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後悔
しおりを挟むクォーツ伯爵視点
屋敷で執務をしていた時だった。
娘が通っている学院から
娘が傷害事件を起こし、貴族牢に入れられている、と連絡が入った。
傷害?娘が?貴族牢?
すぐに学院へ向かい、説明を求めた。
娘がワソニック伯爵家の御令嬢の首を血が出るほど噛んだと聞かされた。
命に関わる怪我ではないらしい。
普通に考えて、首を噛むなどあり得るのか?
それも血が出るほど。
我儘な所はあるが、人を傷付ける子ではない。
何かの間違いではないのか!
しかし大勢の生徒が目撃していた。
もちろん教師もだ。
それも第二王子の前で…。
王族がいる中での流血沙汰…
イレーネは
もう帰っては来れないだろう。
何故こうなったのかが、分からない。
学院長に聞いても、
第二王子のルイジェルド殿下がすべて説明するとしか言わない。
イレーネは、王宮の貴族牢に移動した後だったので会うことも出来なかった。
頭が真っ白で、何も考えられない…
とにかく屋敷に帰り、今後の事を考えなければ。
屋敷に戻れば、殿下からの書状が届いていた。
明日、我が家とワソニック家の双方を呼び、この状況の説明をする為、王宮に登城せよとの事だった。その際、イレーネの処分がくだされると。
イレーネには説明の後、面会させては貰えるらしい。
どうしてだ、どうしてこんな事に!
そういえば新学期になってからは、あまり笑わなくなった。
仕事にかかりきりで、娘の事は妻に任せきりだった…。
もっと私が…
後悔ばかりが頭を廻る。
外出先から戻った妻が執務室に飛び込んできた。
「あなた、イレーネが捕まったというのは本当なのですか?イレーネが何をしたというのですか?何故イレーネが…」と泣き叫ぶ。
「落ち着きなさい、説明する。」
私が学院で聞いてきた話しを妻に話すと、
「そんなことするはずがありません!女子生徒の首を噛むなどイレーネがするはずありません、きっとその生徒に何かされたのです!」
「相手はワソニック伯爵の娘さんだ。
ワソニック伯爵はキース・シュバイン元公爵の息子だ。その娘はシュバイン元公爵が溺愛する孫娘だ。
下手な事は言ってはいけない。
まだ詳しい状況は分からないが、こちら側は加害者だ、ワソニック家には慰謝料を払わねばならないだろう。娘も心配だが、相手にも配慮せねば我が家など潰されてしまうぞ。」
「あなたは娘が心配ではないのですか!」
「心配に決まっているだろう!
だが今はやるべき事をやるしかないんだ。
今は今後の事を考えねばならない。
明日は王宮に行かねばならないんだ。
お前は少し休みなさい。」
「休んでなどいられますか!イレーネが大変な時に!」
妻はそう言うと執務室から出て行った。
妻とは所謂、政略結婚だ。
親が決めた相手に逆らわず学院を卒業と同時に結婚した。
妻は、後継の長男と娘も生んでくれ、家の事も社交も子供達の教育にも、それなりに上手くやってくれていた。
だが娘には甘いところがあった。
欲しい物はなんでも買い与え、ほとんど叱る事がなかったように思う。
幼い時は良かったかもしれないが、成長するにつれ、娘の度が過ぎる我儘に、私がきつく叱りつけた事もあった。
その都度、増える洋服や宝石。
妻がご機嫌取りに買い与えたのだろう。
娘の我儘は治る事はなかった。
もう少し大きくなれば、
学院に入れば、
と娘の成長に期待していた。
正しい道に導かなければならない時期は、とっくに過ぎていたのだろう…
明日、娘の処分が決まる。
厳しいものになるだろう。
明日の為に、私はやるべきことを淡々とこなした。
登城し、応接室に案内された。
しばらく待っているとルイジェルド殿下が急いで来られた。
キース殿が来ているので、帰らせるまで別室で待っていてくれと言う。
別室で待っていると、護衛騎士が呼びに来た。
その後はワソニック伯爵、夫人、リリーナ嬢に謝罪した後、殿下から詳しい説明があった。
そして、娘の処分が下された。
部屋を辞し、護衛に連れられイレーネのいる貴族牢に向かっている。
ルイジェルド殿下の話は、どこか他人の話しを聞いているようで、未だ実感がない。
イレーネがグランディ侯爵令息のロナルド殿を恋慕し、
その婚約者のリリーナ嬢を付け狙い、
排除しようと襲った…。
そんな物語の出来事のような事を我が娘がするなんて…。
だが、本当なのだ。
リリーナ嬢の首は包帯が見えないドレスを着ていたが、僅かに見えていた。
入室した際のワソニック伯爵と夫人の殺気にも気付いた。
殿下の後ろにいたグランディ侯爵令息の殺気は恐ろしいほどだった。
リリーナ嬢だけは、
申し訳なさそうに、
こちらを気遣うように、私を見ていた。
優しく可愛らしいお嬢さんだった。
イレーネは分かってしまったのだろう、いくらロナルド殿を希っても叶う事はないと。
イレーネのいる部屋に着き、護衛と共に部屋に入る。
私に気付いたイレーネは、走り寄って来て
「お父様、助けて!私は何も悪くないの!私はロナルド様をあの女から助けようと思っただけなの!あの女、ちっともロナルド様から離れないから私が消してやろうと思ったの!」
護衛に止められ、近づけないイレーネは、
必死に自分は悪くないから助けろと叫んでいる。
あれは誰だろう…
本当に私の娘なのだろうかと疑ってしまう。
髪を振り乱し、暴れている娘は、
昨日まで笑顔で一緒に食事をしていた娘とは思えないほど変わってしまっていた。
「イレーネ、お前は自分が何をしたのか分かっていないのか!お前は何がしたかったのだ!」
と叫んだ。
すると暴れていた娘がピタッと止まり、
「ロナルド様が好きだったの…あの子のように隣りに並んで微笑んで欲しかった…髪を撫でて欲しかった…手を繋いで欲しかった…
だからあの子がいなくなればいいと思った…あの子の代わりになりたかった…」
と泣いていた。
抱きしめてあげたかったが、それすらも出来なかった。
「お前の処分が決まった。
北の修道院だそうだ。
お前には辛く厳しいところだ。
一人で何もかもやらなければならない。
楽しいことは一つもない。
自分の事しか考えられない今は反省もしないだろう。
そのままでは、いつまでも帰ってくることは出来ない。
私はお前が心から反省し、リリーナ嬢にした事がどれほどの事か、ちゃんと理解出来るようになると信じているよ。
そしていつまでも帰ってくるのを待っているから。
お前はどこにいても大事な私の娘なのだからね。」
「お父様…ごめんなさい…」
と静かに泣いていた。
その姿はいつもの娘に戻っていた。
時間になり、部屋を出る。
扉を閉める間際、娘が頭を下げているのが見えた。
涙が込み上げた…。
必死に堪え、
王宮を後にした。
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