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「……もう、これしかないわ。究極の不祥事よ」
私は自室で、わざとらしくやつれた表情を鏡で作っていた。
経済を回そうとした(と誤解された)件で、私の口座には今、国家予算レベルの「お小遣い」が唸っている。
皮肉なことに、金銭的な力を持てば持つほど、私の発言権は強まり、婚約破棄から遠ざかっていく。
ならば、その金に「汚名」を着せるしかない。
「お嬢様、今度は何を自白されるおつもりで? もう、大抵のことでは驚きませんよ」
アンナが、冷めた紅茶を入れ替えながら言った。
「フフ……。今回はレベルが違うわよ、アンナ。私は今日、アラリック様の前で『国庫の金を横領した』と自供するのよ!」
「横領、ですか」
「そうよ!『経済対策』なんて名目は全部嘘で、実は私利私欲のために公金を隠し持っていた……。これなら、さすがの殿下も私を軽蔑し、公職追放と婚約破棄を命じるはずだわ!」
私は、わざと震える足取りで王宮の謁見の間へと向かった。
そこにはアラリック様だけでなく、主要な大臣たち、そして相変わらずのマリアさんもいた。
衆人環視の中での自白。これこそ、逃げ場のない断罪の場よ!
「……殿下! 皆様! お聞きください……っ!」
私は膝から崩れ落ちるようにして、その場に跪いた。
「どうしたんだい、ルト!? そんなに顔色を悪くして……」
アラリック様が駆け寄ろうとするのを、私は手で制した。
「来ないでください! 私は、私は最低な女なのです……。実は、先日認可されたあの多額の予算……。私はあれを、国のための投資ではなく、自分の贅沢品を買うために……国庫から『横領』したのですわ!」
会場に、しんと静まり返った沈黙が流れた。
よし、来た! この冷ややかな空気! これよ、私が求めていたのは!
「……驚きましたわ、ルト様」
マリアさんが、震える声で口を開いた。
さあ、言いなさい!「なんて破廉恥な!」と叫びなさい!
「まさか……ルト様が、そこまでして『殿下のメンツ』を守ろうとされていたなんて……!!」
「……は?」
マリアさんは、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「皆様、わかりませんか!? ルト様は、本当は殿下が『ルト様へのプレゼント代』として国庫を使い込んでいるのではないかという不名誉な噂を、ご自身が『横領した』と嘘をつくことで被ろうとしているのですわ!」
「な、何を言っているの!? 私は本当に自分のために盗んだのよ!」
私が必死に否定すると、今度はアラリック様がガタガタと震えだした。
「……ルト。君という人は、どこまで僕を救えば気が済むんだ。……実は、僕も自白しなければならないことがある」
アラリック様は、大臣たちの前で深々と頭を下げた。
「実は、ルトの言う通り、公金に不足が出ていたのは事実だ。だが、それはルトが盗んだのではない。……僕が、ルトに内緒で彼女の誕生日のために『世界中の青いバラ』を買い占めようとして、ついポケットマネー(という名の公金の一部)を使い込んでしまったんだ!」
「……えっ」
「ルトはそれを察して、僕が弾劾されないように、わざと自分が『横領した』と名乗り出てくれたんだね。……ルト、君をこんなに苦しめてしまうなんて、僕は王子失格だ!」
アラリック様は、私の手を握りしめて号泣した。
……ちょっと待ちなさいよ。殿下、あなた本当に横領……いえ、公金を使い込んでいたの!?
「おお……なんと尊い愛の身代わり……」
「殿下も殿下だが、ルト様のその献身! これぞ真の王妃の器だ!」
大臣たちが、一斉にハンカチで涙を拭い、拍手を送り始めた。
「(……なんで!? どうして私が『横領した』って言ってるのに、王子の『愛の使い込み』を庇った美談になってるのよ!?)」
「ルト! 君の優しさに報いるため、僕は誓う。使い込んだ分は僕の給料を一生カットして補填する! そして、君には『国庫を管理する全権』を与えよう。君なら、一リーブルの無駄も出さずに国を豊かにしてくれるはずだ!」
「……はぁぁぁぁ!?」
横領を自白した結果、なぜか私は「国家財政の最高責任者」に任命されてしまった。
「ルト様! 私も、ルト様の清廉潔白さを証明するために、一生かけて帳簿をつけ続けますわ!」
マリアさんの熱い眼差しが、私の魂を焼き尽くさんばかりに注がれる。
私は、豪華な絨毯の上で力なく倒れ込んだ。
不祥事を起こせば「愛の身代わり」と讃えられ。
罪を被れば「国家の守護神」と崇められ。
挙句の果てに、さらに大きな責任(仕事)を押し付けられる。
「(……ねえ、誰か。本当に誰か。私を一人にして。……もう、お金の計算なんてしたくないわよ……!!)」
私の「自白作戦」は、王子のうっかりミスを隠蔽し、私を最強の権力者へと押し上げるという、最悪のハッピーエンドを招いてしまった。
私は自室で、わざとらしくやつれた表情を鏡で作っていた。
経済を回そうとした(と誤解された)件で、私の口座には今、国家予算レベルの「お小遣い」が唸っている。
皮肉なことに、金銭的な力を持てば持つほど、私の発言権は強まり、婚約破棄から遠ざかっていく。
ならば、その金に「汚名」を着せるしかない。
「お嬢様、今度は何を自白されるおつもりで? もう、大抵のことでは驚きませんよ」
アンナが、冷めた紅茶を入れ替えながら言った。
「フフ……。今回はレベルが違うわよ、アンナ。私は今日、アラリック様の前で『国庫の金を横領した』と自供するのよ!」
「横領、ですか」
「そうよ!『経済対策』なんて名目は全部嘘で、実は私利私欲のために公金を隠し持っていた……。これなら、さすがの殿下も私を軽蔑し、公職追放と婚約破棄を命じるはずだわ!」
私は、わざと震える足取りで王宮の謁見の間へと向かった。
そこにはアラリック様だけでなく、主要な大臣たち、そして相変わらずのマリアさんもいた。
衆人環視の中での自白。これこそ、逃げ場のない断罪の場よ!
「……殿下! 皆様! お聞きください……っ!」
私は膝から崩れ落ちるようにして、その場に跪いた。
「どうしたんだい、ルト!? そんなに顔色を悪くして……」
アラリック様が駆け寄ろうとするのを、私は手で制した。
「来ないでください! 私は、私は最低な女なのです……。実は、先日認可されたあの多額の予算……。私はあれを、国のための投資ではなく、自分の贅沢品を買うために……国庫から『横領』したのですわ!」
会場に、しんと静まり返った沈黙が流れた。
よし、来た! この冷ややかな空気! これよ、私が求めていたのは!
「……驚きましたわ、ルト様」
マリアさんが、震える声で口を開いた。
さあ、言いなさい!「なんて破廉恥な!」と叫びなさい!
「まさか……ルト様が、そこまでして『殿下のメンツ』を守ろうとされていたなんて……!!」
「……は?」
マリアさんは、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「皆様、わかりませんか!? ルト様は、本当は殿下が『ルト様へのプレゼント代』として国庫を使い込んでいるのではないかという不名誉な噂を、ご自身が『横領した』と嘘をつくことで被ろうとしているのですわ!」
「な、何を言っているの!? 私は本当に自分のために盗んだのよ!」
私が必死に否定すると、今度はアラリック様がガタガタと震えだした。
「……ルト。君という人は、どこまで僕を救えば気が済むんだ。……実は、僕も自白しなければならないことがある」
アラリック様は、大臣たちの前で深々と頭を下げた。
「実は、ルトの言う通り、公金に不足が出ていたのは事実だ。だが、それはルトが盗んだのではない。……僕が、ルトに内緒で彼女の誕生日のために『世界中の青いバラ』を買い占めようとして、ついポケットマネー(という名の公金の一部)を使い込んでしまったんだ!」
「……えっ」
「ルトはそれを察して、僕が弾劾されないように、わざと自分が『横領した』と名乗り出てくれたんだね。……ルト、君をこんなに苦しめてしまうなんて、僕は王子失格だ!」
アラリック様は、私の手を握りしめて号泣した。
……ちょっと待ちなさいよ。殿下、あなた本当に横領……いえ、公金を使い込んでいたの!?
「おお……なんと尊い愛の身代わり……」
「殿下も殿下だが、ルト様のその献身! これぞ真の王妃の器だ!」
大臣たちが、一斉にハンカチで涙を拭い、拍手を送り始めた。
「(……なんで!? どうして私が『横領した』って言ってるのに、王子の『愛の使い込み』を庇った美談になってるのよ!?)」
「ルト! 君の優しさに報いるため、僕は誓う。使い込んだ分は僕の給料を一生カットして補填する! そして、君には『国庫を管理する全権』を与えよう。君なら、一リーブルの無駄も出さずに国を豊かにしてくれるはずだ!」
「……はぁぁぁぁ!?」
横領を自白した結果、なぜか私は「国家財政の最高責任者」に任命されてしまった。
「ルト様! 私も、ルト様の清廉潔白さを証明するために、一生かけて帳簿をつけ続けますわ!」
マリアさんの熱い眼差しが、私の魂を焼き尽くさんばかりに注がれる。
私は、豪華な絨毯の上で力なく倒れ込んだ。
不祥事を起こせば「愛の身代わり」と讃えられ。
罪を被れば「国家の守護神」と崇められ。
挙句の果てに、さらに大きな責任(仕事)を押し付けられる。
「(……ねえ、誰か。本当に誰か。私を一人にして。……もう、お金の計算なんてしたくないわよ……!!)」
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