ただ、嫌われたかっただけなんです。婚約破棄を望みます。

ちゅんりー

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「……ルト、君は最近、少し様子がおかしいね」

アラリック様が、悲しげな瞳で私を見つめながら言った。

「やっと気づきましたか! そうなんです、私はおかしいんです! 人格が破綻しているんですわ!」

私はこれ幸いと、身を乗り出して叫んだ。
ついに来た。私の「奇行」が、ついに王子の理性に届いたのね。

「ああ。自分のことを『悪女』だと思い込み、周囲に嫌がらせをしようとして、結果的にみんなを幸せにしてしまう……。これはもう、個人の努力でどうにかなるレベルじゃない」

「……え?」

「君は、あまりにも優しすぎるあまり、脳が『善行』を『悪行』だと誤認してしまっているんだね。……僕は心配だよ、ルト」

アラリック様はパチンと指を鳴らした。
すると、部屋の扉が開き、白衣を着た老人たちと、怪しげな水晶玉を持った女性がゾロゾロと入ってきた。

「こ、これは何ですの?」

「国中の名医、そして大陸一の占い師だ。君のその『謙虚すぎる病』を治すために、集まってもらったよ」

「(……謙虚すぎる病!? そんな病名、医学書にあるわけないでしょう!)」

私は、無理やり椅子に座らされた。
まずは名医たちが、私の脈を測ったり、瞳孔を確認したりし始める。

「……ふむ。体調は万全。しかし、この『聖女オーラ』の強さは異常ですな。おそらく、過剰な慈悲心が体内で凝縮され、自己防衛のために『私は悪い女だ』という妄想を生み出しているのでしょう」

「先生、それって要するに『健康』ってことじゃないかしら?」

「いいえ! 『聖女疲労(セイント・ファティーグ)』です! ルト様、もっと自分を甘やかしてください!」

「(……ダメだわ。医者までルルトンの会員なんじゃないかしら)」

次は、占い師の女性が私の前に座った。
彼女は水晶玉を覗き込み、何やらブツブツと呪文を唱え始めた。

「……見える。見えますよ……。貴女の魂の、深淵にある真実が……!」

「(……来たわ! この展開なら、『この女の魂は邪悪に染まっている!』とか言ってくれるはずよ!)」

私は期待に胸を膨らませた。
占い師はガタガタと震えだし、叫ぶように予言を口にした。

「おお……! この魂の輝き! もしや貴女は、前世で……」

「ストップ!!」

私は全力で、占い師の口を両手で塞いだ。

「占い師さん、いい? この物語において『前世』の話はタブーなのよ! そんな設定を持ち出したら、話がややこしくなるでしょう!?」

「……むぐ、むぐぐ!?」

「前世の話は禁止! 過去生も、来世も、転生もダメ! 今の私だけを見て、今の私の邪悪さを占いなさい!」

私が必死に叫ぶと、周囲から「おお……」と溜息が漏れた。

「……なんてことだ。ルトは、自らの『前世からの功徳』さえも否定して、今世の自分の力だけで人々を救おうとしているのか……」

アラリック様が、目頭を押さえて感動している。
……解釈! 誰か彼の解釈を止めて!

「占い師よ、続けなさい。前世の話がダメなら、彼女の『本性』はどうなっている?」

占い師は、私の手の隙間から息も絶え絶えに答えた。

「……彼女の本性は……『純真無垢な愛』そのものです。彼女が『悪』を演じようとするたびに、世界に幸運が振り撒かれる……。これはもはや、神の祝福としか言いようがありません……!」

「(……神の祝福。それ、私にとっては呪い以外の何物でもないんだけど)」

私は、力なく椅子に沈み込んだ。

名医には「聖女」と診断され。
占い師には「愛の化身」と予言され。
アラリック様には、さらに深く愛される。

「ルト。君がどれだけ『自分は悪い女だ』と嘘をついても、専門家たちがそれを否定してくれた。……もう、諦めて幸せになるんだ」

アラリック様が、優しく私の頬を撫でる。

「……ねえ、殿下。一つだけ聞いていい?」

「なんだい?」

「……私、この状況から逃げるために、他国へ亡命したらどうなるかしら?」

「ふふ。君が他国へ行けば、その国は瞬く間に繁栄し、我が国の一部になりたがるだろうね。……つまり、僕たちの領土が広がるだけだよ」

「(……逃げ場がない)」

私の「精神鑑定」は、私の「絶対的聖女」という地位を、科学と神秘の両面から証明するという最悪の結果に終わった。

自由への道は、もはやこの世界の理(ことわり)そのものによって、消し去られようとしていた。
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