帰らなければ良かった

jun

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祝福

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今、ブライアンと私は騎士団にいる。
今日は結婚式なのに。

朝早く、ミッシェルとブライアンのお母様のレベッカ様に叩き起こされ、二人で馬車に乗せられ、騎士団に連れて来られた。

ブライアンはヤコブがどこかに連れて行き、いない。

私は王宮の客室と思われる部屋で、訳もわからず、身体を磨き上げられている。

「あ、あの、私、今日結婚式なんですけど、これは一体どういう状況何でしょうか?」

皆さん、ニコニコしてますが、誰も一言も話してくれない。

ミッシェルもレベッカ様も、

「良いからいいから」しか言わなかったし。

とにかく終わるまでは何も教えてはくれないのだろう。

だからもう終わるまで大人しくしよう。


注文していたドレスではない、真っ白なウエディングドレスを着せられた。

まあ、そうだろうなとは思っていたが、何故ここで着替え、注文したドレスではないドレスを着させられているのかが、分からない。
でも、質問しても答えは教えてくれない。

「ふわぁ、シシリー様、お美しいですぅ~」

「この体型は犯罪級ですよ、シシリー様!」

「誰か、誰か絵師を!今すぐに!」

と私の支度をしてくれている方々は騒いでいるが、肝心な事になると、ピタッとお喋りが止まる。

実は、ブライアンではない人と結婚させられるのか?
え?そうなの?

「あ、あの、私の結婚相手は、ブライアンで間違いないですよね?」

「「「「当たり前です!」」」」

「…ですよね…」

それからは、髪をセットし、お化粧をされ、アクセサリーを付けて完成したようだ。

「素晴らしいです!シシリー様!」

「芸術品です、飾りましょう、飾ってしまいましょう!」

など皆さん称賛してくれています。

「シシリー様、こちらでご確認下さい。」

そう言って、全身鏡の前に立たされる。


ドレスは身体のラインがくっきり分かる、所謂マーメイドラインというデザインのドレスだ。シンプルだが背中と胸元のレースはバラが編まれていて華やかだ。
だが、肩と腕が露出している。
背中と胸元はレースで隠れているとは思えない。
傷だらけの身体なのにどう隠したのか目立たない。

髪はアップにされ、アクセサリーは細いチェーンにダイヤが縦に連なったネックレスのみだ。

「後はこちらの手袋をつけて完了です。ベールは会場が外なので付けません。」

「外?」

ちょうどその時、「終わった?」とミッシェルの声がドアの向こうからした。


「終わりましたーー」と皆さんが言うと、ミッシェルとレベッカ様が入ってきた。

「まあまあまあまあ、なんて事でしょう!
なんですか、この美しい花嫁は!
うちの息子は見る目があるわね~!」

「シシリー!これはダメなんじゃない?
男達に見せるのは危険じゃない?
ブライアンが暴れるんじゃないの?
すっごく綺麗で、シシリーが、すっごく綺麗で…結婚出来て…嬉しい…」

「ミッシェル…」

「ミッシェルさん、ダメよ、泣いたら。花嫁さんも泣いちゃうわよ。」

「・・・すみません。嬉しくて、つい。」

「ありがとう、ミッシェル…」

「ほらほら、準備が出来たのなら、行きましょう!ゲイル様、お待たせ致しました。」

レベッカ様が伯父様を呼んだ。


ドアを静かに開けた伯父様は、私の姿を見て、目を見開いた後、

「シシリー・・とっても綺麗だ」

と言って、泣きそうな顔で微笑んだ。

「伯父様…」

泣いてしまうから、ミッシェルを見ないようにしてたのに、伯父様の顔を見たら、また泣きそうになってしまった。

「シシリーちゃん、泣いたら折角の美人さんが台無しだわ。ブライアンが待ってるから行きましょう。ゲイル様、後はよろしくお願いします。」

「ああ、ちゃんと連れて行く。」

ミッシェルとレベッカ様が、先に行ってしまい、伯父様と二人、残された。

「妹にそっくりだ。アイツらに見せてやりたかったな…」

「私はほとんど両親の事は覚えていないから分からないけど、嬉しい。」

「もう歳だな、お前のこんな綺麗な姿を見てたら、泣きそうだ。さあ、行こう。」

「はい」

伯父様にエスコートされ、廊下に出ると、赤い絨毯がずっと敷かれてあった。

「これ、いつの間に?」

「皆が頑張ったようだ。一カ月かけてお前ら二人にバレないようにと、苦労したらしい。後で、ファルコンとイーグルの皆にお礼を言いなさい。」

「イーグルの人も?」

「ああ、騎士団、全員だ。お前とブライアンは、付き合い始めてから色々嫌な事もあっただろうし、嫌な思いもしてきた。騎士団の人間は、二人の仲睦まじさを知っているが、それ以外は未だにそれを信じていない。
だから、ここでド派手に結婚式をしようとなったらしい。
それにここなら、皆が二人を祝福できるしな。
陛下の許可も取っている。
だから、今日はブライアンの隣りで幸せに笑っていなさい。」

「みんな…が…」

「おいおい、泣いたら俺が怒られる。
シシリー、俺の可愛い娘のシシリー、泣くな。」

「でも…」

「ほらほら、泣いてはダメだよ」 

そう言って伯父様は私の涙を優しく拭いてくれた。

「うん、泣いても綺麗だ!」

「フフ、伯父様、ううん、お父様、今日までありがとうございました。」

「シシリー⁉︎お前・・・このタイミングで…シシリー…」

「お父様が泣かせるから、仕返しです。」

「シシリー⁉︎ダメだ、それはダメだ!」

そう言って伯父様はポロポロ泣き出した。

クスクス笑いながら二人で式場となる場所まで歩いていると、

「おめでとうございます!」

と廊下ですれ違うたびにたくさんの人がお祝いしてくれた。


この方向だと、あそこかなと思っていると、やっぱりそうだった。
演習場までも赤い絨毯は敷かれていて、私とお父様が見えると、

オオオオオーーーーーーーーー

と野太い声の歓声が上がった。

式典用の騎士服を着たファルコンとイーグルの団員のみんなやオニキス騎士団、とにかく男ばっかりの中に明るいドレスを着たレベッカ様、クララ様、サンディ様、何と国王ご夫妻のお二人、王太子ご夫妻も見えた。

あまりの驚きに、固まっていると、

「シシリー!」

と呼ぶ、ブライアンが見えた。

ブライアンは式典用の副団長の制服を着て立っていた。

お父様と歩いて行き、ブライアンに、

「娘を頼む。今日からお前も私の息子だ。
二人で幸せになりなさい。」

と言った後、私の手を渡した。

「はい、シシリーと二人で幸せになります、義父上。」

ブライアンの腕に手をかけ、陛下の前まで歩いて行く。

「今日はお前達が主役だ。挨拶などはしなくて良いぞ。それでは始めよう。」


「ブライアン・ハワード、其方はいついかなる時も、命尽きるその時までシシリー・フォードを愛する事を誓うか。」

「誓います。」

「シシリー・フォード、其方もいついかなる時も、命尽きるその時までブライアン・ハワードを愛する事を誓うか。」

「はい、誓います。」

「それではこちらにサインを。」

二人でサインをし終えると、

「二人はたった今、夫婦となった。
私が証人だ。今後、この二人の仲を違えようなどとする者は、国王への反逆と見做す。」

オオオオオーーーーーーーーー


陛下の言葉を合図に、団員達が全員剣を掲げた。


「皆で二人を祝福しよう!
長い時間は無理だが、料理も用意した。
存分に計画した事を実行してくれ。」

そう言って、陛下と王妃様は退場された。

そこに団長が、

「料理や酒を陛下が用意して下さった。この花道を歩いて行ってもらえるか。」

と言われ、二人で料理が並んでいるテーブルまで敷かれた絨毯を歩き始めると、

「おめでとうー!」と声がかかり、何かが私達に降ってきた。
降ってきたというか、当たった。

次から次へと降ってくる物体に、

「痛い、イタ、やだ、何、痛い」

「イタ、なんだコレ、イテ、やめろ、なんだコレ、イテッ」

と頭を庇いながら落ちた物を見ると、

「何これ、可愛い」

「ん?なんだこれ?飴?飴か⁉︎」

「あはは、なんで飴?イタッ」

「知らん、でも綺麗にラッピングされてる。イテッ」


なんとか料理のテーブルまで行くと、

コック長が、

「ブライアン、シシリー、おめでとう。
これは俺からのお祝いだ。」

そう言って、大きな苺のケーキがあった。

「そして、お前達がぶつけられたキャンディは、苺味だ。皆が、包んだり、リボンをつけたりしていたものだ。」

「みんなが?」

「ああ、随分前から少しずつ、お前達に見つからないように準備をしていた。」

「そうか、あの甘い匂いはこれだったのか…」

「ブライアン知ってたの?」

「いや、でもチャーリーの執務室はいつも甘い匂いがしていた。これを作っていたのか…」


「ブライアン、ライ…もう、泣いても・・いいかな…」

「ああ、良いよ」


みんなの思いが嬉しくて、幸せで、たくさんの人が祝福してくれた事が嬉しくて涙が止まらなかった。

今まで嫌な事は数え切れないほどあった。
嫌味や悪口をたくさん言われた。
たくさんの人が私を邪魔者扱いをした。

排除しようとした人もいた。



あの日、一日早く帰った事を本当に後悔した。
なんで早く帰ってしまったんだろうと、
あんなもの見たくなんかなかったと、
もうブライアンとは一緒にいられないと思った。

たくさん、たくさん泣いて、
ブライアンもたくさん泣いた。


あの時、泣きながら話しているブライアンを見ていなかったら、私はここにいなかったと思う。

悲しい事もあった。
二人でたくさん泣いた。


そして生まれて初めて、憎い人が出来た。
多分、死ぬまで許せない人だ。


でも、今は今だけそんな事は忘れよう。


こんなにも幸せなのだから。




「ブライアン、私、幸せだ!」

「偶然だな、俺もだ。」



ブライアンが私を抱きしめた。



「ありがとう、シシリー、俺を見つけてくれて。」

「こちらこそ、私を見つけてくれてありがとう、ブライアン。」









晴れた日の青い空の下で、結婚式を挙げたブライアンとシシリーの話は、瞬く間に広がった。

悔しがる者もいたが、国王の言葉もあり、この二人の邪魔をする者は、これ以降現れる事はなかった。














*************************

これにて本編は完結となります。

今後、結婚式のその後や裏話、本編で書ききれなかった裏話などを番外編として書いていきたいと思っております。

たくさんの方が読んで下さり、本当に嬉しくて、感謝してもしきれません。
ありがとうございました。

番外編も読んでくださると嬉しいです。


本当にありがとうございました!









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