ただ、嫌われたかっただけなんです。婚約破棄を望みます。

ちゅんりー

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「……ふふ、ふふふ。勝ったわ。今日こそ、私は勝利するのよ」

私は鏡に映る自分の姿を見て、会心の笑みを浮かべた。

今日の私は、頭から爪先まで、救いようのないほど「真っ黒」だ。
装飾も、レースも、煌びやかな宝石も一切なし。
まるでお葬式に参列するかのような、あるいは不吉な予兆を運ぶ死神のような、重苦しい黒一色のドレス。

お祝いの「婚約継続パーティー」に、こんな不謹慎な格好で現れる令嬢がどこにいるかしら?
これこそが不敬。これこそが、王家に対する最大の侮辱だわ!

「お嬢様……。本当にその格好で行かれるのですか? 周りはみんな、お花畑のようなパステルカラーですよ」

アンナが、遠い目をして私の背後に立っている。

「いいのよ、アンナ! この『喪服』こそが、私と殿下の関係の終わりを告げるファンファーレなのよ! さあ、地獄のパーティーへ出発しましょう!」

私は意気揚々と馬車に乗り込み、会場へと向かった。

王宮の大広間は、すでに多くの貴族たちで埋め尽くされていた。
華やかなドレス、高らかな笑い声、シャンパンの泡。
そんな幸福の絶頂にある空間へ、私は「漆黒の塊」として足を踏み入れた。

一瞬で、会場の空気が凍りついた。
音楽が止まり、貴族たちが手に持ったグラスを止めて、私を凝視する。

「(……来たわ! この拒絶! この不快感! さあ、誰か叫びなさい!『なんて不吉な女だ!』って!)」

私はあえて、不敵な笑みを浮かべて中央へと歩み寄った。
正面には、白銀の礼服に身を包んだアラリック様と、ピンクのドレスで着飾ったマリアさんが待っている。

「ルト……。君、その格好は……」

アラリック様が、震える声で私を見つめた。
さあ、怒りなさい! 「僕たちのお祝いを汚すつもりか!」と激怒してちょうだい!

ところが。

「……っ!! なんてことだ! ルト、君は……どこまでストイックなんだ!」

「……は?」

アラリック様は、感極まったように膝をつき、私の「黒い手袋」をはめた手を捧げ持った。

「君は、このパーティーが浮かれただけの場にならないよう、あえて『黒』を纏うことで、王妃としての重責と覚悟を表現しているんだね! 華やかな色彩をすべて捨て去り、僕一人に染まる準備ができているという、無言のメッセージ……!」

「違います。ただの喪服です。お葬式気分なんです」

「ああ、そうか! これまでの『独身だった自分』への別れを告げる葬儀、という意味だね! そして新たな僕たちの門出……。ルト、君の演出力は、もはや芸術の域を超えているよ!」

マリアさんが、鼻血を出しそうな勢いでメモを書きなぐりながら叫んだ。

「素晴らしいです、ルト様! 皆様、ご覧ください! この黒は、あらゆる光を吸収し、さらに強く輝くための『慈悲の闇』ですわ! ルト様は、派手な服を買えない貧しい民の心に寄り添うために、あえて色を捨てられたのです!!」

「……え、ちょっと待って。そんな高尚な理由じゃないわよ」

「……おおお!」
「なんて奥ゆかしいんだ!」
「『ルト・ブラック』……。これこそが、真の貴族が選ぶべき、謙虚な色だ!」

会場の令嬢たちが、次々に自分のカラフルなショールを脱ぎ捨て、黒い裏地を表にし始めた。
ものの数分で、華やかだったパーティー会場は、シックで落ち着いた「モノトーンの集い」へと変貌してしまった。

「ルト。君のおかげで、我が国のファッションに『革命』が起きた。これから、黒は『忠誠と覚悟』の色として、国の正装に認定しよう」

「……はぁぁぁぁ!?」

アラリック様は、満足げに私の腰を引き寄せた。

「(……なんで!? 喪服で出席して、なんで流行の最先端扱いなのよ!?)」

不吉な服装をすれば「覚悟の象徴」と言われ。
お祝いを台無しにしようとすれば「マナーの新基準」と讃えられ。
挙句の果てには、国中のドレスが黒一色に染まってしまった。

「(……ねえ、誰か。本当に誰か一人くらい、私を『縁起でもない女』って罵ってよ……!!)」

私の「喪服乱入作戦」は、王国の服飾文化を完全に黒塗りし、私の「聖女伝説」に「流行を支配するカリスマ王妃」という新たな属性を加えてしまった。

自由への道は、漆黒のドレスの裾に絡め取られ、もう一歩も動けなくなっていた。
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