番なんていません、本当です!

jun

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外にまで聞こえる声で怒鳴っているローズマリーの焦っている様子に、姫様を攫おうとしたのはコイツと確信は出来たが、確実な証拠がない。

どうする…


俺が突然尋ねたらどうするのだろう…驚くが喜びが勝るだろう…
揺さぶってみるか…。

「ジャン!」

驚いて振り返るとグレンがいた。

「ナタリー様に聞いた。ローズマリーの所だろうってな。で、ここで何を?」

「今の今まで、ローズマリーは怒鳴っていた。何も連絡がないってね。
あいつが姫様誘拐の首謀者なのは確実。
でも証拠がない。
だから、俺が突然屋敷を訪れたら、あの女はどうするかなと思ってたところ。」

「ハア~失敗したら証拠は全て消されたうえに、またメアリー様が狙われる。
お前が急に行ったら、疑われてるって言ってるようなもんだろ?」

「そうかも…。でも、「だから正当な理由で俺が行く。フェリスへの傷害、器物破損について話しがあるってな。お前は付き添い。」

「本当に訴えるのか?」

「向こうの出次第では。フェリスにしてきた事、俺は許してないから。
それにメアリー様を殺そうとした。
許さない。行くぞ!」

「ああ。」



門まで行き、門番に、

「白騎士団所属、グレン・ニクソンだ。
私の婚約者に対してローズマリー嬢が起こした傷害、器物破損について話しをしたいのだが、侯爵、ローズマリー嬢はご在宅か?
急な訪で済まないが取り次ぎをお願いしたい。」

「か、畏まりました。確認して参ります、少々お待ちください。」

しばらく待っていると、

「ジャン様!」

とローズマリーが玄関から飛び出してきた。

「お嬢様、お待ち下さい。お客様はジャン・ラテリア様ではございません、グレン・ニクソン様でございます!」

「まあ、グレン様まで!さあ、中へどうぞ。」

「お嬢様、旦那様がご帰宅してから「良いのよ!わざわざ来て下さったのよ!このまま帰すなんて出来ません!」」


「では、失礼します」

とグレンは門の中へ入っていった。
ローズマリーは俺から視線を外さない。
俺は無言でグレンの後を付いていった。

応接室に案内され、二人並んで座った。
少しキツイが、一人掛けに座ったらローズマリーが寄ってきそうなので、グレンの隣りに座った。

「ジャン様、グレン様、今日はどのようなご用件で起こしになられたのでしょうか?」

「チルベル侯爵令嬢、用件があるのは私だ。」

「まあ、グレン様が私に?」
「先程から私やジャンの事を名前で呼んでいるが、私はあなたに名前呼びを許可した覚えはないが。」

「それは…」

「それでは今からは、私の事もジャンの事も家名で呼ぶように。」

「・・・・分かりました。」

「それでは用件に入ろう。
あなたが私の婚約者、フェリス・ボレーに対して故意に足をかけ転ばし怪我をさせ、教科書や私物を破損、搾取、フェリスへの罵倒などの行為に対してニクソン家はあなたを傷害と器物破損、名誉毀損で訴える覚悟がある旨をお伝えにきた。
チルベル侯爵はいらっしゃらないようなので、文書にて送らせてもらう。

では、これで失礼するが、ここにくる前に学校へ行ったら、あなたが欠席していると言われた。
体調が優れなかった所、申し訳なかった。
ジャンは今緊急の極秘任務で人探しをしているところだったのだが、たまたま会ったので付いてきてもらった。」

「え?人探し?」

「ああ、私は関わっていないので知らないが、ジャンがあまりにも必死に探しているので余程大切な方なのかと思っているんだが、極秘なので教えてもらえない。なあ、ジャン。」

「極秘なので。だが、とても大事な方だ。
犯人を見つけたら殺してしまうかもしれない。」

「ヒッ…⁉︎」

「ジャン、ご令嬢が怯えているだろう。ダメだよ、いくら好きだからってそんなに殺気出しては。」

「おま、俺は、別に…」

「何ですの、それ…まるでジャン様の恋人みたいではありませんか!あんな獣人の何処がいいのですか!」

「へぇ~極秘なのに誰探してるか知ってるんだ?」

「あ…」

「あんな獣人って誰?」

「・・・・・・」

「どんな獣人の事を思い出したの?ウサギ?」

「わた…私は…」

「ねえ、極秘任務の事、なんで知ってるのか教えてくれる?
俺にだけこっそり教えてくれる?今すぐ教えてくれたら、今度二人きりで会ってあげるよ。」

「え⁉︎本当ですか!」

「本当。その代わり一つでも嘘ついたら、もう二度と君と会う事はないね。」

「話します!」

「じゃあ、教えて。君はナタリー王女がいない事を知ってるのはどうして?」

「私…ジャン様がずっと好きだったんです。いつかジャン様と婚約すると心に決めていました。なのにフェリス様がグレン様と婚約して、やっと邪魔者がいなくなったと思ったら、今度はあの王女がジャン様にベッタリなんて噂を聞いて、少し虐めてやろうと思ったんです。
少し怖い目にあえば大人しくなるだろうって。」

「それで何をしたの?」

「だからお金を払ってあの王女を攫ってってお願いしたんです。でも失敗したみたいです。だから私は何もしていません。」

「ねえ、その話し、俺がいる時は必ず話してくれる?」

「え?はい!」

「そう、良かった。じゃあ、行こう!」

「え?どちらへ?あ、今支度を致します!少しお待ち頂けますか?」

「良いよ良いよ、このままで。早く一緒に馬車に乗っていこう。」

「まあ!はい!」


その場にいた執事やお付きの侍女、メイド、ローズマリー以外の全員が呆気にとられていた。
そりゃそうだ、お嬢様が自分で王女の誘拐を金で依頼したと自供したのだ。

侯爵家の馬車で王宮へ行く。

「え?王宮ですか?白騎士団の見学ですか?」

「そんなもんかな…」

グレンと顔を見合わせる。
頭が悪いにも程がある。

馬車を降り、真っ直ぐ白騎士団の取調室に入れた。

「え?え?ここは?ジャン様?ここは何ですか?」

「少しここで待っててくれ。」

「はい!」

自分が捕まった事に気付いていないローズマリーは元気に返事をしている。

グレンと部屋を出て、ランバートの執務室へ行き、ローズマリーを連行した事を報告した。


「え?は?自分から話したの?メアリーを金で依頼して誘拐してもらったって?」

「はい。何の連絡もないから失敗したと思っているようです。誘拐されてないから自分は何もしていないという認識のようです。」

「へ?バカなの?」

「多分間違いなくバカです。今も喜んで付いてきて、取調室でワクワクして俺を待っています。」

「えーーーそんな人いる?」

「はい。俺の前では、さっきの話しを必ず話すと約束させましたから、今からランバート様に一緒に来て頂いて、ローズマリーの供述を確認して頂きたいのです。」

「あーーー分かった。でも、そろそろ気付くでしょ、さすがに。」

「多分、気づいていません。」


それから三人で取調室に入ると、


「え、王太子殿下!本日はチルベル「挨拶はいいよ、今日は。楽にして。」」

「ありがとうございます。」

「ローズマリー嬢、さっきの話しをランバート様に話してくれるかな?
俺の前では必ず話してくれるんだよね?」

「でも…」

「お願い!」

「まあ!ジャン様が私にお願い!
お恥ずかしいですが、お話しさせて頂きます。」

そう言ってランバートにも姫様誘拐の話しをさっきよりも細かく話した。

「話してくれてありがとう。自首するなんて偉いね。でも他国の王女の誘拐だから猶予は与えられないなぁ、ごめんね。
じゃあ、ジャン、グレン拘束して。
チルベル侯爵には登城するよう連絡して。」

「え?自首?」

「だって自主的にここへ来て、自分で誘拐を計画、依頼、監禁の事俺に話したでしょ?
自首以外に何があるの?」

「あの、ジャン様とお出かけでは?」

「ん?ジャンとここまで来たんでしょ?
ちゃんとお出かけしてきたじゃない!
何か不満?」

「え、あの、私は…あの…ジャン様、助けて!」

「さっきも言ったけど名前で呼ぶなと言ったよね。それに一緒に馬車に乗ろうって俺は言ったんだよ。出かけようとは言ってない。」

「そんな!騙したんですか!」

「俺は一つも騙してない。これからは俺が尋問する事もある。その時はは二人きりになる事もあるだろうしな。」

「酷い酷い酷い!」

「ローズマリー・チルベル!
貴様はあろう事か、他国の王女誘拐を企み、監禁しようなどと、戦争のきっかけにもなり得る大事件を起こした事も分かってないのか!
王女は何事もなく助けられたが、実際誘拐され、命を落としかけたのだぞ!
自分は何もしていないなどとよくも言えたものだ!
処罰が下るまで、地下の牢獄で反省しろ!
連れて行け!」

珍しく怒っているランバートが部屋自体がビリビリと揺れそうなほどの威圧を放ちながら、怒鳴った。

顔を真っ青にし、ブルブル震えているローズマリーを衛兵が連れて行った。

「ジャン、グレン、俺の執務室へ来い。」

ランバートが早足で一言も話さず、前を歩いている。

グレンと顔を見合わせ、首を傾げる。

“何でランバート、怒ってるの?”

“知らん”

“え?今から怒られんの?”

“だって怒ってるだろ、アレ”

「お前らな~全部聞こえてるから!」

「「申し訳ありません!」」

「ハア~~怒ってるというか、呆れてる。
ここでは話せないから、執務室まで我慢しろ」


無言でランバートの執務室へ行った。

「お前達ね~俺が直接ローズマリーから話し聞けたから自首として扱えるけど、彼女、未成年なんだから親付き添わせないとダメでしょ?十六歳なんでしょ、まだ。
下手したら処罰されるのはお前らだったの!メアリーの事も有耶無耶にされるとこだったんだよ!」

「ランバートに聞いてもらおうと思ったから連れてきたんだよ。俺達は強制はしてない。喜んでついて来たのは向こうだ。」

「でも、誘ったんだろ、行こうって?」

「それは…」

「ハア、まあ、今回は決め手がなかったから、結果オーライだけど、もうこういうやり方はやめろ!
分かったな!」

「「はい…」」

「そういう事。しかし、あれ、何?ナタリーやメアリーと同い年なの、アレで?
酷すぎて、笑いそうになったよ。」

「でも、一人で王女誘拐なんて考えつきますか?」

「ん?黒幕は別にいそう?」

「少し疑問に思って。あんなにバカなのに、誘拐を思いつくかなって…。
ローズマリーだったら、フェリスにやった事、また王女様にやるくらいしか頭働かないんじゃないかと思うんだよね。」

「確かに…。少し調べさせる。ローズマリーにも、もう一度ちゃんと尋問させる。」



解決したようでしてない感じ。

なんだかモヤモヤして気持ちが悪かった。













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