帰らなければ良かった

jun

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番外編 辺境伯の小さなお墓

ぼくはライール

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ぼくの名前はライール・ハワード。二歳。

父さまと母さまは騎士団の騎士で、父さまはカッコよくて強くて、母さまはキレイで強くて、ぼくの自慢なのです。


父さまも母さまも、お仕事で昼間はお留守番です。

おじいちゃまとおばあちゃまのお家でお勉強をしたり、剣の稽古をしたり、お迎えがくるまで良い子で待ってるのです。

一人で絵本を読んでいる時やお昼寝して目が覚めた時、父さまが小さくなったみたいなお兄ちゃまがニコニコしながら僕を見てる時があります。

今、絵本を読んでいる僕の前にそのお兄ちゃまがいつのまにかいました。

「お兄ちゃまは誰でちゅか?」

ニコニコして僕を見ています。
そして、少しフワフワしています。

「ライール様?」

僕のお世話をしてくれるターニャが不思議そうな顔をしています。


『僕の事はライールしか見えないんだよ』

「ターニャには見えないのでちゅか?」

『そうみたいだね。ずっといたけど、誰も気付かなかったみたい。だから、秘密にしてくれる?』


少し離れて立っているターニャを見ると、キョロキョロしながら
「ライール様、どなたとお話しされているのでしょうか?」と聞いてきたので、

「絵本を読んでみまちた。ターニャ、ビックリちゃせてごめんなちゃい。」

「いえ、絵本のお話しだったのですね。どうぞ、お声に出して読んでください。」

ターニャをビックリさせてしまうから小さい声でお兄ちゃまと話しましょう。

「お兄ちゃま、ちいちゃい声でお話ち、ちてもいいでちゅか?」

『少しならいいよ。あまり、長い時間は話せないんだ。』

「お兄ちゃまは誰でちゅか?」

『僕はライールのお兄ちゃん。』

「お兄ちゃまは僕のお兄ちゃんなのでちゅか?」

ビックリしました。

『もう時間かな。またね、ライール。』

「またお話ちできまちゅか?」

『うん』


フワフワしていたお兄ちゃまは、スゥーっと消えてしまいました。

お部屋をキョロキョロして探してもお兄ちゃまはどこにもいません。
とっても優しそうなお兄ちゃまでした。
本当にお兄ちゃまが“お兄ちゃん”だったら良いなぁと思います。

次に会った時は、たくさんたくさんお話ししたいなあ。


あ、お兄ちゃまのお名前を聞くのを忘れてしまいました!
次は聞いてみます!




でも父さまと母さまの子供は僕しかいないのに、お兄ちゃまは僕の“お兄ちゃん”ってどうしてだろう…

父さまと母さまに聞いていいかなぁ…

お兄ちゃまに聞いてからの方がいいかなぁ…

「お兄ちゃま…父さまと母さまにお兄ちゃまのことを聞いてもいいでちゅか?」

見えないけど、側にいるかもいれないので小さな声で聞いてみました。

『・・・いいよ』

やっぱり近くにいるんだ!

「お兄ちゃま、ずっと側にいる?」

『見えないけど、側にいるよ。でも、ライールが一人の時にお話ししようね、みんなをビックリさせちゃうから。』

「分かりまちた!」

『良い子だね。約束だよ。』

「やくそくでちゅね。」


お兄ちゃまと約束しました。
今はターニャがいるから、一人の時にまたお話ししましょう。


お兄ちゃまと約束してからは、母さまがお迎えに来るまで、おばあちゃまとお菓子を食べたり、剣のお稽古をしました。



「ライール、ただいま。良い子にしてた?」

「母ちゃま!おかえりなちゃい!」

すぐ母さまにお兄ちゃまの事を聞きたかったけど、お家に帰るまでがまんします。

おばあちゃまがビックリしたら大変だから。

前にかくれんぼでクローゼットの中に隠れていたら、おばあちゃまが知らないで開けちゃって、『キャーーーーーー』って言った後、後ろに転んでしまったの。
その後、コシをゴキってやってしまったとかで、大騒ぎになって、母さまにたくさん怒られて、たくさん泣いてしまったから…。


お家に帰って、母さまがご飯を作っている時に父さまが帰ってきた。

ご飯を食べている時に、

「父ちゃま母ちゃま、僕にはお兄ちゃんがいまちゅか?」

「「え⁉︎」」

「今日、お兄ちゃんとお話ち、ちまちた。父ちゃまにちょっくりのお兄ちゃまが、ぼくのお兄ちゃんだよって。」

僕はたまに姿が見えていた事、今日初めてお話しした事、父さまと母さまにお兄ちゃまの事を聞いてもいいか聞いたら良いよって言った事を父さまと母さまにお話ししました。

母さまの目からポロポロと涙をながしています、大変です!

「ごめんなちゃい、母ちゃま、泣かないで!」

父さまを見ると、父さまも泣きそうな顔です。

どうしよう、僕、母さまと父さまを悲しい顔にしてしまいました…

「お兄ちゃま…僕…どうちよ…」

『ごめんね、ライール。ライールは悪くないよ。ちゃんと僕がライールにお話ししてあげたら良かったね。』

「お兄ちゃま、母ちゃまが泣いていまちゅ…」

母さまを見ると、お兄ちゃまが母さまに抱きついていました。
さっきまで見えなかったのに、今は見えます。

「母ちゃま、お兄ちゃまが母ちゃまに抱きついていまちゅ。だから泣かないで。」

母さまと父さまがビックリした顔で僕を見ます。

「ライールは何か見えているのかい?」

「今は見えまちゅ。ちいちゃい父ちゃまみたいな顔のお兄ちゃまが今は父ちゃまに抱きついていまちゅ。」

そう言ったら今度は父さまが泣いてしまいました。
母さまもまた泣き出して、それを見た僕も泣いて、ご飯どころじゃなくなってしまいました。

お兄ちゃまはいつの間にかいなくなっていました。















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