番なんていません、本当です!

jun

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ウサギになって二日目。
学校には行けない。

なので、リアムの所に行って、お母さんの診察をしてもらうようクロエにお願いした。
お母さんは、働き過ぎなのと、栄養が足りていない事によるものだと分かった。
充分な休養と栄養のある食べ物でげんきになるそうだ。
良かった。
子供達も喜んでいる。

「姫様、ありがとうございます。」
とお母さんは頭を下げている…クロエに。

そりゃそうだよね、ウサギとは思わないもの。

子供達はクスクス笑っている。
クロエは焦りながら否定している。

これからリアム達は文字を覚える為に午前中は勉強だ。

なのでレー姉様に移動をお願いした。
ケイトは寝込んでいるので。

「メアリー、今からどこに行くの?」

「イムチツ」

「いむちつ?何それ?」

「リーダー、イル、イムチツ!」

「リーダー?誰?」

「ウーーーー、イ・ム・チ・ツ!」

「分かった!執務室!ランの所ね!」

「ハァ~、ウン」

「じゃあ、行きましょ!」

リーダーのいる医務室に行きたかったけど、レー姉様には伝わらなくてラン兄様の執務室へ行くことになった。


「あれ、どうしたの?」

「メアリーがランの執務室に行きたいって言うから連れてきたの。」

「何、どうしたの、メアリー。」

「・・・・イムチツニ、イキタカ、タ。」

「…医務室?」

コクコク。

「アハハハ、レーネに気付いてもらえなかったんだね、メアリー。」

コクコク。

「え、え?ここじゃなかったの?」

「メアリーは医務室に行きたかったんだよ、レーネ。メアリーは“し”は言いづらいんだよ。」

「まあ、そうなのね、ごめんね、メアリー。」

「ダイドブ!」

「え?だいどぶ?・・・・ダイドブ…ダイドブ…ダイドブ…だいじょうぶ…大丈夫!
分かった、大丈夫ね!」

コクコク。

「アハハハ、ちょっとレーネ、笑わせないで!メアリーのダイドブは可愛いけどレーネのダイドブは笑える。
ハア~面白い!」

ダメだ…レー姉様との移動は無理だ。
でもラン兄様は忙しい…。
困った…。
自分で行くか!

「メアリー、ダメだよ、一人での移動は。」

なんで分かった、ラン兄様!
怖いわ!
耳ピーンとなったわ!

「メアリー、私ではメアリーの行きたい所に連れて行けないわ…ごめんなさい…」

「ゴメンネ、レーネーチャマ」

「まあまあまあ、なんて可愛いんでしょ、メアリーもう一回言って!レーねえちゃまって言って!」

「レーネ、もう帰りなさい。メアリーはここに居ていいから。ジャンかグレンがそのうち来るよ。」


レー姉様はしょんぼりしながら帰って行った。

私はする事がないので執務室をぴょんぴょん移動して、見た事がなかった机の下や本棚の隙間を見て回った。
面白かったのはラン兄様の側近のユーリ様の近くに行くと、触りたいのに触れない葛藤でプルプル足が揺れるので、靴の上に乗ったら固まってしまい、動かなくなってしまった。
恐る恐る私を抱え、ラン兄様の机に乗せた後、長いため息を吐いていた。

「ユーリは動物嫌いなのか?」

「いえ、好き過ぎて辛いです。」

「なんで?」

「撫で回したいですけど、メアリー様ですから触れなくて辛いです…。」

「ナデテ、イイヨ」

「ダメダメ、ダメですよ!王女様ですよ、ダメですよ!」

ユーリ様の前に行って、

「ホラホラ、ナデテ」

「ウーーーーでは失礼して!」

それからユーリ様は頭をナデナデ、背中をナデナデして満足した。

仕事にならないからと、下に降ろされ、またぴょんぴょんしていたら、ドアが開いた。

「ここに姫様がいるって聞いたんですけど。」

ジャンとグレンがやってきた。

私の目の前を通り過ぎた。

「そこにいるだろ」

「「え?」」
と二人が同時に下を見た。

「危な!踏んだら大変でしょ!」
「こんなにドアの近くにいては危険です!」

と二人に怒られた。

けど、やっと執務室から移動出来る。



そして今ジャンに抱えられて移動中なのだが、

私のこのウサギの姿、歳の割に小さい。
そう、子ウサギ程度の大きさしかない。
私十六歳なのに。

普通、年相応の大きさになるんじゃないの?
ウサギになったのが最近だから生まれたてのウサギって事なのだろうか?
分からない…。

通りでみんなが可愛い可愛い言うはずだ。
赤ちゃんは等しく可愛いのだから。
てっきり私だから可愛いと思って調子に乗っていたのに、ガッカリだ!
子ウサギだから可愛いのだ…。

「姫様、どうしたの?耳ヘニョリしてるよ。」

「ワタチ、コウタギ、ダッタノネ。オトナノ、ウタギダト、オモッテタ…。」

「こうたぎ?」

「トウ…コウタギ…。ダカラ、ミンナ、カワイイ、イウノネ…」

「プッ、何言ってるのか分かんないよ、姫様。こうたぎって何なの?」

「ウタギ!ワタチ、ウタギ。コウタギ!」

「ウサギ?あーー子ウサギ?」

コクコク。

「子ウサギが何?」

「モウイイ!」

「あ、怒った。可愛い!」

「カワイイ、イウナ!」

「今日はご機嫌ななめですね。お腹空いてます?」
とグレン。

「なるほど。何か食べる、姫様。何食べたい?」

「イラン!」

「怒ってる怒ってる、可愛い!」

二人して笑うのが、腹ただしくて、ジャンの腕の中でバタバタ暴れた。

「待って待って、暴れないで!落としちゃうから!」

「キライ!ジャンモ、グレンモ!」

「ごめん、もう笑わない!だから暴れないで。落として怪我したら大変だから!」

三人で人通りの多い廊下でワチャワチャしている姿は大勢の人に目撃されていた。

その日から、子ウサギを抱いて、子ウサギに話しかけるイケメン二人の噂が一気に広がった。

「ジャン様とグレン様が子ウサギに話しかける姿はいつもと違って可愛らしいのよ!
私もウサギを飼おうかしら。」

「子ウサギに優しく話しかけるお二人は、それはそれは神々しかったわ~私もウサギになりたい!」

それから王宮内は空前のウサギブームとなっていた事を知るのは、もう少し後の事だ。










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