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「……いよいよ、外堀が埋まってきたわね」
私は実家である公爵邸の自室で、重厚な招待状の山を前に戦慄していた。
先日の「手掴み晩餐会」の結果、私は『形式に囚われない真理の追求者』として、各国の外交官からも一目置かれる存在になってしまった。
おかげで、私の元には「ぜひ我が国のマナー改革に知恵を貸してほしい」という、わけのわからない招待状が殺到している。
もう、逃げ場がないわ。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。……かなり『重大なお話』があるとか」
アンナが、いつになく真面目な顔で私の元へ来た。
「(重大なお話……。来たわ! これよ!)」
私は確信した。
父様は、私のあまりにも奇行続きな振る舞いに、ついに堪忍袋の緒が切れたのだ。
「公爵家の名に泥を塗りおって! 婚約破棄だ、勘当だ!」
ああ、なんて甘美な響きかしら。
私は鼻歌まじりに父様の執務室へと向かった。
扉を開けると、そこには厳格な面持ちの父様、アステリア公爵が座っていた。
「……ルト。座りなさい」
「はい、お父様。……ふふ、お説教ならたっぷり伺いますわよ。私はご覧の通り、手に負えない悪女ですもの!」
私はあえて、父様の愛読書である高価な古書の上にどっかと腰を下ろした。
さあ、怒りなさい! 「本を何だと思っている!」と叫びなさい!
しかし、父様は私の無礼な態度を無視し、一枚の書類を差し出してきた。
「ルト。国王陛下から、正式に『成婚の儀』の日程調整に入りたいと打診があった」
「……は?」
「お前のこれまでの功績……。経済対策、教育改革、そして外交マナーの刷新。陛下は『これほどまでに有能な王妃は、歴史上類を見ない』と大絶賛だ。……ルト。私はお前を誇りに思うよ」
父様の瞳が、じわりと潤んでいる。
……待って。お父様まで「良い人フィルター」を装着しているの?
「誇り!? 何を言っているの、お父様! 私はわざとマナーを破り、公金を使い込み、ハニートラップまで仕掛けたのよ!? 私はアステリア家の面汚しだわ! さあ、今すぐ私を勘当して、平民に落としてちょうだい!」
私は机を叩き、必死に自分を貶めた。
これこそが娘として、最後の「親不孝」のつもりだった。
ところが、父様は深く溜息をつき、私の手を優しく取った。
「ルト……。お前は、どこまで家族思いなんだ」
「……え?」
「お前は、自分が王妃になれば、アステリア公爵家の権力が強まりすぎて、王家を圧迫することを危惧しているんだろう? だから、あえて自分を『悪女』に見せて、家を守ろうとしている……。その自己犠牲の精神、まさに亡き母にそっくりだ」
「……」
お母様、どんな聖母だったのよ。
「だが、心配はいらない。国王陛下もアラリック殿下も、お前のその『計算された悪女芝居』をすべて理解した上で、君が必要だとおっしゃっているんだ」
「(……芝居じゃないのよ! 本気なのよ!)」
そこへ、ノックもなしに扉が開いた。
現れたのは、キラキラとしたオーラを全開にしたアラリック様と、メモ帳を構えたマリアさんだ。
「ルト! 義父上殿からお話は聞いたかい? いよいよ、僕たちの愛が形になる日が決まったよ!」
「おめでとうございます、ルト様! 私、すでにウェディングドレスの『ファンクラブ限定モデル』のデザイン案を百通り用意しましたわ!」
マリアさんが、私の目の前で怪しげなスケッチを広げる。
「アラリック殿下。娘は、自分が家のお荷物になることを恐れて、勘当してくれとまで……」
父様が涙ながらに告げると、アラリック様は私の肩を強く抱き寄せた。
「ルト……。君は本当に、健気で愛おしい女性だ。君が『お荷物』だなんて、とんでもない。君は、僕という太陽を支える、唯一無二の大地なんだ。……さあ、結婚しよう。君が望むなら、毎日『勘当ごっこ』をしてもいい。だが、僕の隣からは一歩も出さないよ」
「……」
アラリック様の瞳には、逃げ場を完全に塞ぐタイプの「重すぎる愛」が満ちていた。
「(……お父様、アラリック様、マリアさん。……誰か、一人くらい私の本当の『悪』を見てよ……!!)」
私は、父様の執務室で力なく膝をついた。
勘当を求めれば「家族愛」と解釈され。
悪女を自称すれば「計算された自己犠牲」と讃えられ。
結果として、結婚への秒読みが加速した。
「(……ねえ、これ、もうホラーじゃないの……!?)」
私の「勘当要請作戦」は、アステリア家と王家の絆をより一層深め、私の「聖女伝説」に「親孝行な娘」という完璧な属性を追加してしまったのだった。
私は実家である公爵邸の自室で、重厚な招待状の山を前に戦慄していた。
先日の「手掴み晩餐会」の結果、私は『形式に囚われない真理の追求者』として、各国の外交官からも一目置かれる存在になってしまった。
おかげで、私の元には「ぜひ我が国のマナー改革に知恵を貸してほしい」という、わけのわからない招待状が殺到している。
もう、逃げ場がないわ。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。……かなり『重大なお話』があるとか」
アンナが、いつになく真面目な顔で私の元へ来た。
「(重大なお話……。来たわ! これよ!)」
私は確信した。
父様は、私のあまりにも奇行続きな振る舞いに、ついに堪忍袋の緒が切れたのだ。
「公爵家の名に泥を塗りおって! 婚約破棄だ、勘当だ!」
ああ、なんて甘美な響きかしら。
私は鼻歌まじりに父様の執務室へと向かった。
扉を開けると、そこには厳格な面持ちの父様、アステリア公爵が座っていた。
「……ルト。座りなさい」
「はい、お父様。……ふふ、お説教ならたっぷり伺いますわよ。私はご覧の通り、手に負えない悪女ですもの!」
私はあえて、父様の愛読書である高価な古書の上にどっかと腰を下ろした。
さあ、怒りなさい! 「本を何だと思っている!」と叫びなさい!
しかし、父様は私の無礼な態度を無視し、一枚の書類を差し出してきた。
「ルト。国王陛下から、正式に『成婚の儀』の日程調整に入りたいと打診があった」
「……は?」
「お前のこれまでの功績……。経済対策、教育改革、そして外交マナーの刷新。陛下は『これほどまでに有能な王妃は、歴史上類を見ない』と大絶賛だ。……ルト。私はお前を誇りに思うよ」
父様の瞳が、じわりと潤んでいる。
……待って。お父様まで「良い人フィルター」を装着しているの?
「誇り!? 何を言っているの、お父様! 私はわざとマナーを破り、公金を使い込み、ハニートラップまで仕掛けたのよ!? 私はアステリア家の面汚しだわ! さあ、今すぐ私を勘当して、平民に落としてちょうだい!」
私は机を叩き、必死に自分を貶めた。
これこそが娘として、最後の「親不孝」のつもりだった。
ところが、父様は深く溜息をつき、私の手を優しく取った。
「ルト……。お前は、どこまで家族思いなんだ」
「……え?」
「お前は、自分が王妃になれば、アステリア公爵家の権力が強まりすぎて、王家を圧迫することを危惧しているんだろう? だから、あえて自分を『悪女』に見せて、家を守ろうとしている……。その自己犠牲の精神、まさに亡き母にそっくりだ」
「……」
お母様、どんな聖母だったのよ。
「だが、心配はいらない。国王陛下もアラリック殿下も、お前のその『計算された悪女芝居』をすべて理解した上で、君が必要だとおっしゃっているんだ」
「(……芝居じゃないのよ! 本気なのよ!)」
そこへ、ノックもなしに扉が開いた。
現れたのは、キラキラとしたオーラを全開にしたアラリック様と、メモ帳を構えたマリアさんだ。
「ルト! 義父上殿からお話は聞いたかい? いよいよ、僕たちの愛が形になる日が決まったよ!」
「おめでとうございます、ルト様! 私、すでにウェディングドレスの『ファンクラブ限定モデル』のデザイン案を百通り用意しましたわ!」
マリアさんが、私の目の前で怪しげなスケッチを広げる。
「アラリック殿下。娘は、自分が家のお荷物になることを恐れて、勘当してくれとまで……」
父様が涙ながらに告げると、アラリック様は私の肩を強く抱き寄せた。
「ルト……。君は本当に、健気で愛おしい女性だ。君が『お荷物』だなんて、とんでもない。君は、僕という太陽を支える、唯一無二の大地なんだ。……さあ、結婚しよう。君が望むなら、毎日『勘当ごっこ』をしてもいい。だが、僕の隣からは一歩も出さないよ」
「……」
アラリック様の瞳には、逃げ場を完全に塞ぐタイプの「重すぎる愛」が満ちていた。
「(……お父様、アラリック様、マリアさん。……誰か、一人くらい私の本当の『悪』を見てよ……!!)」
私は、父様の執務室で力なく膝をついた。
勘当を求めれば「家族愛」と解釈され。
悪女を自称すれば「計算された自己犠牲」と讃えられ。
結果として、結婚への秒読みが加速した。
「(……ねえ、これ、もうホラーじゃないの……!?)」
私の「勘当要請作戦」は、アステリア家と王家の絆をより一層深め、私の「聖女伝説」に「親孝行な娘」という完璧な属性を追加してしまったのだった。
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