45 / 102
過去
ラルス視点
エドからシシリーとブライアンの様子を聞いてから、ジュリアーナへの憎悪が前にも増し、やる気が出た。
使用人達へもう一度聞き取りをし、押収品の領収書や帳簿、使用人が持っているには不釣り合いな宝石、金貨、そして薬の入手経路。
そして公爵家の人間でスーザンを知っている者を探した。
途中、ブライアンが合流し、
エドは、団員数人を連れて治療院に行き、公爵とテリーズに離婚が成立した事の報告と、治療院にいる使用人達への聞き取りを行っている。
ミッシェル班は屋敷に残っている使用人達の聞き取りをし、
ヤコブ班は、誘拐の実行犯達の取調べをした。
そして、それぞれの成果を持ち寄り、照らし合わせ、決め手となるものを集めていった。
ジュリアーナが離婚し公爵夫人ではなくなったことで、話しやすくなった使用人達は、溜まっていた鬱憤を晴らすように、後から後からジュリアーナの悪事を暴露していった。
ジュリアーナは再婚当初、使用人達に虐められていたそうだ。
それでも嫡男を生み、数年後に女の子を生んだジュリアーナだが、跡取りが出来た事もあり、公爵は寝室を一緒にする事も無くなった。使用人には虐げられ、夫には避けられていた。
そんなある日、夜中に突然、ジュリアーナが大声で歌を歌い出した事があったという。
何事かと心配したが、その日は楽しそうに歌った後、パタンと眠ってしまったので、そのままにした。
次の日も夜中に歌い出した。
でもその日はすぐには眠らず、真夜中まで起きていて上機嫌だったのだとか。
そして、パタンと眠る。
また次の日も寝室に入ってしばらくすると、歌い出し、急に眠る。
そんな日々が続き、みんな気味悪がった。
でも、歌を歌う事はだんだん少なくなってきた。その代わり、上機嫌かと思えば、急に怒り出すようになった。
一日一日、様子が微妙に違う。
病気なのかと思った時、掃除担当の使用人が、
「奥様の寝室のゴミ箱に、頭痛薬の瓶が捨ててある時がある。それも短い期間に瓶が捨ててあるのはおかしい」と気付き、執事に相談した。
執事は確認する為にジュリアーナの部屋へ行き、問いただした。
ジュリアーナは、
「私、もう死のうと思ったの。でも毒なんて手元にないし、ナイフで刺す勇気もない。
だから持っている風邪薬や解熱剤をあるだけ飲んだの。そしたらね、とっても気持ちが良くなって歌い出したくなってしまったの。
それからはいろんな薬を飲んだけれど、頭痛薬が一番長く気持ち良かったの。」
「奥様、身体を壊してしまいます。おやめください!」
「嫌よ!誰も助けてくれない!主人には見向きもされない。もう嫌なの!」
とジュリアーナは泣いた。
執事はそんな姿を見て、思わず抱きしめてしまった。
そして求められるまま身体を繋げてしまった。
それからは何度も夜寝室に呼ばれるようになり、求められるまま身体を重ねた。ジュリアーナが避妊薬を必ず飲んでから。
主を裏切っている罪悪感で、もうこんな事はやめたいと言うと、
「じゃあ、主人が私を抱くようにして!」
それから執事は公爵に媚薬を少量、寝酒に混ぜて飲ませるようになった。そして、ジュリアーナは公爵の寝室に行く日々となった。
そのうちジュリアーナも媚薬を飲むようになり、何かストレスが溜まった時は頭痛薬を飲む。
以前飲んだ時にどれくらい飲めば良いかは試していたので知っていたから。
それからは起伏の激しい性格になり、攻撃的になった。
この頃にはとっくにクララの事など忘れていた。でも、自分の子供は可愛がっていた、特にフランシスを異常な程に。
フランシスが泣けば、近くにいた使用人に罰を与え、抵抗すれば、媚薬だろうが、頭痛薬だろうが、無理矢理飲ませた。
飲まされた使用人の姿を見て、誰も抵抗出来なくなった。
若い男の使用人には媚薬を進んで飲ませるようになった。
公爵には媚薬だけではなく、一緒に頭痛薬も飲ませるようになっていった。
だんだん虚になっていく公爵。
あまり家にいなくなった長男。
我儘放題の長女。
やりたい放題の公爵夫人。
攻撃的な時は、何をされるのか分からない恐怖に縛れる使用人達。
執事は薬を買い続けた。
もう何が良いのか悪いのか分からなくなっていたから。
公爵家と付き合いのある商会で薬を買う事はしなかった。
適当に選んだ商会が“パブロフ商会”だったが、ここが悪質だった。
ここは、金さえ払えば禁止薬物も売っていた。
執事はそれを聞きつけ、最初に買った媚薬をパブロフ商会で買っていたのだ。
商会は、いつも媚薬と頭痛薬を買っていく上客が公爵家の人間だと気付き、頭痛薬に少量の麻薬を混ぜた。
中毒にすれば、買い続けるから。
そして、定期的に買っていく執事に、
「いつも買って頂いているので、まとめて買って頂いたら安く出来るのです。金額の事などを一度ご主人様とお会いし、お話ししたいのですが、よろしいでしょうか?」
そして、ジュリアーナとの取引が始まった。
店側がジュリアーナに、
「新しいお客さんにこの商会を紹介してくれたら、もっと安くしますよ」と言った。
ここからだろう。
ナタリアに薬を渡すようになったのは。おそらく他にも被害者はいるはずだ。
ジュリアーナは知らず知らず、薬物の売人にさせられていた。
自分自身は薬物中毒だなんて思っていないのだろう。だが、
この頃は立派な薬物中毒だ。
ジュリアーナの興味は公爵から令嬢達へ移っていった…薬を安く手に入れる為に。
毎日が薬中心の生活。
浮き沈みの激しい感情。
極めて危険な攻撃性。
酷い被害妄想と思い込みの激しさ。
突飛な行動。
もう手に負えない状態だった。
“正直、こうなってホッとした。”
これがほとんどの使用人が言った言葉だ。
執事は、
「奥様は本当は優しい方だったんです…。
私が使用人をきちんと取り締まっていれば…旦那様が奥様を労わっていれば…こんな事にはなりませんでした。
ですから、私は奥様の望む物を用意し続けたのです。」
と言った。
手の甲に傷のある御者は、
「俺はあの人が怖くてたまらなかった。
あの女と寝るなんて恐ろしくて考えられなかった…。だから、言う事を聞くしかなかった…仕事を失ったら家族を養えない…。」
と言った。
集まった情報を組み立て、出てきた真実。
エド、ミッシェル、ヤコブは、この真実に絶句していた。
俺とブライアンは、多分同じ事を思っただろう。
だから俺は言った。
「だから何?虐められてたから仕方ない?可哀想な面もあったんだなって思った?
それが何?
嫌なら離婚すればよかっただけの話し。
逃げればよかったし、誰かに相談すれば良かった。
やっていい事も悪い事も分からなかったんだって言いたいの?
俺はそんな事思わない。
クララを虐待し、ナタリアに薬を勧めた。
おそらくもっと薬をばら撒いているだろうし、その結果、ブライアンは襲われ、シシリーは二度も襲われたのに、ジュリアーナを可哀想って思うわけ?
俺は許さない。絶対に許さない。」
「俺も許しません。どんな理由があろうと、やった事は悪質で、極悪非道です。
この女がいなければ、ナタリアもベルもフランシスもこうはならなかったのかもしれないなんて思わない。こいつらは結局は自分が考え、決断した結果、やった事は犯罪行為だ。
俺は誰にも同情なんてしないし、絆されもしない。自分が納得した処罰が出ない限りコイツらを許さない。」
エドが、
「俺も誰のことも許しはしない。ただ、ここ数日に合ったこと全てにジュリアーナが関係していた事に驚いただけだ。
確かに誰かがジュリアーナに寄り添っていればこうはならなかったとは思う。
だが、それは同情ではない。」
ミッシェルは、
「私はカールの事を考えていました…。
公爵夫人がいなければ、乳母のままだったなら、フランシスはいなかった。
別の令嬢がやっていたかもしれないけど、フランシスがシシリーに媚薬を飲ませなければカールはあんな事しなかったと思ってしまいました…。シシリーをあんなに悲しませたのはカールなのに…。」
ヤコブは、
「俺は、子供の頃から姉の事は嫌いでした。自分勝手で我儘で他人の悪口ばっかり言ってたけど、気に入らない子には直接ぶつかっていっていたのに、今は隠れて気に入らない人を排除していた。
公爵夫人に出会ってなかったらここまで酷くはならなかったのにと思ってしまいました…。すみません…」
「俺も、ジュリアーナさえいなければと思う。お前らを責めてしまって済まない。
だが、いくら可哀想な過去があった女でも、クララを苦しめ、ブライアンを苦しめ、シシリーを殺そうとし、挙句に二人の子供を殺した。
だから、俺はアイツにはこれっぽっちも可哀想なんて思わない。
以上!
もうあの女の事考えたくないから終わり!」
「確かに。なんか気分が悪くなっちゃいます、俺、お茶とお菓子持ってきます!」
とヤコブが空気を変えるように出ていった。
「ごめん…なんか頭ん中ぐちゃぐちゃになった…。」
「気にしてない。お前の方こそ大丈夫か?少し休め。お前、休んでないだろ?」
「そうです、ラルス団長。少しでも休んで、対決に備えて下さい。」
「そうですよ、ラルス団長のあの恐ろしいキレのある尋問がないとリベンジ出来ませんよ!」
「リベンジか…そうだな、ヤコブのお茶飲んだら少し休ませてもらうわ。」
そう、前回は失敗した。
次で必ず終わらせてやる。
あなたにおすすめの小説
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
Mimi
恋愛
若様がお戻りになる……
イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。
王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。
リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。
次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。
婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。
再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……
* 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました
そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。