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「……もう無理。やってられないわ」
私は自室のベッドにダイブし、枕に顔を埋めた。
お菓子の城を建てられ、超激苦ハーブティーを「愛の結晶」に変換され……。
私の「悪役令嬢としてのプライド」は、今やズタズタのボロボロよ。
「お嬢様、またそうやってふて寝を……。せっかくアラリック殿下が、中庭にルト様専用の『バラのアーチ』を増設してくださったというのに」
アンナが呆れたように、シーツを整えながら言った。
「バラのアーチ? どうせまた『ルトの美しさに棘が負けて嫉妬しているよ』とか、寒いセリフを吐きながら植えたんでしょう!?」
「まあ、だいたいその通りです。よくお分かりで」
「ああ、もう! あの王子、本当に私の神経を逆撫でする天才だわ!」
私はガバッと起き上がり、髪を振り乱して叫んだ。
このままではいけない。
攻めてダメなら、引いてみる。
そう、プロットにある通りの『戦略的撤退』よ。
「アンナ、今日から私はこの部屋から一歩も出ないわ。食事もここで、掃除も最低限でいい。いわゆる『引きこもり令嬢』になって、殿下に愛想を尽かさせるのよ!」
「引きこもり、ですか?」
「そうよ。公爵令嬢としての義務をすべて放棄し、自堕落に、怠惰に過ごすの。そんな女、将来の王妃に相応しいわけがないでしょう?」
私は「ふふん」と鼻を鳴らした。
これこそ完璧な作戦だわ。
働かない令嬢なんて、王室からすればお荷物以外の何物でもないはず。
ところが。
「失礼するよ、ルト。体調が優れないと聞いて、居ても立ってもいられなくなってね」
「……は!?」
引きこもりを開始してわずか三時間。
私の部屋の扉が、ノックもそこそこに勢いよく開けられた。
そこに立っていたのは、案の定、心配そうな顔をしたアラリック様だった。
「ど、殿下!? ここは淑女の私室ですわよ! 不法侵入ですわ!」
私はシーツを頭まで被り、中から叫んだ。
「ああ、すまない。だが、君が『公務も社交もすべて投げ出して、部屋に閉じこもっている』と聞いた。……ルト、君はそこまで追い詰められていたんだね」
「追い詰められて……? ええ、そうですわ! 私はもう、何もしたくないんです! 働きたくない! 贅沢三昧して寝ていたいだけなの!」
「……やはり、そうか」
アラリック様は、部屋の入り口で深々と溜息をついた。
よし、呆れたわね!? ついに「なんて怠惰な女だ」って軽蔑するのね!?
「……君は、僕のために、マリア嬢のために、そしてこの国のために、ずっと無理をして『完璧な令嬢』を演じようとしていたんだね。その反動が、今……こうして……!」
アラリック様が、私のベッドの横に膝をついた。
そして、シーツ越しに私の頭を優しく撫でる。
「……え、ちょっと待って。解釈がおかしいわよ」
「いいんだ、ルト。君が『何もしたくない』と言うのは、それほどまでにこれまで心を削って尽くしてきた証拠だ。アンナ、今すぐ城から最高の医師と、精神を安定させる香油を持ってこさせてくれ」
「かしこまりました、殿下。お嬢様の『燃え尽き症候群』、かなり深刻なようですものね」
「アンナまで何言ってるのよ!? 私はただ、怠けたいだけだって言ってるでしょう!?」
私はシーツを剥ぎ取り、アラリック様に食ってかかった。
しかし、彼は潤んだ瞳で私を見つめ、そっと私の手を握った。
「ルト……。君は本当に責任感が強い。そうやって『怠けているだけだ』と自分を悪く言って、周囲に心配をかけまいとする。その自己犠牲の精神、僕は一生忘れないよ」
「……」
ダメだ。この人、日本語……じゃない、この国の言葉が通じないわ。
「見てごらん。君が部屋に閉じこもったと聞いて、マリア嬢もこんなに心配して駆けつけてくれたんだよ」
アラリック様の背後から、マリアさんが涙を流しながら飛び込んできた。
「ルト様ぁぁぁ! 私のせいですね!? 私が昨日、お茶を『美味しい』なんて言ったから、ルト様は『もっと良いものを出さなきゃ』ってプレッシャーで……!!」
「違うのよ、マリアさん。そんな高尚な悩みじゃないの」
「いいえ、わかっています! ルト様は、ご自身の身を削ってまで、周りを幸せにしようとしてくださる。……私、ルト様がゆっくり休めるように、お部屋の外でずっと『ルト様おやすみなさい合唱団』を待機させておきました!」
「……部屋の外がさっきから騒がしいと思ったら、それのせい!?」
窓の外からは、確かに「安らかな眠りを~ルト様に~」という厳かなコーラスが聞こえてくる。
「ルト。君が満足するまで、何日でも、何年でも休むといい。その間の公務は、すべて僕が代行する。君の『休息』という名の国家プロジェクトを、僕が全力でサポートしよう」
アラリック様が、私の手の甲に誓いのキスを落とした。
「(……戦略的撤退、大失敗じゃないのよ……!!)」
むしろ、私が「引きこもる」ことで、王子の仕事が増え、マリアさんの忠誠心が跳ね上がり、私の聖女伝説に「儚げな悲劇のヒロイン」という属性が追加されただけだった。
「……殿下。一つだけ聞いてもいいかしら」
「なんだい、ルト」
「……私、どうすれば嫌われるのかしら?」
「ふふ。君は本当に冗談が好きだね。そんな『不可能』なことを大真面目に聞くなんて、やはり君は僕にとって最高の癒やしだ」
アラリック様の眩しすぎる笑顔に、私は静かに白目を剥いて、再びベッドに沈み込んだ。
自由への道は、さらに霧の中に包まれていくのだった。
私は自室のベッドにダイブし、枕に顔を埋めた。
お菓子の城を建てられ、超激苦ハーブティーを「愛の結晶」に変換され……。
私の「悪役令嬢としてのプライド」は、今やズタズタのボロボロよ。
「お嬢様、またそうやってふて寝を……。せっかくアラリック殿下が、中庭にルト様専用の『バラのアーチ』を増設してくださったというのに」
アンナが呆れたように、シーツを整えながら言った。
「バラのアーチ? どうせまた『ルトの美しさに棘が負けて嫉妬しているよ』とか、寒いセリフを吐きながら植えたんでしょう!?」
「まあ、だいたいその通りです。よくお分かりで」
「ああ、もう! あの王子、本当に私の神経を逆撫でする天才だわ!」
私はガバッと起き上がり、髪を振り乱して叫んだ。
このままではいけない。
攻めてダメなら、引いてみる。
そう、プロットにある通りの『戦略的撤退』よ。
「アンナ、今日から私はこの部屋から一歩も出ないわ。食事もここで、掃除も最低限でいい。いわゆる『引きこもり令嬢』になって、殿下に愛想を尽かさせるのよ!」
「引きこもり、ですか?」
「そうよ。公爵令嬢としての義務をすべて放棄し、自堕落に、怠惰に過ごすの。そんな女、将来の王妃に相応しいわけがないでしょう?」
私は「ふふん」と鼻を鳴らした。
これこそ完璧な作戦だわ。
働かない令嬢なんて、王室からすればお荷物以外の何物でもないはず。
ところが。
「失礼するよ、ルト。体調が優れないと聞いて、居ても立ってもいられなくなってね」
「……は!?」
引きこもりを開始してわずか三時間。
私の部屋の扉が、ノックもそこそこに勢いよく開けられた。
そこに立っていたのは、案の定、心配そうな顔をしたアラリック様だった。
「ど、殿下!? ここは淑女の私室ですわよ! 不法侵入ですわ!」
私はシーツを頭まで被り、中から叫んだ。
「ああ、すまない。だが、君が『公務も社交もすべて投げ出して、部屋に閉じこもっている』と聞いた。……ルト、君はそこまで追い詰められていたんだね」
「追い詰められて……? ええ、そうですわ! 私はもう、何もしたくないんです! 働きたくない! 贅沢三昧して寝ていたいだけなの!」
「……やはり、そうか」
アラリック様は、部屋の入り口で深々と溜息をついた。
よし、呆れたわね!? ついに「なんて怠惰な女だ」って軽蔑するのね!?
「……君は、僕のために、マリア嬢のために、そしてこの国のために、ずっと無理をして『完璧な令嬢』を演じようとしていたんだね。その反動が、今……こうして……!」
アラリック様が、私のベッドの横に膝をついた。
そして、シーツ越しに私の頭を優しく撫でる。
「……え、ちょっと待って。解釈がおかしいわよ」
「いいんだ、ルト。君が『何もしたくない』と言うのは、それほどまでにこれまで心を削って尽くしてきた証拠だ。アンナ、今すぐ城から最高の医師と、精神を安定させる香油を持ってこさせてくれ」
「かしこまりました、殿下。お嬢様の『燃え尽き症候群』、かなり深刻なようですものね」
「アンナまで何言ってるのよ!? 私はただ、怠けたいだけだって言ってるでしょう!?」
私はシーツを剥ぎ取り、アラリック様に食ってかかった。
しかし、彼は潤んだ瞳で私を見つめ、そっと私の手を握った。
「ルト……。君は本当に責任感が強い。そうやって『怠けているだけだ』と自分を悪く言って、周囲に心配をかけまいとする。その自己犠牲の精神、僕は一生忘れないよ」
「……」
ダメだ。この人、日本語……じゃない、この国の言葉が通じないわ。
「見てごらん。君が部屋に閉じこもったと聞いて、マリア嬢もこんなに心配して駆けつけてくれたんだよ」
アラリック様の背後から、マリアさんが涙を流しながら飛び込んできた。
「ルト様ぁぁぁ! 私のせいですね!? 私が昨日、お茶を『美味しい』なんて言ったから、ルト様は『もっと良いものを出さなきゃ』ってプレッシャーで……!!」
「違うのよ、マリアさん。そんな高尚な悩みじゃないの」
「いいえ、わかっています! ルト様は、ご自身の身を削ってまで、周りを幸せにしようとしてくださる。……私、ルト様がゆっくり休めるように、お部屋の外でずっと『ルト様おやすみなさい合唱団』を待機させておきました!」
「……部屋の外がさっきから騒がしいと思ったら、それのせい!?」
窓の外からは、確かに「安らかな眠りを~ルト様に~」という厳かなコーラスが聞こえてくる。
「ルト。君が満足するまで、何日でも、何年でも休むといい。その間の公務は、すべて僕が代行する。君の『休息』という名の国家プロジェクトを、僕が全力でサポートしよう」
アラリック様が、私の手の甲に誓いのキスを落とした。
「(……戦略的撤退、大失敗じゃないのよ……!!)」
むしろ、私が「引きこもる」ことで、王子の仕事が増え、マリアさんの忠誠心が跳ね上がり、私の聖女伝説に「儚げな悲劇のヒロイン」という属性が追加されただけだった。
「……殿下。一つだけ聞いてもいいかしら」
「なんだい、ルト」
「……私、どうすれば嫌われるのかしら?」
「ふふ。君は本当に冗談が好きだね。そんな『不可能』なことを大真面目に聞くなんて、やはり君は僕にとって最高の癒やしだ」
アラリック様の眩しすぎる笑顔に、私は静かに白目を剥いて、再びベッドに沈み込んだ。
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