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「……最近、王宮の空気がおかしいわ」
私は自室で、窓の外を眺めながら不吉な予感に震えていた。
回廊を歩けば、騎士たちが私を見て一斉に敬礼し、「本日もお美しいです、閣下!」と(なぜか閣下呼ばわりで)叫ぶ。
女官たちは私が通り過ぎるたびに、胸に手を当てて「尊い……」と呟きながら崩れ落ちる。
これ、絶対にあのアラリック様とマリアさんが裏で何か仕掛けているわね。
「お嬢様、本日のスケジュールですが……。午後は『ルト様を称える有志の会』の結成式へのご出席を打診されています」
アンナが、事務的な口調で恐ろしいことを言った。
「何よ、その不穏な名前の集まりは! まさか……私を失脚させるための地下組織かしら!?」
「いえ、むしろ逆ですね。お嬢様の『隠れた善行』に心打たれた方々が、自主的に集まったそうです」
「(……やっぱり! あの二人の仕業ね!)」
私は確信した。
このまま放っておけば、私は神格化されてしまう。
今ここでその組織に乗り込み、「私はこんなに傲慢でわがままな女なのよ!」と現実を叩きつけて、組織を内部から解体してやるわ!
私は案内された王宮の大ホールへと向かった。
扉を開けると、そこには百人近い人々が集まっていた。
「……ルト様だ!」
「本物が降臨されたぞ!」
どよめきが起こる。
壇上には、会長席に座るマリアさんと、なぜか名誉顧問のタスキをかけたアラリック様がいた。
「(……予想通りすぎて、突っ込む気力も失せるわね)」
私はズカズカと壇上に上がり、マリアさんの前に立った。
「マリアさん! これは何の真似!? 勝手にこんな組織を作って、私を晒し者にするなんて……。あなたは本当に、救いようのない失礼な女ね!」
私はあえて、会場全体に聞こえるような大声で罵った。
さあ、これだけの人数がいれば、一人くらいは「なんて高慢な女だ」と呆れる人がいるはず。
しかし、会場から返ってきたのは——。
「……っ!! 今の聞いたか?『救いようのない失礼な女』だぞ!」
「ああ……! あえて自分を貶め、我々に厳しい言葉をかけることで、精神の鍛錬を促していらっしゃるんだ!」
「ルト様……! もっと、もっと罵ってください!」
「……は?」
会場が、異様な熱気に包まれた。
マリアさんが、涙を流しながら私の手を握る。
「ルト様……。皆様、今のを聞きましたね!? ルト様は、私たちの活動が『まだ足りない』とおっしゃっているのです! 私たちがルト様の素晴らしさを伝える努力を怠っているから、あえて『失礼な女』と叱ってくださったのですわ!」
「違うわよ、マリアさん。言葉通り、あなたが失礼だって言ってるのよ!」
「ああ、なんて深い愛! ルト様、この会の正式名称を、今ここで決定いたしました!」
マリアさんは高らかに、背後の幕を引いた。
そこには、金文字でこう書かれていた。
『全人類ルト様化計画・秘密結社ルルトン』
「……ルルトン? 何その、ゆるキャラみたいな名前」
「ルト様は、まるでパンのように柔らかく慈悲深い心を持ち、一方でトンのように重厚な威厳をお持ちであるという意味を込めました!」
「(……勝手に私の名前でダジャレを作らないで)」
すると、名誉顧問のアラリック様が立ち上がり、私に優しく微笑みかけた。
「ルト。君がこの会を『晒し者』だと言ったのは、照れ隠しだね。……わかっているよ。君は、自分の影響力が強くなりすぎて、国民が依存してしまうのを危惧しているんだろう?」
「……ええ、そうよ。だから解散しなさい」
「いいや、逆だ。君がそれほどまでに国民を想っていることがわかった以上、僕は国家予算を投じて、この『ルルトン』を公式の騎士団として認可することに決めた」
「……は?」
「ルト様直属騎士団、ルルトン! かっこいいではありませんか、殿下!」
「ああ。彼女の『美徳』を、武力をもって世界に知らしめるんだ」
「(……戦争になるわよ! 私の評判のせいで世界大戦が起きちゃうじゃないの!)」
私は、壇上で崩れ落ちそうになった。
傲慢に振る舞えば「精神の鍛錬」と言われ。
解散を命じれば「国民への配慮」と取られ。
挙句の果てには、私の名前を冠した騎士団まで結成されてしまった。
「ルト様! さあ、会員たちに最初のご命令を!」
マリアさんが、マイクを突き出してきた。
私は最後の手として、全力で嫌な命令を出してやることにした。
「……わかったわ。私の命令はただ一つ。今すぐ、この部屋にあるお菓子を全部食べ尽くしなさい! 一切れも残さず、デブになりなさい!」
これよ! これなら、ただの「食い意地の張った女」だと思われるはず!
「……っ!!」
会場にいた騎士や女官たちが、一斉に涙を流した。
「……ルト様。我々が、最近の公務で食事を抜いていることを知って、あえて『食べろ』と命じてくださるなんて……」
「『デブになれ』というのは、『蓄えを作って健康になれ』という意味ですね!」
「ルト様ぁぁぁ!! いただきます!!」
凄まじい勢いでケーキを貪り始める人々。
そこには、私の想像した「呆れた視線」など微塵もなかった。
「ルト。君は本当に、人の胃袋まで掴んでしまうんだね。……僕も、君の愛でお腹いっぱいにされたいよ」
アラリック様が、私の腰に手を回して囁いた。
「(……誰か、助けて。この世界、私の味方が一人もいないわ……!!)」
私の「嫌われ令嬢」への道は、公式騎士団「ルルトン」の誕生により、完全に閉ざされたのだった。
私は自室で、窓の外を眺めながら不吉な予感に震えていた。
回廊を歩けば、騎士たちが私を見て一斉に敬礼し、「本日もお美しいです、閣下!」と(なぜか閣下呼ばわりで)叫ぶ。
女官たちは私が通り過ぎるたびに、胸に手を当てて「尊い……」と呟きながら崩れ落ちる。
これ、絶対にあのアラリック様とマリアさんが裏で何か仕掛けているわね。
「お嬢様、本日のスケジュールですが……。午後は『ルト様を称える有志の会』の結成式へのご出席を打診されています」
アンナが、事務的な口調で恐ろしいことを言った。
「何よ、その不穏な名前の集まりは! まさか……私を失脚させるための地下組織かしら!?」
「いえ、むしろ逆ですね。お嬢様の『隠れた善行』に心打たれた方々が、自主的に集まったそうです」
「(……やっぱり! あの二人の仕業ね!)」
私は確信した。
このまま放っておけば、私は神格化されてしまう。
今ここでその組織に乗り込み、「私はこんなに傲慢でわがままな女なのよ!」と現実を叩きつけて、組織を内部から解体してやるわ!
私は案内された王宮の大ホールへと向かった。
扉を開けると、そこには百人近い人々が集まっていた。
「……ルト様だ!」
「本物が降臨されたぞ!」
どよめきが起こる。
壇上には、会長席に座るマリアさんと、なぜか名誉顧問のタスキをかけたアラリック様がいた。
「(……予想通りすぎて、突っ込む気力も失せるわね)」
私はズカズカと壇上に上がり、マリアさんの前に立った。
「マリアさん! これは何の真似!? 勝手にこんな組織を作って、私を晒し者にするなんて……。あなたは本当に、救いようのない失礼な女ね!」
私はあえて、会場全体に聞こえるような大声で罵った。
さあ、これだけの人数がいれば、一人くらいは「なんて高慢な女だ」と呆れる人がいるはず。
しかし、会場から返ってきたのは——。
「……っ!! 今の聞いたか?『救いようのない失礼な女』だぞ!」
「ああ……! あえて自分を貶め、我々に厳しい言葉をかけることで、精神の鍛錬を促していらっしゃるんだ!」
「ルト様……! もっと、もっと罵ってください!」
「……は?」
会場が、異様な熱気に包まれた。
マリアさんが、涙を流しながら私の手を握る。
「ルト様……。皆様、今のを聞きましたね!? ルト様は、私たちの活動が『まだ足りない』とおっしゃっているのです! 私たちがルト様の素晴らしさを伝える努力を怠っているから、あえて『失礼な女』と叱ってくださったのですわ!」
「違うわよ、マリアさん。言葉通り、あなたが失礼だって言ってるのよ!」
「ああ、なんて深い愛! ルト様、この会の正式名称を、今ここで決定いたしました!」
マリアさんは高らかに、背後の幕を引いた。
そこには、金文字でこう書かれていた。
『全人類ルト様化計画・秘密結社ルルトン』
「……ルルトン? 何その、ゆるキャラみたいな名前」
「ルト様は、まるでパンのように柔らかく慈悲深い心を持ち、一方でトンのように重厚な威厳をお持ちであるという意味を込めました!」
「(……勝手に私の名前でダジャレを作らないで)」
すると、名誉顧問のアラリック様が立ち上がり、私に優しく微笑みかけた。
「ルト。君がこの会を『晒し者』だと言ったのは、照れ隠しだね。……わかっているよ。君は、自分の影響力が強くなりすぎて、国民が依存してしまうのを危惧しているんだろう?」
「……ええ、そうよ。だから解散しなさい」
「いいや、逆だ。君がそれほどまでに国民を想っていることがわかった以上、僕は国家予算を投じて、この『ルルトン』を公式の騎士団として認可することに決めた」
「……は?」
「ルト様直属騎士団、ルルトン! かっこいいではありませんか、殿下!」
「ああ。彼女の『美徳』を、武力をもって世界に知らしめるんだ」
「(……戦争になるわよ! 私の評判のせいで世界大戦が起きちゃうじゃないの!)」
私は、壇上で崩れ落ちそうになった。
傲慢に振る舞えば「精神の鍛錬」と言われ。
解散を命じれば「国民への配慮」と取られ。
挙句の果てには、私の名前を冠した騎士団まで結成されてしまった。
「ルト様! さあ、会員たちに最初のご命令を!」
マリアさんが、マイクを突き出してきた。
私は最後の手として、全力で嫌な命令を出してやることにした。
「……わかったわ。私の命令はただ一つ。今すぐ、この部屋にあるお菓子を全部食べ尽くしなさい! 一切れも残さず、デブになりなさい!」
これよ! これなら、ただの「食い意地の張った女」だと思われるはず!
「……っ!!」
会場にいた騎士や女官たちが、一斉に涙を流した。
「……ルト様。我々が、最近の公務で食事を抜いていることを知って、あえて『食べろ』と命じてくださるなんて……」
「『デブになれ』というのは、『蓄えを作って健康になれ』という意味ですね!」
「ルト様ぁぁぁ!! いただきます!!」
凄まじい勢いでケーキを貪り始める人々。
そこには、私の想像した「呆れた視線」など微塵もなかった。
「ルト。君は本当に、人の胃袋まで掴んでしまうんだね。……僕も、君の愛でお腹いっぱいにされたいよ」
アラリック様が、私の腰に手を回して囁いた。
「(……誰か、助けて。この世界、私の味方が一人もいないわ……!!)」
私の「嫌われ令嬢」への道は、公式騎士団「ルルトン」の誕生により、完全に閉ざされたのだった。
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