帰らなければ良かった

jun

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閑話 ヤコブの悩み

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俺、ヤコブ・ユンゲルは悩んでいる。

俺はファルコン騎士団の一番隊に所属している。予定では一番隊の副リーダーになる予定だ。
俺は、リーダーの事は“リーダー”と呼んでいて、リーダーでなくなった時、なんて呼べば良いのか分からない。
だって、リーダーとしか呼んだ事がないから。リーダーがリーダーになるまでは、全く話す機会がなかったから。
剣を交えた事はあっても、名前を呼び合うような関係ではなかったから。
だって、あの人、綺麗でなんか畏れ多くて…。
やっと、“リーダー”って呼びやすい役職になったから呼べるけど、今度はなんて呼べば良いんだろう…。

だから、騎士団の何でも相談所の二番隊の執務室に行った。

「ガースさ~ん、聞いて下さいよ~」

「今度は何なの、ヤコブ。」

「俺、リーダーがリーダーじゃなくなったら、リーダーの事なんて呼んだら良いんですかーーー!」

「なんかリーダーばっかで何言ってるか、分かんない。なんとなく分かったけど。」

「ガースさん、俺、真剣なんですけど!」

「俺も真剣よ。つまり、シシリーをなんて呼んだらいいかでしょ?」

「そうそう!」

「シシリーでいいでしょ!」

「いやいや、流石にそれは…」

「なんで?歳も変わらないでしょ?」

「まあ、一つ下です。」

「じゃあシシリーで良いよ。」

「だってミッシェル先輩はミッシェル先輩なのに、リーダーはシシリーって、おかしくないですか?副団長に怒られないですか?」

「あーーーー怒られるかも。」

「そうでしょ!」

「じゃあシシリー先輩でいいよ。はい、終わり!」

「待って待って!そんな、適当な…。」

「他にある?ないでしょ?じゃあシシリー先輩、またはシシリーパイセン。」

「シシリーパイセン⁉︎無理無理無理!」

「じゃあ、ミッシェルパイセンで、シシリー先輩は?」

「あ、それ良いかも!」

「はい、決定!」



だから、俺は試しにミッシェル先輩を呼んでみたんだ。


「ミッシェルパイセーン!」

「は⁉︎なにそれ?」

と頭を叩かれた。



「ガースさーーん、怒られたーーー」

「ハアーーーー、今度は何?」

「ミッシェルパイセンって言ったら頭叩かれた!」

「挫けるな!何回も言ってたらそのうち慣れる!」

「そうかな…」

何回も挑戦し、何回も頭を叩かれ、腹を蹴られ、ケツを蹴られた。

そのうち、ミッシェルパイセンは、返事をしてくれるようになった。

ガースさん、さすがです!

なので、今日はリーダーを“シシリー先輩”と呼んでみようと待ち構えている。


「おはようございます、シシリー先輩!」

リーダーは二度見してから立ち止まった。

「お、はよう…どうした?なんかあったの、ヤコブ?」

「いえ、練習してみました!」

「練習?」

「はい!リーダーがリーダーじゃなくなった時の練習です!」

「リーダーがリーダーじゃなくなった時の練習・・・・・・・プッ…フ、アハハハ」

「リーダー、笑い事じゃないです!」

「ごめんごめん、ヤコブは真面目だね~可愛い後輩だ。シシリー先輩は嬉しいよ!じゃあね~!」


クソッ、笑われた!
でも、可愛いって言われた!
良いのか、呼んで良いのか?



「ガースさーーーん!」

「お前、暇なの、何なの?」

「俺、シシリー先輩に可愛いって・・・・・・・・・あ、副団長…おはよう…ござい…ます…」

「おはよう、ヤコブ。何?教えて、シシリー先輩がどうしたの?」

「いや、なんか、気のせいだったのかもしれない…あ、俺、イーグルに行って来ないと!それじゃあ!」



ヒィーーーー!
副団長がいたとは!

でも、シシリー先輩って呼べた!

“シシリー先輩”

うん、良い!


やっと一番の悩みが解消されたーーー!














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