読めるか?辛かったら休みながらでいい。大丈夫か?」

「フフ、団長、父親みたいですよ。大丈夫です。」

「そうか、だったら良いが無理はするな。」

「ありがとうございます。」

ブライアンは俺が作った調書を読み始めた。


少し窶れたように見えるブライアンは、まだ二十八歳だ。

俺よりも六歳下だ。

学園を卒業してすぐ入隊したブライアンは、
サラサラの銀髪を一つに括り、夏空のような綺麗なブルーの瞳は、どこか暗いものがあった。
剣のセンスが良いのもあり、入隊一年で部隊の副リーダーになった。齡二十でだ。

見た目も良く、家柄も良い。
女性人気は半端なかったが、一切興味を持たず、ひたすら訓練と任務に明け暮れていた。
休暇もほとんど実家には帰らず、独身寮にいるブライアンをよく飲みに誘った。
愛想が悪い割に、誘うと断る事なく付いてくるブライアンは、野良猫を餌付けしているようで少し楽しかった。
少しずつ笑うようになったブライアンを弟のように思っていた、というか思っている。

ブライアンの兄ニールの婚約者に執着されている事を相談されたのはその頃だ。

子供の頃から大人の女性のようにベタベタしてくるのが我慢できなかったブライアンは学生時代は寮へ、今は騎士団の寮へ避難しているのだと。
兄のニールは、弟を守る為、敢えてナタリアと婚約したのだと俺に教えてくれた。

兄を犠牲にした自分が嫌いだと。
好きでこの姿になったわけじゃない。
見た目しか見ない女性達が心の底から嫌いだと、珍しく酔っ払ったブライアンがそう言っていたのが忘れられなかった。

多少笑うようになったブライアンが二十二歳になった年にシシリーが入隊した。

シャンパンゴールドの髪をポニーテールにした舞台女優のようなシシリーは、騎士団の男達みんなが狙っていた。
本人は自分が美人とは思っていないので無防備で見ていてハラハラしたが、剣の腕は同期の中では群を抜いていた為、美人なだけではないシシリーをいつしか仲間として見るようになっていた。
先輩騎士にも負けないシシリーは、いつしか一番隊の副リーダーになっていた。
同期のミッシェルも二番隊の次期副リーダーとも言われていたので、二人はいつもカールを交えて楽しそうにしていた。

いつしか俺もシシリーを目で追うようになっていた。

ブライアンはシシリーの事も興味はなく、俺と飲みに行くくらいしか息抜きがなかった。

今思えば、その頃からあの定食屋のベルはブライアンが好きだったのだろう。
何かとサービスだと言っては俺達の所へ来ていた。

そんなブライアンを心配していた俺は、
「お前、好きな女とかいないのか?」
と聞いたら、

「俺、結婚なんかしないので」
と言ったブライアンに頭を抱えた。

「そんな事言う奴が、意外と一目惚れしてサッサと結婚したりするんだぞ」

「一目惚れ?あり得ません!」

と言い切ったブライアンがシシリーに一目惚れするのは、それからすぐだった。

俺のシシリーへの気持ちは、ブライアンのように激しいものではない。
だから、二人が付き合う事になって嬉しかった。

幸せそうなブライアンが本当に嬉しかった。

結婚式も楽しみだった。

なのに、結婚式まで一ヶ月の今、二人の幸せに影を落とした。

俺は許せない。
大事な部下であり、弟分であり、俺の好きな女を、これから幸せになっていく二人を、奴らは傷付けた。
奴らの事を絶対許さない。

そんな怒りを抱え、ブライアンが調書を読んでいる姿をじっと見ていた。


「読み終わりました。問題ありません。」

「大丈夫か?」

「団長、心配し過ぎですよ」
とブライアンが笑った。

「俺はお前を弟のように思っている。だから心配もするぞ」
と言えば、

「うわ、こんな怖い兄上が騎士団にいたとは思いませんでした。けど、俺も兄のように思っていましたよ。」

と嬉しそうに笑ったブライアンを見て、泣きそうになったのは秘密だ。












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