帰らなければ良かった

jun

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過去



ラルス視点


エドからシシリーとブライアンの様子を聞いてから、ジュリアーナへの憎悪が前にも増し、やる気が出た。

使用人達へもう一度聞き取りをし、押収品の領収書や帳簿、使用人が持っているには不釣り合いな宝石、金貨、そして薬の入手経路。
そして公爵家の人間でスーザンを知っている者を探した。
途中、ブライアンが合流し、
エドは、団員数人を連れて治療院に行き、公爵とテリーズに離婚が成立した事の報告と、治療院にいる使用人達への聞き取りを行っている。
ミッシェル班は屋敷に残っている使用人達の聞き取りをし、
ヤコブ班は、誘拐の実行犯達の取調べをした。

そして、それぞれの成果を持ち寄り、照らし合わせ、決め手となるものを集めていった。

ジュリアーナが離婚し公爵夫人ではなくなったことで、話しやすくなった使用人達は、溜まっていた鬱憤を晴らすように、後から後からジュリアーナの悪事を暴露していった。


ジュリアーナは再婚当初、使用人達に虐められていたそうだ。
それでも嫡男を生み、数年後に女の子を生んだジュリアーナだが、跡取りが出来た事もあり、公爵は寝室を一緒にする事も無くなった。使用人には虐げられ、夫には避けられていた。

そんなある日、夜中に突然、ジュリアーナが大声で歌を歌い出した事があったという。
何事かと心配したが、その日は楽しそうに歌った後、パタンと眠ってしまったので、そのままにした。
次の日も夜中に歌い出した。
でもその日はすぐには眠らず、真夜中まで起きていて上機嫌だったのだとか。
そして、パタンと眠る。
また次の日も寝室に入ってしばらくすると、歌い出し、急に眠る。
そんな日々が続き、みんな気味悪がった。
でも、歌を歌う事はだんだん少なくなってきた。その代わり、上機嫌かと思えば、急に怒り出すようになった。
一日一日、様子が微妙に違う。
病気なのかと思った時、掃除担当の使用人が、
「奥様の寝室のゴミ箱に、頭痛薬の瓶が捨ててある時がある。それも短い期間に瓶が捨ててあるのはおかしい」と気付き、執事に相談した。
執事は確認する為にジュリアーナの部屋へ行き、問いただした。
ジュリアーナは、
「私、もう死のうと思ったの。でも毒なんて手元にないし、ナイフで刺す勇気もない。
だから持っている風邪薬や解熱剤をあるだけ飲んだの。そしたらね、とっても気持ちが良くなって歌い出したくなってしまったの。
それからはいろんな薬を飲んだけれど、頭痛薬が一番長く気持ち良かったの。」

「奥様、身体を壊してしまいます。おやめください!」

「嫌よ!誰も助けてくれない!主人には見向きもされない。もう嫌なの!」
とジュリアーナは泣いた。
執事はそんな姿を見て、思わず抱きしめてしまった。
そして求められるまま身体を繋げてしまった。
それからは何度も夜寝室に呼ばれるようになり、求められるまま身体を重ねた。ジュリアーナが避妊薬を必ず飲んでから。
主を裏切っている罪悪感で、もうこんな事はやめたいと言うと、
「じゃあ、主人が私を抱くようにして!」

それから執事は公爵に媚薬を少量、寝酒に混ぜて飲ませるようになった。そして、ジュリアーナは公爵の寝室に行く日々となった。
そのうちジュリアーナも媚薬を飲むようになり、何かストレスが溜まった時は頭痛薬を飲む。
以前飲んだ時にどれくらい飲めば良いかは試していたので知っていたから。

それからは起伏の激しい性格になり、攻撃的になった。
この頃にはとっくにクララの事など忘れていた。でも、自分の子供は可愛がっていた、特にフランシスを異常な程に。

フランシスが泣けば、近くにいた使用人に罰を与え、抵抗すれば、媚薬だろうが、頭痛薬だろうが、無理矢理飲ませた。
飲まされた使用人の姿を見て、誰も抵抗出来なくなった。

若い男の使用人には媚薬を進んで飲ませるようになった。
公爵には媚薬だけではなく、一緒に頭痛薬も飲ませるようになっていった。
だんだん虚になっていく公爵。
あまり家にいなくなった長男。
我儘放題の長女。
やりたい放題の公爵夫人。
攻撃的な時は、何をされるのか分からない恐怖に縛れる使用人達。

執事は薬を買い続けた。
もう何が良いのか悪いのか分からなくなっていたから。
公爵家と付き合いのある商会で薬を買う事はしなかった。
適当に選んだ商会が“パブロフ商会”だったが、ここが悪質だった。
ここは、金さえ払えば禁止薬物も売っていた。
執事はそれを聞きつけ、最初に買った媚薬をパブロフ商会で買っていたのだ。
商会は、いつも媚薬と頭痛薬を買っていく上客が公爵家の人間だと気付き、頭痛薬に少量の麻薬を混ぜた。
中毒にすれば、買い続けるから。
そして、定期的に買っていく執事に、
「いつも買って頂いているので、まとめて買って頂いたら安く出来るのです。金額の事などを一度ご主人様とお会いし、お話ししたいのですが、よろしいでしょうか?」
そして、ジュリアーナとの取引が始まった。
店側がジュリアーナに、
「新しいお客さんにこの商会を紹介してくれたら、もっと安くしますよ」と言った。

ここからだろう。
ナタリアに薬を渡すようになったのは。おそらく他にも被害者はいるはずだ。

ジュリアーナは知らず知らず、薬物の売人にさせられていた。
自分自身は薬物中毒だなんて思っていないのだろう。だが、
この頃は立派な薬物中毒だ。
ジュリアーナの興味は公爵から令嬢達へ移っていった…薬を安く手に入れる為に。
毎日が薬中心の生活。
浮き沈みの激しい感情。
極めて危険な攻撃性。
酷い被害妄想と思い込みの激しさ。
突飛な行動。
もう手に負えない状態だった。

“正直、こうなってホッとした。”

これがほとんどの使用人が言った言葉だ。

執事は、
「奥様は本当は優しい方だったんです…。
私が使用人をきちんと取り締まっていれば…旦那様が奥様を労わっていれば…こんな事にはなりませんでした。
ですから、私は奥様の望む物を用意し続けたのです。」
と言った。
手の甲に傷のある御者は、
「俺はあの人が怖くてたまらなかった。
あの女と寝るなんて恐ろしくて考えられなかった…。だから、言う事を聞くしかなかった…仕事を失ったら家族を養えない…。」
と言った。

集まった情報を組み立て、出てきた真実。

エド、ミッシェル、ヤコブは、この真実に絶句していた。

俺とブライアンは、多分同じ事を思っただろう。
だから俺は言った。

「だから何?虐められてたから仕方ない?可哀想な面もあったんだなって思った?
それが何?
嫌なら離婚すればよかっただけの話し。
逃げればよかったし、誰かに相談すれば良かった。
やっていい事も悪い事も分からなかったんだって言いたいの?
俺はそんな事思わない。
クララを虐待し、ナタリアに薬を勧めた。
おそらくもっと薬をばら撒いているだろうし、その結果、ブライアンは襲われ、シシリーは二度も襲われたのに、ジュリアーナを可哀想って思うわけ?

俺は許さない。絶対に許さない。」


「俺も許しません。どんな理由があろうと、やった事は悪質で、極悪非道です。
この女がいなければ、ナタリアもベルもフランシスもこうはならなかったのかもしれないなんて思わない。こいつらは結局は自分が考え、決断した結果、やった事は犯罪行為だ。
俺は誰にも同情なんてしないし、絆されもしない。自分が納得した処罰が出ない限りコイツらを許さない。」


エドが、
「俺も誰のことも許しはしない。ただ、ここ数日に合ったこと全てにジュリアーナが関係していた事に驚いただけだ。
確かに誰かがジュリアーナに寄り添っていればこうはならなかったとは思う。
だが、それは同情ではない。」

ミッシェルは、
「私はカールの事を考えていました…。
公爵夫人がいなければ、乳母のままだったなら、フランシスはいなかった。
別の令嬢がやっていたかもしれないけど、フランシスがシシリーに媚薬を飲ませなければカールはあんな事しなかったと思ってしまいました…。シシリーをあんなに悲しませたのはカールなのに…。」

ヤコブは、
「俺は、子供の頃から姉の事は嫌いでした。自分勝手で我儘で他人の悪口ばっかり言ってたけど、気に入らない子には直接ぶつかっていっていたのに、今は隠れて気に入らない人を排除していた。
公爵夫人に出会ってなかったらここまで酷くはならなかったのにと思ってしまいました…。すみません…」

「俺も、ジュリアーナさえいなければと思う。お前らを責めてしまって済まない。
だが、いくら可哀想な過去があった女でも、クララを苦しめ、ブライアンを苦しめ、シシリーを殺そうとし、挙句に二人の子供を殺した。
だから、俺はアイツにはこれっぽっちも可哀想なんて思わない。
以上!
もうあの女の事考えたくないから終わり!」

「確かに。なんか気分が悪くなっちゃいます、俺、お茶とお菓子持ってきます!」
とヤコブが空気を変えるように出ていった。


「ごめん…なんか頭ん中ぐちゃぐちゃになった…。」

「気にしてない。お前の方こそ大丈夫か?少し休め。お前、休んでないだろ?」

「そうです、ラルス団長。少しでも休んで、対決に備えて下さい。」

「そうですよ、ラルス団長のあの恐ろしいキレのある尋問がないとリベンジ出来ませんよ!」

「リベンジか…そうだな、ヤコブのお茶飲んだら少し休ませてもらうわ。」



そう、前回は失敗した。
次で必ず終わらせてやる。













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